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天才教師が魔法世界で救世主になる物語  作者: 松風京四郎
第一章 魔法世界の救世主編
19/70

5人の愚者

災厄の巨龍がもたらした被害は、想像以上に甚大なものであった。

自分のキャパシティを超える魔法を使ったものは倒れ、資源や食料は全体の半分以上が消失してしまった。

「みんな、大丈夫か?」

そう訴えるのは、指令を張り切って出していた男だ。

「何人か犠牲になっている…」

何処かから、そんな訴えが虚しく響いてきた。

「そうか」

魔法の使いすぎによる栄養失調で、全体の1パーセント程が、餓死をしてしまったようだ。

「うわぁぁぁぁぁ!」

犠牲になった者の家族や友人が、(むせ)び泣いていた。

豊かな楽園のような集落を、漆黒の龍は、たった一日で地獄絵図に変えてしまった。

ただただ、それが当然であるかのように……。

決まりきった、運命であるかのように……。

「皆に、伝えたいことがある」

そう伝えてくるのは、集落の長に近い存在の老人であった。

「我々は、此度(こたび)の戦いで、あらゆるものを失った。二度と取り戻すこともできないものもだ」

彼の真剣な語りは、自然に周囲を静かにさせた。

「そこで、だ。誠に遺憾ではあるが、我々の住処を移動しようと考えている」

辛そうな表情を浮かべ、涙を零しながらそう伝えた。

「なぜだ。我々が長らく育った場所であろう」

彼の言葉に賛同しかねる存在が、異論を唱える。

「仕方がないだろう。あの魔獣が、二度と帰って来ぬと言えぬではないか。それともお前は、無益な戦いを繰り返し、今、以上の犠牲を増やしたいというのか?」

怒声をあげながら、反発した者を一蹴した。

「くっ!」

男は何も言い返せない。

「他に異論のある者はいないか? いないなら、今すぐ旅の準備を…」

「私は、行きません!」

私は思わず、そう伝えていた。

「どうして、彼女が?」

「なんでなの?」

周囲の人々も、驚きを隠せない。

「何故だ?」

老人が問うてきた。

「私はこの亡くなった人達を、見守りたい。例え会話できなくとも、側に居続けたい」

「無駄死にしたいのか?」

「それでも、いいです」

黄金色に輝かせた髪を風にたなびかせながら、静かにそう答えた。




「私も行かない」

そう答えるは、赤髪の幼女。もとい、ティカであった。

「なぜだ? お前のような子供が…」

「子供じゃないわ」

食い気味に反論する。

「私は、ずっと美味しい物を食べ続けたいの。どうせ残っている食料も大したことないだろうし、それならここで彼女と一緒に朽ち果てた方がよっぽどマシだわ」

老人は呆れた顔を浮かべた。

「そんなくだらないことで。なんという愚か者だ」

「俺も行かない」

断言するのは、筋骨隆々の青年、ルースであった。

「例え逃げたとしても、あの龍に襲われたら終いだ。その時のため、俺はここで全力であの龍を食い止める。それが俺の理由だ」

「私も残るわ」

そう力なく言うのは、銀髪の美女、パトラである。

「ついて行っても、楽しいことないだろうし、男共に付き纏われるのは、もうごめんだわ」

「それなら、僕も残るよ」

青髪の少年、ロイもそう言った。

「僕の友人達が、残るって言ってるんだ。そんな友人達を放っておけるわけないしね。それに、あの龍のこともうちょっと知りたいからね」

「なぜだ、なぜ言うことを聞かぬ」

老人は怒声をあげる。

私はしっかりと言葉を選び、諭すように答えた。

「私達は、自分の信念に従って残ろうとしている。その信念をへし折る気ですか?」

「今はそんなくだらない事を、言っている場合ではないだろう。それよりも早く支度をしなさい」

私は真顔で答えた。

「お断りします」と。

老人は最大級の怒声をあげ、一言。

「この、愚か者共がーー!」

自嘲するように冷たくも、芯の通った笑みを浮かべて答える。

「そうですね。私達はとんだ愚者かもしれない。でも、間違ってはいない。しっかりと己の考えを吟味し、行き着いた信念を貫き通す。それは、愚者でもあり、賢者とも呼べるのではないでしょうか?」

「もういい、こいつらは置いていく。他の者は支度をしろ!」

怒りを全身に体現し、そう答える。

「了解しました」

「はい」

彼の言葉に流されるように、愚者5人以外の者は、集落を後にする事となった。




…… 数時間後。

現在手に入れることの出来る、全ての食料や資源を手にして、集落の住人達はどこかへ旅立とうとしていた。

「本当にいいの?」

一人の少女が、別れ際、私に語りかけてきた。普段からそれなりに親交があった少女だった。

「ええ、私が決めたことだから。気にしないで、行ってきて」

少女は涙を浮かべ、説得する。

「今なら、まだ間に合うはず…」

全力で穏やかな表情を作り、返答した。

「大丈夫だから。私、強いから……」

ジョークのようなことを言って、愛想笑いをした。

「それじゃあね……」

「絶対、死なないで。生き続けて…」

その言葉を残し、少女は人の流れに従うように歩き始めた。

目的地さえ見えない、遠い遠い荒野の果てを目指して……。

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