青空教室
宴会を終えて、戦いの疲れを思い出したのか、倒れこむように眠りについた。
翌日、強烈な筋肉痛を感じながら目を覚ますと、いつものように強烈な直射日光が……当たらなかった。
現世界に置いてきぼりになっていた屋根のせいで、こちらの世界に来て毎日、不快な日光に叩き起こされていた。
それが今日は、影に隠れて何も照らしてくることはない。
「そうか…こいつらが」
昨日の宴会の喧騒で全く気づかなかったが、俺とルース以外の4人で、屋根を完成させてくれていたのだろう。
出来はまだ詰めが甘い感じではあるが、建築技術の発達していないこの世界では、よく頑張った方だろう。
「さあ、今日もやるか」
グーンと伸びをしながら、一言ボソッと呟く。
外に出て火の確認をした後、朝食の準備に取り掛かる。
昨日捕獲したジャイアントボアの肉は、まだまだ大量に残ってはいるが、野菜や果物などの生鮮食品は、底をつきそうになっている。
クーラーボックスに入れていた氷も、ほとんど溶けてしまっている。
冷蔵庫の代わりを成す物は、ほとんど無くなってしまった。
「冷やせる物は、やっぱり魔法で手にするしかないか」
唇を噛みながら、独り言を言う。
成長期である彼らには、栄養のバランスが取れた食事を摂ってもらいたい。
そのためにも、菜園に早く役に立ってもらわなくてはいけない。
「トントン、トントン」
軽快なリズムを刻みながら、包丁で残りの野菜を刻み始める。
今日のメニューは、簡易的なスープだ。猪の骨を煮出し、出てきた出汁を使ったスープだ。
「うーん、ガクト、おはよう」
眠気を纏いながら、ヴィーヌが包丁の音に気づいて起きてきた。
「おはよう」
微笑を浮かべて、首をヴィーヌの方に振り向きながら、答える。
「あら、美味しそうね」
鍋を覗き込みながら、ヴィーヌが答えた。
「そうだろう、猪の骨を煮出して作ったんだ」
「へぇー。骨から」
「あっ、そうだ。うちの屋根直してくれて、ありがとな」
「ううん。いつも色々やってるくれるから、気にしないで。私達なりのお礼だから」
二人の会話に反応したのか、ロイ達が続々と目を覚まし始める。
さあ、今日も騒がしい一日の始まりだ。
午前中の間、畑の管理などのやるべきことを一通り済まし、午後になった今は、全員で家の外に出ていた。
と言っても、家の扉を出て数十歩程の、家の裏なのだが。
「よーし、今から俺はお前達に授業を行う」
高らかに宣言したのだが、理解が追いついていない彼らはポカーンとしている。
俺だけが一人で張り切っている感じで、かなり恥ずかしいのだが。
「ガクト、『授業』って何?」
ヴィーヌが質問してくる。
「うーん、指導する側の人が、生徒に向かって、物事を教えるってことだ」
ルースも尋ねてくる。
「『生徒』とは?」
「教えられる側の人間のことだ」
「で、何で今やらなくちゃいけないの?」
パトラが目に見えて退屈そうに、そう答えてきた。
「これからのためだ。お前らが最低限知っておいてくれないと困ることがいっぱいある。それが理解できるまでは、農作業とかの間を縫ってやっていくからな」
パトラとティカは特に嫌がっている感じであるが、他の皆は納得している様子だ。
「これはなあ、お前達のためでもあるんだぞ」
「何のため?」
ティカが聞いてくる。
「お前らの魔法は、知識として理解していることでできる。だから俺がお前らに教えて、理解すればするほど、魔法の幅が広がっていく。これはお前らにとっても重要なことだろ」
「たっ、確かに」
「そうなら、仕方ないかもね」
正論に感化されたのか、彼女達も渋々納得したようだ。
5人を地べたに置いたシートに座らせ、簡易的なテーブルを設置して待機させる。
「それでは改めて授業を始める。起立!」
もちろん、誰も立ち上がらない。
「ほら、立って」
皆に指示して、立たせる。
「礼!」
もちろん、誰も頭を下げない。
「頭を下げて」
皆に指示して、頭を下げさせる。
「着席!」
もちろん、誰も座らない。
「ほら、元の位置に座って」
皆に指示して、座らせる。
いきなり、出鼻をくじかれた。最初からグダグダだ。
「ガクト!」
「授業中は、先生と呼ぶこと」
質問してきたヴィーヌに注意を入れる。
「せ、先生、さっきの何?」
「授業を行う前の礼儀だ。神聖なものだから、しっかりとやれよ」
「は、はあ」
溜息と疑問が重なり合いながら、最初の授業が始まった。
それらを見守る太陽は、青空の中で煌々と輝きを放っていた。