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天才教師が魔法世界で救世主になる物語  作者: 松風京四郎
第一章 魔法世界の救世主編
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観察と決着と笑い声

ジャイアントボアの捕獲を一度中断し、集落に戻ってきた。

到着すると同時、ルースが詰問してくる。

「で、あいつの捕獲はどうするんだ?」

「まあ、そんなに焦るな。俺に考えがある」

疑いの色を見せながら、答える。

「どんな考えだ」

「ちょっと、待っとけ」

せかせかと部屋に戻り、目的のものを手に入れて、ルースの元に戻る。

「こいつを使うんだ」

部屋から持ち出したのは、長さ10メートルほどの丈夫なロープだ。

「それを何に使う?」

真剣な表情でそう聞いてくるので、少したじろいでしまう。

「あいつをこれで引っかけるんだ」

こいつにとって、奇想天外な作戦だったのか、とても驚いた様子だ。

「あいつの様子を見る限り、視界が極端に狭い。多分、前方が少し見えているぐらいだろう」

「何で、そんなことが分かる?」

ルースが至極不思議そうに聞いてくる。

「あの猪が俺らに突っ込んできた時、岩陰に一度隠れただろ」

「ああ」

「その時、少し猪の横側に行っただけなのに、俺らを見つけられなかった。つまり、あの猪は視界が狭いって予測できるってわけだ」

「そうか、今まで考えたこともなかった」

「いや、理解するだけでも十分だ」

彼のひた向きな態度に感心していると、ルースがまた質問してきた。

「ガクトは、どうしてそんなに予測ができるんだ?」

彼の真摯な態度は依然変わらず、俺もしっかりと答える。

「まあ、元々いた世界で色々覚えてきたってのもあるが、予測っていう点では、観察をしっかりしてるからかな」

「観察?」

「そうだ。しっかりと相手の様子を窺い、目で見て、耳で聞いて、理解する。神経を研ぎ澄まし、観察することで、相手自身が知らないようなことも、きっと見えてくる」

「確かに、その通りだ。今まで魔法に頼って、魔物のことを何も知ろうとせず、ただ(ほふ)ってきただけだった。俺はとても無駄なことをしていたんだな」

「そんなことないさ。魔物との戦いの経験はきっとお前の役に立っている。その上で、観察を意識することで、きっと今までよりも戦いやすくなる」

「今からでも大丈夫だろうか?」

口角を上げ、笑みを浮かべながら答えた。

「大丈夫だ。少なくとも、お前は俺よりも狩猟の才能がある。お前が観察をマスターできれば、俺なんて到底、及ばないほど強くなれる。俺の教えた罠も、気休め程度のものだと思ってくれたっていい。ただ、お前の才能を活かすために狩猟ってもんを楽しんでほしい。それが俺の願いだ」

「ああ、そうだな。狩猟を楽しく、か。確かに面白いかもしれない」

少しは教師らしいアドバイスができただろうか?

「よし、朝、取り逃がした猪の野郎を捕まえに行くか」

「そうだな、今晩の飯のために、暴れてくるか」

罠用のロープやナイフ等を持ち、荒野を駆けて行く二人の表情は、心底楽しそうだった。




荒野の真ん中に戻ってきた俺達は、再び猪の魔物、ジャイアントボアにエンカウントしていた。

しかし、先程と状況は違う。

ジャイアントボアの側面に立ち、俺達は見えていても、猪側からは全く見えていないようになっている。

俺は、手を振り、サインを出して、走り出す。

ルースも手を振り返し、動き始める。

俺達の作戦はこうだ。

俺がわざと猪の前に立ち、全速力で駆けて、猪を引きつける。

ルースは岩にくくりつけたロープをピンと張って、構えておく。

ルースのいる方へ向かって行き、ロープを躱わして、猪を引き続き引きつける。

ロープに引っかかり、転がった猪を襲うという寸法だ。

「ドオーン、ドオーン」

予定通り、轟音を出しながら追いかけてきた猪を背に、全速力で走る。

「ルース、そろそろ行くぞ」

「ああ」

ロープの片側をルースが持っていて大丈夫かとも思うが、あのガタイならばきっといけるはずだ。

「シュッ」

ロープの下を華麗に潜り、勢いを殺さずに走り続ける。

「ドオーン、ドオーン、ドッオーン!」

足音が近づいてくる気もするが、走るしかない。

「ギイッーーー」

強烈なロープの軋む音が聞こえてきた。

「オッオゥゥゥーーー!」

猪が唸り声を上げる。

しかし、猛スピードでロープに突っ込んだ勢いを、そう簡単に殺すことはできない。

「大丈夫か、ルース?」

苦悶の表情を浮かべ答える。

「厳しいが、なんとかっ、耐える」

すると、猪の勢いがロープに傷をつけ始める。

(やばい、このままだとロープが切れてしまう。切れてしまったら、ルースと築いた関係も、今日の晩飯も終わってしまう。何か方法はないのか?)

「このまま、では」

ルースは苦しそうだ。

「キイッーーー!」

ロープも悲鳴をあげている。

(どうしたら? そっ、そうだ。こういう時にこそ)

雄叫びをあげるように答えた。

「ルースっ、魔法を使え! イメージはロープを固く、しなやかにする、だ。ロープの持ち手は俺がフォローする。なんとか、頑張ってくれ」

そう言って、ロープを持つルースの元へ走る。

「了解、だ。俺の力よ。ロープに」

魔法陣が辺りを包み、ロープが変化を始める。

そのタイミングで、俺もロープを掴み、なけなしの力で尽力する。

「 「うおーーー!」」

ジャイアントボアの唸り声とルースの叫び声が混ざり合い、辺り一帯が震えるような雰囲気だ。

すると、辺りの光は姿を消し、強化されたロープ、もといワイヤーが強烈にしなり、猪の脛をえぐる。

その力に押し負けたのか、猪は前方へ宙に舞いながら、倒れこむ。

その瞬間、俺はワイヤーを手放し、ポケットに忍ばせていたナイフを手に取る。

仰向けになった猪の首や眉間といった弱点と思しきポイントに、全力でナイフを突き立てる。

「プシュー」

刺した傷口から、赤い血が噴き出る。

「ウッオゥゥ」

猪が唸り声をあげるが、その声は少し辛そうだ。

「いける、いけるぞっ!」

その言葉を発した途端、猪が暴れ出す。

ナイフをより深く突き立て、耐える。

「ウオゥゥ」

最後まで、叫びをあげ続け、ついに限界を迎え、意識を失った。

「やった、やったのか?」

魔法を使い、少し疲れた様子のルースが答える。

「ああ、やったぞ。俺達はやった」

「そうか、なら、良かった」

そう言って、地面にへたり込む。

「大丈夫か?」

「いや、ちょっと、きついな。少し休ませてくれ」

疲れを隠すように、笑みを浮かべながら、そう答えた。

「俺もだ。少し休みたい」

ルースも笑みを浮かべながら、そう答えた。

「はっはははっ」

「はっはははっ」

お互いを見つめる。

「「はっはははっ」」

二人で空を仰ぎながら笑った。

今日は少し帰るのが、遅くなりそうだ。




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