狩猟体験
農業用の畑を完成させた翌日、俺はルースと共に、集落を出て、魔物を捕獲しようとしていた。
ルースを選んだのは、ただ単に一番強そうで、俺がやられてもどうにかしてくれそうな気がしたからだ。
「ルース、どんな奴が食えるんだ?」
筋骨隆々な男が、おもむろに口を開く。
「空を行くような奴が、食うのに適してる」
外国人のように単語単語で切るような喋り方は、ほぼ無くなった。
本当に素晴らしい学習能力だ。
「つまり、鳥だな。俺の世界でも実際に食ってたから、まあ美味しいはずだ」
「あと、4本足の太った奴もうまい」
「豚だな。これなら狩猟だけでもなんとかなるかもしれないな」
そう言っていると、どこからか変な音が聞こえてくる。
「ドオーン、ドオーン」
思わず、左右を見回す。
何もいない。
「ドオーン、ドオーン、ドッオーン」
音はどんどん近づいてくる。
「おっ、きたかっ!」
ルースが少し興奮した様子だ。
「ドッオーン、ドッオーン!」
ただの足音は轟音に変わり、その音の主のある方向へ振り向くと、それはいた。
山のように巨大な体と巌のように固そうな皮膚、全てを貫く伝説の矛のような牙。
豚とは形容しがたい、かと言って猪と言っていいのかも微妙な、まさにモンスターだ。
「お前、もしかしてあいつを捕らえようとしているのか?」
不敵な笑みを浮かべ、ルースが答える。
「ああ、そうだ」
諦めも加味して、一言申したい。
「マジっすかーーーーーー!」
「あんな奴、ふっふっ、今までどうやって、ふっふっ、捕らえてきた?」
猪型の魔物ジャイアントボア(仮)に追われ、走りながらルースに尋ねる。
「そんなもの、雷を落として、燃やし尽くせば、簡単に獲れる」
「そんなことしたら、ふっふっ、食べる部分が、ふっふっ、なくなるだろがー」
息を切らしながら、反論する。
「でも、それが一番確実だ」
「お前が魔法を使って倒れたら、ふっふっ、誰が運ぶんだ。言っとくが、ふっふっ、俺は、ふっふっ、無理だからな」
「それは困る。ヴィーヌもパトラもそれくらいやってくれたぞ」
(なんだそのチート能力は。というより、なんで息が切れないんだ。俺だけが情けないみたいじゃないか)
「とりあえず、あの岩に、ふっふっ、隠れるぞ」
眼前に映る大きな岩に指を指しながら、ルースを促す。
「了解した」
直進していた体を左に90度方向転換し、大きな岩に影を潜める。
ジャイアントボアは俺達を見失ったのか、右往左往した後、どこかへ行ってしまった。
「おいっ、追いかけなくていいのか?」
焦った表情で、ルースが聞いてくる。
「やめとけ。うまくいかないのがオチだ」
「そうか、なら仕方ないな」
諦めたようにルースが答えた。
「はぁー」
一拍、溜息をついて答える。
「まだ、諦めるのは早いぞ。一旦、自宅に戻って作戦会議だ」
そう言って、自宅に向かい歩き始めた。
「分かった」
その言葉を引き連れ、ルースも俺についてきた。
実は今、俺の頭の中にある思惑があった。
(この作戦が果たしてうまくいくだろうか?)