体力的農作業
昼食を取り、体力を取り戻した5人と共に、再び外へ出る。
「よし、ここでいいだろう」
自宅から数メートルのところに立ち、5人に呼びかける。
「…何…する?」
パトラがそう尋ねる。何とも蠱惑的でちょっと、やましい気持ちになりそうだ。
「今から、農業を始めようと思う」
「…農業…?」
パトラをはじめとした皆が、知らないご様子だ。
「簡単に言うと、こういった食べられる植物を育てるって事だな」
そう言って、自宅のベランダに置いてあったバジルを見せる。
「それ、食べられるの?」
ヴィーヌが聞いてくる。
「ああ。これ以外にも食べられるものはいっぱいある。それを大量に育てる事で食糧難を回避するって訳だ」
「へぇー」
ヴィーヌが納得したように答えた。
「それで、だ。今から、お前らには、農業用の土を作るのを手伝ってもらおうと思う」
「…土って…作れ…る…の?」
ティカが尋ねる。
「いや、正確には土そのものを作るってより、農業用の土壌を作るって言った方がいいな。ただ種を地面に植えたところで何も育たないから、育てるのに適した土を作らないといけないんだ」
ベランダに置いていた、肥料の袋を持ってくる。
「よいしょっと。これを使うんだ」
「…何…これ?」
「これは肥料って言って、土に混ぜる事で、その土壌が肥えるようになるんだ。そうする事で、植物を育てやすくなる」
「…なる…」
こいつ今、略語を使わなかっただろうか? いや、使っただろう。
反語で答える。
(こいつらの日本語が、たった一日でここまでくるとは、スーパーコンピュータ並みではないだろうか?)
内心そう思いながら、おもむろにスコップを持つ。
「よし、とりあえず地面を掘り起こして、柔らかくするぞ」
地面をスコップでえぐる。
皆、作業を始めると思いきや、訝しげな表情を浮かべている。
「おい、どうした? お前らも早く手伝え」
ロイが口を開く。
「さっき…みたいに…魔法を使えば…いいんじゃないか?」
呆れた表情を浮かべて答える。
「あのなあ、お前らあんまり、魔法に頼りすぎるな。確かに魔法を使ったら早く終わるかもしれないが、その分体力を削る。そんな事続けてたら、いつか食料と体力の需要と供給が取れなくなるぞ」
「…わっ、分かった…」
俺の説得に皆、納得したようだ。
手にスコップを携え、思い思いに地面を掘り起こしていった。
俺の指示に従って、体力労働を続け、およそ50メートル四方の農業用のスペースを作った。
体力労働と言っても、魔法を使用するよりは随分と消費はましだ。
限りある肥料を、畑全体に混ぜていき、さっき作った井戸から水を汲み、畑全体に行き届かせる。
そんな、古き日本の原風景のような行為を繰り返し、俺お手製の畑が完成した。
「早速、種まきだ。俺の指示通り、植えろよ」
「オッケー」
ヴィーヌの返事と共に、作業を再開する。
植える種は、二十日大根などのすぐ育つようなものから、米などの長期間かかるものまで様々だ。
自宅栽培が趣味の俺は大量の作物を持っていたため、ここまでの種類の種を揃えることができた。
植物同士の相性を考え、少しずつ植えていく。
それに倣って、5人も種を植えていく。
ティカが作業をしながら、尋ねてくる。
「…これって…いつ…食べられる?」
「そうだな、早いやつでも、二十日ぐらいはかかるな」
「……にじゅう…に…ち…?」
(そうか。こいつらはまだ数字や数学といった概念が、理解できていない。すっかり、忘れていた。日本語の文字や数字といった概念は、早く宣教しなければ)
「まあ、しばらくの間は食えないな」
「…ざん…ねん…」
ティカは心底、悲しそうな顔を浮かべる。
(そんな顔をせんでくれ。俺のロリコンと父性愛が目覚めてしまう)
くだらない葛藤をしながら、農作業は終わりを迎えた。