天才教師は異世界に行く
天才とはあまりいいものではない。
俗世間では、基本的に頭の良い人は優遇され、頭の悪い人は邪険な扱いを受けることが多い。
しかし、優遇される人は秀才止まりだ。天才とは他人とは異なる、ある一線を超えた人のことを言う。そうした人間を見た時、普遍の人々は、忌み、畏れ、排除しようとする。
天才の考えを理解できないために。
いや、理解しようとしないために。
そんな風に排除された天才がここにも一人。
名は才賀学知。
黒髪で中肉中背の身長175センチ、至って普通の体を持ったこの男は、今年で32歳になる。
職業は某超有名進学校の教師だ。
体格とは裏腹に、この男の歴史は壮絶なものである。
人が普遍的に話し出す時期より3ヶ月も早く言葉を話し出した、学知少年は周りの子供だけでなく、大人も驚愕させていた。
幼稚園を卒業するまでに漢検と英検の3級、つまり中学校卒業レベルの資格を取り、小学校低学年のうちに高校数学をマスター、高学年で大学レベルの歴史分野を完璧に暗記と小学校のうちに、ありとあらゆる分野の極めてしまった。
こうなると中学校に入ってからが大変だ。基本的に飛び級制度のない日本では、学知の知識量に対応できず、退屈でしかない。
だから学知は考えた。基本科目以外にも知れることはたくさんある。
例えば、調理術。あらゆる料理本を漁り、自分で試行錯誤しながら、プロ顔負けの料理を出せるまでになった。
例えば、農業。数多くの種を集め、自宅の庭に植え、超一級品の作物を育てあげた。
このように基本科目だけでなく、専門科目も極めて、東京大学に首席で合格する。
合格した後も、やることは大して変わらない。様々な知識を講義や留学で得ていくだけだ。
そう、この男はただただ知識が欲しいだけなのだ。それが人智を超えており、異常に見えているだけなのだ。
いや、実際は異常なのだが。
そうして、ありとあらゆる知識を貪った天才、才賀学知はやることがなくなってしまった。
そこで、この男はまた考えた。
知れないのであれば、教えれば良いのだと。そこで彼は教師になった。
超有名大学を首席で卒業した彼を欲する高校は幾らでもいた。
余裕で就職を果たし、一年目にして担任を持った。
そこで、彼は悲哀を感じることになった。進学校であったとしても、知識を自分ほど欲するものは現れなかった。
彼は孤独を感じ続けていた。これまでも、これからも。
そして、何年か経ち現在に至る。
「あぁ、退屈だ」
スマホを片手に愚痴をこぼす天才教師、才賀学知は帰路についていた。
季節は3月末。新入生の準備を終え、5時を回った頃だが、それでもまだ明るい。
「何か新しいニュースはないのか」
歩きスマホをしながら、一人再び愚痴をこぼす。新しい情報を得たいものとしては、日々アップデートされるスマホは手放せない。
愚痴を垂れ流ししながら、家に到着した。
某有名高校の教師をしているだけあり、収入はそれなりにある。
そのため、住んでいる家もそれなりのタワーマンションの上階だ。
部屋に入ると、そこは異様な雰囲気を醸し出していた。
百科事典に専門書、哲学書に雑誌まで、ありとあらゆる蔵書に溢れている。
キッチンやベランダなどの最低限のスペース以外は、DIYで本棚を設置し、無理やりに本を置いている。
これが、知識モンスターの仰天住居である。
学校での活動で疲れていたため、さっと料理を仕上げ、食事を済ますと、すぐに風呂を焚いて、入浴する。
風呂から上がると、テレビやパソコンでニュースを確認し、就寝に至る。
寝る直前、彼はこんなことを考えた。
「今の生徒達はつまらない。必要なことだけを知ろうとして、何も不必要なことをしようとしない。知るということを純粋に楽しめていない。これなら、正直教師になった意味がない。お金を得るだけの作業だ。あぁ、本当につまらない。純粋に知識を欲するものはどこかにいないのか」
そして目を閉じ、神に祈った。
「神よ。もしいるのなら、俺を必要とする者のところへ連れて行ってくれ」
そう願うと、眠りに落ちた。
翌朝、目が覚め、カーテンを開ける。
その勢いで、マンション一階の郵便受けに朝刊を取りに行く。いつもの日課だ。
小さくため息をつきながら玄関を開ける。
扉を開けて、すぐあるエレベーターのボタンを押そうと……………あれっ?
ボタンどころかエレベーターも階段も無い。というより、景色が全く違う。
存在するのは住宅街ではなく、荒れ果てた荒野とボロボロの民家?と言っていいか微妙な建物だけだ。
「ここ、どこ?」
この日、あるマンションの一室が突然消滅したニュースは、日本全国に広まった。