私の先生はロリーナ・ロリエル
「あ、あの。よろしくお願いします。ロリ先生?」
ロリと口に出すのは恥ずかしい。
「ロリーナでいいですよ?先生など言われてもそんな大層なものじゃないし、それに、なんか・・・バカにされてるような気がするし。こう見えて二十歳は過ぎてますからね?」
「えぇ!?異世界だと成長と言うか寿命でも延ばせるんですか!?」
自分でも、とんちんかんな事を聞いてるという自覚はあった。しかし帰ってきた言葉は、とんちんかんな考えをさらに上を行く驚きだった。
「寿命が延びる?成長を延ばせる?何言ってんの、そんなの無理に決まってるじゃない。これは立派に二十年間生きてきて得た結果よ」
「ふぇ、ま、ままじ、まじですかぁ!?」
「マジもマジ、超マジでその通りよ。文句ある?私がちっちゃいのはしょうがないの!だから魔法を頑張って勉強したのよ!他のみんなを見下すためにね!悪い?」
なんと子供か・・・
考えまで子供とか大丈夫なのだろうかこの二十歳は。
私は胸が自慢できる程あったし、努力して可愛さも求めた結果手に入れた可愛さなのに、ここまでペッチャンコな胸で堂々されるとちょっといろんな意味で悔しい。
「じゃあ、まあ・・・その話題はもういいです。それよりも早く魔法を教えてください」
「待ちたまえ、待ちたまえ。慌てても何も解決しないぞ。まずは簡単なことから説明していこう」
そう言いながら紙を胸の辺りから出してきた。
どこに入れてるのそれ!胸ないとそんな所にも入れられるものなの?
いや、質問はしないけど。
さっき驚いた様な顔したら、すごい顔で睨み返されたし。急に態度も変わったし・・・
「これは紙にあらかじめ魔方陣を書いておいて血やら髪の毛やらを捧げて出来る魔封紙というものだ。これにあとは魔力をすこーし流してあげれば、この魔法陣の効果がその場で出るという優れものなのだ」
そう言いながら紙が光りだして、膨らんでいった。すると、そこにはさっきまでなかったホワイトボード的なものが出てきた。
いや、ホワイトボードなのだろう。
「要するに、その魔封紙に捧げものと、魔法陣を書いておけば、どこでもその魔法が使えると。そういう事ですね」
分かったことを口に告げるととても驚いた顔をされた。
「まあ、その通りだ。どこかで魔法の研究でもしてたのかい?とてもじゃないけど、今さっき知ったようには思えない」
「いえいえ、今さっき知ったばかりですよ。たまたまテレビなんかで、そう言う魔法だの、魔法陣だのがよくやる時代なので、知っていることと差があまりなかっただけで、そういった物を見てこなかったら、何も分からないで、あたふたしてたと思います」
なるほどと言った顔をしながら頷いていた。だが、数秒するとその顔が一変して真剣な眼差しで顔をこっちに向けてきた。
「もしかすると、こちらの世界の人間がそちらの世界へ行って魔法を広めているのか?」
「いえ、そんなことじゃなくて単に絵本の進化版みたいなもので想像の産物として語られてるだけです」
「ふふーん、なるほどね。だけど助かるな、それだけ予備知識があるならちょっとした訂正だけで済みそうだ」
そう言いながらまた、胸の辺りからなにか取り出してきた。一体どれほどあの絶壁の下に物が隠されているのだろう。
言わないけどね。
「その鏡はなんですか?」
「これはね、魔力すなわちマナの形を知ることが出来る鏡だ。これを覗いて反射する自分より奥に焦点を合わせるように見てご覧」
そう言って先生は鏡を投げ飛ばした。
「えっ、なんで、これも魔法?」
驚いたのは、放物線を描くようにして鏡が飛んでくるかと思っていたが、ゆっくり直進しながら飛んできた。
「これは魔法とも魔封紙とも違って直接マナを使って飛ばしているんだ。現代の日常ではこれを生活の大半に使っているんだ」
「えっ、普通にこれをみんな使ってるの?生活が凄くラクそうですね」
今度は呆れたような顔をされた。
「まマナは個々で差が出るんだ。だから全然使えないって人もいるし、むしろ余っててどうしようみたいな人もいる」
「あー、魔法の才能が個人差あるーみたいなことか」
「ほう、理解が早くて助かるねぇ」
「まあ、理解が早いのが自慢なんで」
「ほほう、言うじゃないか小娘よ。私よりも生きてないくせに生意気じゃなぁ」
顎に片手を当てながら探偵のようなポーズで言うロリーナを無視して質問を続ける。
「じゃあ、さっき呆れたような顔したのは、やはり個人差によって使い勝手が違うから、ラクな人もいれば辛い人もいると。そういう事ですね」
「むむむ・・・露骨にスルーせれると流石に傷付くんだが、まあ、大体はそれであっている。悔しいが大正解だ」
ガッツポーズを軽くしてから、また質問する。
「うーん・・・じゃあ私はその適正みたいなのはあるんですか?」
「安心したまえ、君に関しては風邪を引きやすいだろう?ならば大丈夫だ。変な病気にかからなければね」
「変な病気?それって呪いとかじゃなくてですか?」
「呪いか・・・割と近いところをついてきたな。そうだな、これは昔黒い魔女が現れた時に魔女に、賛同した者共が仕掛けた罠の生き残りという所かな?その罠にかかると、魔法が発動してマナの扱いがうまく制御できなくなる」
「そんな恐ろしい魔法があちこちに!?」
手を顔の前で振りながら説明をしてきた。
「いやいや、今はそこら辺にあるようなことはないよ。たまに山奥に残った罠が有るくらいかな?それにかかるのもなかなか運がいいと思うよ」
「運がいいと言うか、悪いだと思うんだけど・・・まあ、それは置いておいて、結局のところこの鏡はなんですか?」
手に飛んできた丸い顔が丸々入りそうな鏡を持ち上げながら聞いてみる。
「なんでもいいから、その鏡で中をさっき説明したように覗いてご覧」
話を聞き終えると同時に焦点をズラしながら鏡を覗き込んだ。すると、そこには漢字で『乙女』と書かれていた。
「この文字は何なんですか?」
「ほほう、中に見えるのは文字なのか。君の知ってる文字なのかい?」
質問に質問で返されて、怒りが少し湧いてきたので、軽く舌打ちをした後に返事をした。
「はい、知っている文字です」
「それはラッキーだな!それが君のマナを視覚できるように形をつけたのが、その鏡に映るんだ。そしてそれが、君自身のマナを使う為のトリガーとなるんだ。その鏡に写ったものを使って、魔法を使うイメージをする。すると、イメージ通りのことができるようになる。ちなみに、想像力が足りないとうまくマナは使えない。そこは慣れてくれたまえ」
「はぁ、まず何したらいいんでしょうか」
「そうだなぁ、まずはその鏡をこっちに飛ばして返してくれたまえ」
「わかりました。やってみます」
まずは『乙女』の二文字を思い浮かべる。それを使って鏡を浮かす・・・
それを使って!?
「すいません!文字を使ってとか言われても困ります。どうしたらいいんですか?」
「簡単だよ。さっき見えた文字を、鏡の下に潜り込ませるイメージをして、そのまま浮かせるイメージを!すると、文字のイメージは自然と消えて、鏡を浮かべられるようになるさ」
「えっと、それってもしかして、慣れてきたら文字を想像する必要すらないってことですか?」
「まさしく、その通りだ」
なるほど・・・
『乙女』をイメージして、それを鏡の下に滑らせて、そのまま浮かべると。そうやって、適当に頭の中で想像したら本当にその通りに浮かんだ。
では、応用を効かせてそのまま横に移動させるイメージでもしてみようか。そっとそ〜っとだ。
「んな!?浮かせるまでしか教えてないのに応用の浮かせたまま横へスライドすらやって見せただと?」
わぁお、驚いてるロリーナ超可愛いかも!その瞬間、鏡に集中していた力が、一瞬で消えた。
その後に起きる事とは・・・
お察しの通り、ロリーナの足元へ鏡を落としてしまった。あの、重い鏡が足に落ちたら骨折してしまうんじゃないだろうか。そんな気がしてとっさにイメージをし直すが、間に合わなかった。
直後、足に鏡が落ちていった。
「うわぁー!びっくりしたー」
しかし、痛がる様子もなかった。
「あの、ロリーナ。ごめんなさい私、気が抜けて!」
「いいのいいの、こんなこともあるかもと思って、この靴はそこらの防御服よりも使える防御服靴にしておいたのよ。しかも、スピードのブースト付きで」
「んな!?そんなのありぃー!?心配したのにぃー!」
「心配してくれてたのね。てっきりワザとかと思ってたわ」
「そんなことは、いくらウザくて憎たらしいロリーナにもしませんよ!」
露骨に嫌な顔をした後に口を開けた。まあ、大体予想はつくかな?
「そう思ってたのね、ちょっとショックだわ」
「嘘つきなさい、その顔のどこがショック受けてる顔なのよ!寧ろ何かに勝ったかよような顔してるじゃない!」
そう、超ドヤ顔で『勝った』って顔している。
「まあ、いいわ。これで直マナの魔法は大体できるようになってるはずよ」
ん?直マナ?聞いたことない単語だ。
「すいません、直マナってなんですか?」
「あぁ、その説明はしてなかったね。直接マナでものを浮かせたり動かしたり潰したり広げたり伸ばしたり・・・まあ、色々あるけれどそれらをまとめて直マナと言うの。だからあなたがさっき使った、鏡を浮かせる。そのまま横へスライドさせる。それらが直マナの基本的なやり方だから、あなたはもう直マナについて聞くことはないの。応用を効かせれば、物を引っ張ったりもできるようになるのよ」
「はぁ、そうですかぁ「でもね、魔法はまだまだ奥が深いのよ!」
相槌を聞かないように、ワザと口を挟んで説明してきた。渋々、次の質問に関しての相槌を打つ。
「じゃあ、もっと魔法について教えてください」
「待って待って、慌てないで。まだマナのコントロールがままならない子に魔法を教えることはできないの。だから、今日はもう休んで明日からの生活は全部マナを使ってしなさい。食事も着替えも全部よ。歩くこと以外全てマナで生活しなさい。それに慣れてきたら魔法を教えてあげるわ。あと、あなたの家も用意してあるわ。ここを出て、少し右に行ったらある一軒家があなたの新しい家ですの」
「ええぇぇぇぇ!?家まで用意してもらっちゃってるんですか!?」
正直驚きだった。最初は、普通に宿屋とかで寝かされるものだと思ってたからだ。
「家って言っても、あなたの家を再現したものを用意しただけなのだけどね」
「ええぇぇぇぇ!?家を再現までしてるんですか!?」
「そこまで驚くものなの?確かにちょっと複雑だったから、苦労したところもあったのだけれど、学者たちは嫌な顔一つしないで、再現してたわよ?まあ、知識が欲しいから頑張ってただけだろうと思うけどね」
「それでもありがとうございます。私、家以外で寝ると大体風邪ひいちゃうんですよ。それも氷里・・・幼馴染みと一緒になって」
「それならより一層家を作っておいて良かったわね。じゃあ今日はお終いにして寝ましょう。もう夜になってるわ」
「あ、ほんとに夜だ」
いつの間にか昼頃から夜になっていたらしい。
「こっちとあっちでは時間の流れ方って違うんですか?」
「いえ、同じよ?」
「えっ、じゃあ昼から夕方までずっと魔法を頑張ってたってこと?」
「まあ、そういうことになるわね」
「そう言われると確かに疲れてる気がするかも」
「そうね、じゃあお風呂にしっかりと入るといいわ。お風呂はリラックスにもなるしマナの回復にもいい。そして何より、あなたの家のお風呂は露天風呂に改造しちゃったの!」
「ろ、ろてんぶろぉー!?そんな大層なお風呂に変わっちゃったのー?」
「あら、ダメだったかしら?気を使ったつもりだったのだけれど」
「ダメってことはないけど、家の形が変わっちゃわない?」
「あー、それの心配をしたのね。安心して、それも魔法で完璧にしてあるわ。」
「魔法って便利ですね」
「そうでしょ?」
と言いながら、ない胸を張っていた。
ほんとにイラつくわね!まあ、お風呂のことがあるからチャラにしてあげるわ。そう心で思いつつもお風呂が楽しみで、うきうきと出口へ向かっていた。
「ちょっと待ってあなた!」
「はい?」
「大事なものを渡し忘れてたわ。これを受取りなさい。あなたの大事な物なのでしょう?」
差し出された右手には、受験生だからと言って今年に入ってから氷里にプレゼントされたネックレスとお守りだった。
「え、でもこれあっちの世界に置いてきたはず・・・」
「特別にこっちへ転送したのよ」
「ロリーナさんっていいところありますね。さっきまでウザいだけの人かと思ってました」
「まあ、失礼ね。だけど感謝してもらえたなら何よりよ」
「じゃあ、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
「じゃあね、明日って言ってるけどマナの操作に慣れたらね」
「ぶー、意地悪です。ロリーナなんて嫌いです」
「あなたキャラ変わってるわよ」
「いいんです!」
入口を開けるて、右へ進む。三分くらい道なりを歩いていると、見慣れた家が見えてきた。
そしてゆっくりと風呂に使ってから眠りに入った。短いようで長かった1日が終わった。
そして、これから長い異世界生活が始まるのだった。