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はっ!

パチッと電源が入ったかのごとく意識が戻った。

あたりを見回す。

原色でマーブル模様に塗られた壁。

天井にはメリー。赤ん坊の頭の上でくるくる回ってるようなやつだ。

床一面にカラーボール。まるで子供が遊ぶ遊具のよう。ボールプール。

そして、鉄格子。

あまりの非現実感に頭がふらふらした。

なんだこれは?夢を見ているのか?

「目が覚めたかい?天堂君」

声のする方を向くと、星咲がボールを弄びながらこちらを見ていた。

「やー、失敗したねー。まさかみんなグルなんてねー」

星咲はワザとらしくおどけて言う。いや、確かに想像だにしなかった。

僕は殴られた後頭部をさする。タンコブになっていた。そう意識しだすと途端にズキズキした。

「ここは?」

「なんの部屋かはわからないけど、九凱邸の地下だよ。天堂君が気絶させられた後に連れてこられたんだ」

と、鉄格子の向こうからコツコツと靴音が近づいてきた。二人分の音。

現れたのは彩乃さんと望月さんだ。

「ご機嫌いかが?」

彩乃さんは愉快そうな笑みを浮かべている。その後ろに付き従うように望月さんが立っていた。

「ご機嫌良いわけないよ。早く出してくれないかな?」

「残念ねさしほちゃん。貴女達は死ぬか狂うまででられないの。貴女達が死んだら犯人死亡で今回の事件は幕。狂った場合も、狂人の犯行で幕。そんなシナリオよ」

僕はさすがにイラッとして口を開こうとした。しかし星咲に止められる。何を言っても無駄。そんな目で軽く首を左右に振っていた。

「彩乃。日本の警察は優秀だから、犯人くらい見抜くと思うよ?」

「ご心配なく。警察には知り合いが多いの。適当に処理をしてくれるわ」

彩乃さんは高らかに笑うと、くるりと踵を返してもと来た道を戻って行った。望月さんも僕たちを一瞥すると彩乃さんの後を追った。

僕は床のボールを一つ拾うと、全力で壁に投げた。跳ね返り、床に落ちる。

「どうすんだよ星咲」

星咲は脳細胞をフル回転させているようだ。しばらく同じ姿勢のまま、一点を見つめていた。

僕は壁にボールをぶつけ、壁当てをして時間を潰した。何度目かボールが壁と僕を往復した時、星咲は急に顔を上げた。

「使える」

「は?」

「こんなところにいたら本当に頭がおかしくなってしまうからね。早いうちにおいとましよう」

星咲はニヤリと笑い、胸元から赤いカプセルをふたつ出した。

そして、僕にこれからの算段を耳打ちする。星咲の声と息が耳元でくすぐったい。

最後まで聞いて、僕は呆れてしまった。

「作戦は飲み込めたけど、なんでそんなもん持ってるんだよ」

「あれ?天堂君は私のあだ名をわすれてしまったのかな?」

「……ルパンさん……ね」

それを聞くと、星咲は満足気に頷いた。

「さぁ、一緒に死んでくれ。天堂君」

星咲は僕の口に赤いカプセルを含ませた。




コツコツコツコツ。

靴音が近づいてきた。

現れたのは新見。鉄格子の中を見るなり驚愕の表情になった。そして、薄く笑う。

「こいつぁ……」

鉄格子の鍵を開け、中に入ってくる。

まずは手近な所に倒れていた星咲の顔を覗き込んだ。口から血を流し、首をかきむしるような仕草で固まった姿勢。苦悶の表情。

新見は油断ない仕草で星咲の手首を掴んだ。脈を取っているのだ。

しかし、脈拍は感じられない。

「はは。自殺しやがった」

ボソッと呟くと、今度は僕の方に近づいてきた。星咲には背を向けるような姿勢になる。

「災難だったな。まだ若いのに」

やはり新見は僕の顔を覗き込み、脈をとる。やはり脈は感じられない。

「お嬢様に報告するか。やっとこれで一件落着だな」

僕から手を離し立ち上がろうとする。

が、しかし。

僕はバッと勢いよく新見の腕を掴んだ。新見の顔に恐怖が浮かぶ。

「なんだと!」

「やあ新見さん。鍵を開けてくれてありがとう」

星咲が後ろから新見に話しかけた。口から血を流したままで。

「な、何故だ!た、確かに脈は止まっていたのに!」

恐怖に顔を歪ませ、僕の手を振り払おうともがく新見をボールだらけの床に押し付ける。

「簡単だよ。血糊でちょっと顔を作って、脇の下にボールを入れていたのさ。これで手首の脈は消せる。古典だよ」

星咲はボールを一つ床に落とした。

「首で脈を取られたらバレただろうけど、賭けには勝ったね」

新見は暴れるのをやめた。僕が手を離すと床にあぐらをかくようにしてうなだれた。

「俺をどうするつもりだ」

「別にどうもしないけど、おとなしくしててほしいな」

言うなり、星咲は新見の首後ろを蹴り飛ばした。

意識を失い、新見はボールの中に倒れる。

新見の服を探り、鉄格子の鍵を取る。そしてもう一つ手に入ったものがあった。

拳銃だ。

弾倉を確認するが弾は入っていなかった。

「おおかた、私達が暴れでもした時の脅しにでも使うつもりだったんじゃないかな」

そんな拳銃を僕に投げてよこす。

ズシリとした冷たい塊を受け取る。

「さて、行こうか」

星咲は鉄格子に鍵をかけ、何かを思案するような顔をした後に暗闇に身を潜めた。僕も同じく身を潜める。

その時、地鳴りのような振動が建物をつつんだ。

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