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星咲が入れてくれたコーヒーは、無駄に苦い味がした。


「さて、これからどうしたもんかね」

空になったコーヒーカップを弄びながら、星咲がつぶやく。

「さっき小道さんは犯人はメイドの相川六実さんだと言っていました。だとしたらボクは彩乃さんを殺した相川六実さんを許せない」

望月さんは握った拳を震わせながら、絞り出すように言った。恋人が殺されたのだ。当然の感情だろう。

「なぁ星咲、橋が上がったままって事は、相川さんはこの屋敷のどっかにいるんだよな?」

「そうとしか考えられないね」

当たり前の事を聞いてしまった。この屋敷のどこかに隠れているのだろうか。しかしこの場所から去れない以上、きっとそうなのだろう。まして、相川さんからしたら勝手知ったる場所だし。

「だったらお嬢ちゃん、犯人を捕まえちまうってのはどうだ?正直殺人犯がウロウロしてるなんて気分が悪いしおちつけねぇ」

新見さんは言いながら拳を鳴らした。

「探してみましょうか。もっとも私は六実さんが犯人だなんてこれっぽっちも思ってないけれど」

「他に犯人がいるとでも?」

「それはわからない。わからないから今から探偵するんだよ。この星咲さしほがね」

星咲は呆気にとられるみんなを尻目に談話室から出て行った。

「待てよ星咲」

その後を僕も追いかける。





相川六実の部屋

小綺麗に整頓された部屋。クローゼットにはメイド服の他に、彼女らしい派手な服がちらほら。どれもこれも几帳面に収納されていた。

壁にはロックスターのポスターが貼られている。生前、色々な伝説をつくり今ではパンクの代名詞になっている人物のポスターだ。

部屋をざっと見まわした。高価そうなオーディオセットが目をひく。そして、大量のCDやアナログ盤。洋楽邦楽問わず、ロック、パンク、メタルなど派手目なジャンルが多いようだ。

その中の一枚を手にとってしげしげと眺める。僕もこのアーティスト好きだったんだよね。

「天堂君、レディの部屋なんだからね。迂闊に引き出しとか開けたら駄目だよ?」

そんな事、言われなくてもわかっている。

ふと、鏡台が目に入った。

なんだか年代を感じさせる、とても趣味の良い鏡台だ。何気なくそこにあるものを見ていて「おや?」と思った。ゴテゴテにアートされた爪が落ちている。

「星咲、これ……」

僕は鏡台の上を指差しながら言った。

「うん?」

星咲は鏡台の上を見る。

「あぁ。六実さんのネイルアートはつけ爪だったんだね。自分の爪にアートするんじゃなくて、アートしたものを爪につけるんだよ」

なるほど。不思議だったんだよな。どうやってあんな指で仕事をするのか。着脱式というならわからんでもない。それでは、本当の相川さんの爪はどんなモノなんだろうか。ああ見えて、綺麗で女らしい爪をしているのかもしれない。人は見かけによらないからね。

なおも星咲は部屋の中を隅々まで調べていた。タンスを開けたり閉めたり。隙間を覗き込んだり。

しかし、特段不審なものは発見できないらしい。

大きなため息をつく。

「なんかあったか?」

左右に首を振る。

「わからないんだよ天堂君。六実さんの人柄を置いておいても、あの人に彩乃を殺さなきゃいけない理由がわからない」

星咲は部屋を見回しながら独り言のように言った。

そして、部屋の中をウロウロと歩き回りはじめた。

何周か部屋を回った後、ピタッと鏡台のところで止まった。そして、つけ爪を手に取る。

「その爪がどうかしたのか?」

「……いや、可能性が一つ思い浮かんだに過ぎないよ天堂君」

星咲は爪を鏡台に戻すと、片眼鏡の位置を直した。

可能性とは何のことなんだろうか。星咲の脳細胞はどんな可能性に突き当たったんだろう。

彩乃・・・に会いに行こうか」

星咲は独り言のようにつぶやく。

そしてまたドアを開けると廊下に出て行った。

どういうことだ?

僕も続けて廊下に出る。

星咲は無言で歩き続ける。

きっと小道さんを探しているのだろう。彩乃さんの部屋はあの人が鍵をかけたから。

しかし、あの屍体を調べる事で何か事態は進展するのだろうか。

それからしばらく、廊下を行ったり来たり、色んな部屋を覗いたり。

しかし小道さんは見つからない。

「おかしいな。どこに行ったんだろう?」

星咲は立ち止まって腕組みをした。確かに、どこに行ったんだろう。

「もうみんなを呼んで扉を破ろうかな」

なんか物騒な事を言い出した。

「天堂君。君の天堂神拳を使う時が来たよ」

「なんだそりゃ?」

「天堂120%!!」

「危機感が足りてないッ?!」

不毛なやりとりにも飽きて、

「とにかく、一回談話室に戻るか?」

僕が提案をしたその時。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


?!

小道さんの声?!

絹を割くのとは程遠い悲鳴が聞こえた。

「天堂君!!」

僕は星咲とうなずき合うと、声のした方へ走り出した。

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