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夜が明けた。長なったような、短かったような。


僕は今まで寝た事もないようなベッドで目を覚ました。高い天井。そうだ。ここは自分の家ではないんだった。もぞりと寝返りをうつ。サイドテーブルに置いておいた腕時計に手を伸ばし、時間を確認する。

午前7時。

そろそろ、橋守の人とは連絡がついたのだろうか。

連絡がついてくれないと帰る事ができない。それは困ってしまう。まどろむ頭の中で、うつらうつらといろんな事が浮かんでは消える。

と、その時、部屋のドアが荒々しく開けられた。

ドアを見ると、いつもの制服姿の星咲か立っていた。片眼鏡の位置を直し、静かに腕を組む。

「やぁ天堂君。目は覚めたかな?」

「……あのさ、ノックくらいしろよ」

「あぁ、大丈夫。君が人に見られたらまずいような行為にふけっていたら、見て見ぬフリができない星咲さしほじゃないよ。安心したまえ」

こいつは朝っぱらから何を言ってるんだろうか。お利口のネジをどっかで落としたのかな。

「朝食の準備ができたと小道さんが言っていたよ。食べに行こうじゃないか」

星咲の言葉に、僕はベッドからおりることにした。

備え付けの洗面所で顔を洗い、寝癖を直し、着替えを済ませた。昨日と違い、普段着だからそれだけでも楽だな。

「みんなもう集まってるみたいだよ。天堂君は寝坊助だね」

「つってもまだ7時だぜ?」

すっかり身支度を整えて、部屋を出る。なんとなく窓の外を見ると、まだ橋は上がったままになっていた。

「まだ橋上がったままなんだな」

「うん。さっきおじ様に聞いたらまだ電話に出なかったって言ってたよ」

食堂に入ると、すでに慎也さん、新見さん、綾田さん、望月さんが食事をしていた。

「やぁ、おはよう」

慎也さんが食堂に入ってきた僕達を見つけて声をかけてきた。皆さんと挨拶を済まし席につく。すると相川さんが僕達の朝食を運んできてくれた。

「あとはお嬢だけか。朝弱いんだよなー。お嬢」

相川さんはブツブツ言いながらまた奥に入っていった。

「しかしまいったね。君たちは帰りの時間とか大丈夫なの?」

新見さんが食後のコーヒーを飲みながら話しかけてきた。

「私や天堂君は学生ですからね。新見さん達の方が大変なんじゃ?」

「もーヤバい。刻一刻とオレの仕事がたまっていくよ」

わははと笑いながら新見さんは言った。その横で綾田さんは心底沈んだ顔をしている。

「俺も研究の続きを早く行いたいんだよな。九凱さん、橋はまだなんとかなりませんか?」

「こちらから動かせない以上、あちらの橋守と連絡がつかないことにはどうにもならないね」

その時、食堂に彩音さんが入ってきた。

「皆様、おはようございます」

皆んなが挨拶を返している中、

「なぁにがおはようだお嬢。今日も一番遅起きだぞ」

相川さんが彩音さんの朝食を運んできた。彩乃さんは運ばれてきたスープカップをつかんで、しかし持ち方が悪かったのか「熱っ」と言ってスープカップを落とした。落とした先にお皿が置かれていたからたまらない。ガチャンと音を立ててお皿が割れた。

「あーあーもうお嬢、なにやってんだよ」

相川さんが布巾を持ってくる。見ると、彩乃さんは破片で指を切ってしまったようだ。人差し指の先から血が玉の様にあふれている。

「けっこう切ってるね。彩乃さん、大丈夫?」

望月さんは彩乃さんの指先に絆創膏を巻いた。

「ええ大丈夫。ありがとう竜也さん」

そんな二人のやりとりを、慎也さんは少し苦い顔をして見ていた。星咲が言ってた「認めていない」っていうのは本当なんだな。

そんなトラブルもありつつ、朝食も終わり。

「さて、ワシはもう一度橋守に連絡をしてみよう」

慎也さんが食堂から出て行った。その途端、綾田さんと新見さんが同時にため息をついた。

「どうしたんですか二人して?」

星咲の問いに綾田さんは力なく笑う。

「このタイミングでも言えなかった。俺の研究室は九凱さんのスポンサーでやってきたんだが、最近スポンサーを降りるとおっしゃっていてね。もう一息で研究の先が見えそうなのに……」

「綾田、お前もなのか?オレも九凱さんと大口の契約があったんだけど、それを白紙にするって言ってきたんだ」

どうやら二人とも慎也さんに仕事の話があったみたいだ。そんな二人のやりとりを聞いていた望月さんぐ急にテーブルを叩いて、

「いい加減にしてください。彩乃さんの前ですよ?」

「いいんです竜也さん。皆様ごめんなさい。お先に退室いたします」

彩乃さんは席を立つと振り向かず食堂を出て行った。

「待ってください彩乃さん!」

それを追って竜也さんも出て行った。

後に残ったのは気まずい顔をした二人の大人と、なんとなく呆気にとられてしまった僕と難しい顔をした星咲。

「私たちも部屋に戻ろうか天堂君?」

星咲の言葉を待っていたかのように、僕は自然に席から立つと二人に軽く会釈をして食堂を後にした。

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