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橋が上がってしまっては向こう側に渡れない。

慎也さんの驚きようを見ると、どうやら彼が指示したわけではないようだ。しかしそうであれば一体誰がこんな事をしたのか?

「と、とにかく操作盤のところに行ってみましょう」

小道さんは外に出て行った。まぁ上がってまったのならば下ろせばいいだけ。それは小道さんがやってくれるだろう。僕達は一度邸内の談話室に集まった。

いまこの談話室にいるのは僕、星咲、彩乃さん、新見さん、綾田さん、望月さん。さっきメイドの相川さんがコーヒーを一人一人に渡してまた出て行った。

慎也さんの姿が見えないな。どうしたんだろう。

「天堂君、ここで黙っていてもしょうがないから図書室に行ってみないかい?」

そういえば、さっき立派な図書室があるって言ってたな。正直興味はある。

「彩乃達もどうだい?」

星咲は彩乃さん達にも声をかけたが、皆さんはここでコーヒーを飲みながら談笑している方がいいみたい。

僕と星咲は談話室を出ると図書室に向かった。途中で相川さんとすれ違ったがとても忙しそうだ。

「ここが図書室だよ天堂君」

中は本であふれていた。かなり大きな本棚が幾つもあり、壁まで全て本棚になっている。うん。古い本の匂いがする。この匂いは嫌いじゃない。

読書机に先客がいた。慎也さんだ。かなり度の強い老眼鏡をかけて何かを読んでいたが、僕達に気づいて眼鏡を外した。

「やぁ、君達も来たのか」

「おじ様、何を読んでいたのですか?」

「うん。橋の操作盤の資料を読んでいたんだ。勝手に橋が上がるなんて今までなかったからね」

資料をコンコン指先で叩きながら慎也さんが言った。そうだ。故障とかトラブルで勝手に橋が上がってしまった可能性もあるのか。

「さしほちゃんは前からここが好きだよね。ゆっくりしていくといい。ワシは小道の様子を見てこよう」

そう言って、資料を手に出て行った。

慎也さんが出て行くのを見届けて、星咲はゆっくりと棚を巡り始めた。やはりこの図書室には相当な稀覯書もあり大変なコレクションなのだそうだ。しかし置いてあるラインナップが凄く多岐にわたっているな。見るからに時代を感じる貴重そうな書物もあれば、つい最近発売されたライトノベルもある。

「凄いラインナップだな」

「おじ様は本に優劣をつけずに気になればなんでも読む方だからね。しかも価値は値段じゃなくて内容。だから……」

と、机の上に無造作に積まれていた本から一冊抜いて、

「これだって見る人が見たら凄い値段をつける本だよ。一般サラリーマンの年収なんて軽く超える。こんな本を普通に扱えるなんて、おじ様くらいだろうね」

僕みたいにあまり詳しくない人間には古くて少し汚れた本にしか見えないけど。そうかぁ。そう言われると触れない。怖くて。

星咲は相変わらず棚から棚へ移動し、気になる本があればパラパラとめくっては棚に戻すという行動を繰り返している。しかしこれだけ本があると背表紙を眺めているだけでも壮観だなぁ。背表紙を眺めていると、読書はあまりしない僕でも興味がある題名がいくつもある。

そんな感じで僕達がそれぞれ図書室を堪能していると、図書室の扉が開いた。

彩乃さんだ。いつ着替えたのか、ドレスから白い清楚なワンピース姿に変わっている。凄くシンプルなデザインが似合う。元の素材がいいからだろうな。腕には太めの、アメカジっぽいというか、インディアン系のバングルをつけていた。大きなターコイズがはまっていて、とても細かい彫金がされている。きっとその辺の店で売ってる物とは一味違うんだろう。

彩乃さんは僕と目が合うとニコッと微笑んだ。うん。美少女だ。

「秋羅さん、うちの図書室はいかがですか?」

「いや、もう凄すぎて声も出ませんよ」

実際、凄いコレクションだと思う。本の価値がわからない僕がそう思うくらいだから、わかる人が見たら泡を吹いて倒れるかもしれない。

「いやー、彩乃、相変わらずここは素晴らしいね」

本棚の影からひょっこり顔を出した星咲が言った。本当にこの場所が好きらしく、すこぶる機嫌がよさそうだ。

「さしほちゃん、秋羅さんも、先程の談話室に軽食を用意させましたのでご一緒にいかがですか?」

軽食、と聞くと確かに小腹が減ったような気がする。パーティーみたいな場には慣れてないからあまり食べられなかったしね。うん。何か食べたい。

「そうだね、少し小腹もすいたしありがたいよ」

星咲は手に持っていた本を棚に戻すと、僕達のところにやってきた。

「おじ様達は?」

「先程、小道と戻ってまいりましたが、どうも現状は思わしくないようです」

「ふーん…おじ様たちも談話室にいるのかな?」

「はい」

「詳しい話はおじ様たちに聞こう。そんなわけで天堂君、魅惑の時間は終わりの鐘が鳴ったみたいだよ。現実に戻ろうじゃないか」

星咲は図書室のドアを開けて、ドアの外を指差した。


談話室に入ると、テーブルの上にはサンドイッチがあり、紅茶が湯気を立てていた。

「やあ、さしほちゃん達も来たね。それでは状況を確認しようか」

慎也さんは、僕達が椅子に座るのを見届けてから口を開いた。

「結論から言うと、こちらから橋を動かすのは不可能そうだ」

「ど、どうゆう事ですか?」

「うん。ワシと小道で操作盤を見てきたのだが、素人では手のつけられないくらい破壊されていたのだよ。向こう側から操作してもらう必要があるが、この時間では向こうの橋守はしもりも電話に出まい」

言われて腕時計を見る。23時。都会ならこれからの時間だが、こんな田舎では寝静まっていてもおかしくはない。

「幸い、食料の貯蔵はあるので今すぐどうこうなるという事もない。夜が明けたら橋守に電話をして動かしてもらおう」

慎也さんはそれだけ言うとグッと紅茶を飲んだ。はてさて。なんにせよ夜が明けるまでは何もできないのか。無事に明けてくれるといいなー。頼むよ。

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