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「なんのおつもりかしら?さしほちゃん?」
九凱彩乃は歌うように言った。銃を突きつけられたまま。
「その銃はみなさんに渡した銃のどれかですね?それなら弾は入っていません」
余裕の表情で九凱彩乃が言った。
そうなのだ。あの銃には弾が入っていない。それは銃を奪った時、弾倉を確認して知っている。星咲は何を考えているのか。
「本当にそう思う?彩乃」
ギリッとグリップを握る手に力が入った。
「当たり前です。だって弾を抜いて渡したのは妾なんですから」
それを聞いて、星咲があざ笑うような声を出す。
「どっかで弾を調達した可能性は考えなかったかな?例えば、おじ様の机の2段目の引き出しとか」
それを聞いて、小道も九凱彩乃も固まる。顔から血の気が引き、真っ青になった。
「冗談よね、さしほちゃん??」
さっきまでの余裕はどこへやら。慌てたような口調になる。
「爆弾はどこ?」
「図書室にあります」
「じゃあ行こうか」
星咲は銃で小突くように九凱彩乃を誘導した。僕は小道が隙をついてこないように注意しながら移動させる。
無言。
ただ、くつ音だけが響く。
どうやら、星咲は鉄格子に二人を入れるつもりらしい。
コツコツと階段を降りる。
鉄格子の前に着くと、九凱彩乃を人質にとる形で小道を中に入らせた。
続いて九凱彩乃も入れるのかと思いきや、扉を閉めてしまった。
「なんのつもり?」
「彩乃。君は私を舐めすぎた」
星咲は今までよりも強く九凱彩乃のこめかみに銃口を押し当てた。
「や、やめてさしほちゃん!」
「信じてみなよ。自分の、運ってやつを」
少しづつ、星咲の指に力がこもる。
星咲の目は、間違いなく引き金を引く目をしている。怒りに満ちた、そんな目がモノクルの奥で光る。
しかし、星咲を殺人犯にするわけにはいかない。
僕が動こうとしたその時。
「バーン!」
ガチン!っと金属音。
九凱彩乃はその場にへたり込んだ。
弾なんてやはり入ってなかったのだ。
「ハッタリだよ天堂君。私の演技も大したものだろう?」
恐怖で放心状態の九凱彩乃を鉄格子の中に入れながら星咲が言った。
また扉に鍵をかける。
「さて。爆弾なんて放っておいて帰ろうか」
爆弾という単語に、望月達は反応して星咲を見る。
どうやら、爆弾の存在を彼らは本当に知らなかったようだ。
その視線を無視して星咲は歩き出した。僕もそれに続く。
後ろでは激しく言い合う声が聞こえるが無視した。
「さて天堂君。爆弾なんて放っておいて帰ろうか。後は警察に任せよう」
「橋も下りたしな……ってバカ!」
絵に描いたようなツッコミ。
「天堂君もツッコミが入れられるようになったんだね」
星咲は大げさに涙を拭う仕草をした。
しかし今ごろ九凱彩乃達は戦々恐々だろうな。
僕たちが爆弾をどうにかするなんて保証はない。爆発したら終わりだ。
まぁでも、自分で仕掛けた爆弾なら因果応報だろう。他の人たちは巻き込まれた形にはなるが、みんな共犯だし。
本当に放っておいてもバチは当たらないんじゃないかな。
そんなことを考えながら、図書室についた。
さすがに少し緊張する。星咲をチラッと見ると、やはり緊張した面持ちをしていた。
星咲は細めに図書室のドアを開けて中を伺う。特に扉近辺には異常や仕掛けはなさそうだ。
人が入れるくらいの隙間が出来ると、まずは自分が中に入り、僕を手招きで招き入れた。
おぉ。
読書机の上に、これでもかというくらいわかりやすい物が置いてある。
何本かの筒状のものがテープで束ねられ、時計から伸びる3本の線が筒にのびていた。
「わかりやすすぎるな」
「ザ・時限爆弾だね」
時計を見ると、どうやら爆発までは数分ありそうだ。僕と星咲は念のため図書室内をくまなく調べた。
しかし怪しいものは他にない。
やはりこれが九凱彩乃の言う爆弾なのだろう。
「さて天堂君。どうしようか?」
爆弾についてる時計の針は刻一刻と進んでいる。
もうあまり時間は残ってなさそうだ。
星咲はポケットから何か取り出した。肥後守のような小さな折りたたみナイフだ。
時計から伸びる線を確認する。左右が青で真ん中の一本だけが赤。
「わかりやすっ!」
「おまけのイベントなんてこんなもんだよ。隠す気もなかったんだろうし」
迷いなくあっさり赤い線を切って、星咲はため息まじりに言った。
九凱彩乃はガチガチと歯を鳴らしながら頭を抱え、隅にうずくまっていた。
爆弾が爆発したらみんな終わりだ。
もちろん、自分も死ぬ。
妾は生き残るはずだったのに……!
望月達は鉄格子を引っ張ったり蹴ったりしているが、びくともしない。
星咲さしほは戻ってくるだろうか?いや、その可能性は低く思う。
チラッと時計を見た。
もう間もなく、自分が設定した爆発時刻だ。
震えが止まらない。
と、いきなり胸倉を掴まれ、無理やり立たされた。
綾田だ。
「どういうつもりだ!なんで俺がお前らと心中しなきゃならねぇんだ!」
「彩乃さんになにを……」
「うるせぇ!」
望月が間に入ろうとして綾田に殴り倒された。
「あいつらを犯人にして俺たちはにげるんじゃなかったのか?!」
小道に助けを求めようとするが、彼は鉄格子からその向こう側を見続けている。
まるでこの喧騒が聞こえないかのように。
綾田の拳が頬を打つ。
よろめいた先には新見がいた。彼も綾田と同じ目をしている。怒りに我を忘れた目。
爆弾が爆発しなくても、このまま殺されてしまうかもしれない。
小道も望月も役に立たない。こいつらに殺されるくらいなら舌を噛んで……
九凱彩乃が覚悟を決めたその時。
ドカドカと多数の足音が騒々しく近づいてきた。
警官だ。
先頭に立っていた警官は、鉄格子の中のやり取りを、まるで動物園で檻の中の動物を見るような目で見ていた。
手には鉄格子の鍵を握っている。