第三十四話『新学期』
「…………」
「なにしてんのあんた。入らないの?」
「あぁ。見にきただけだから」
僕たちは二年生に進学し、それに伴いクラス替えがなされた。
進路により文系と理系は分けられるので、僕と朱連はクラスが離れることとなる。
それもまあショックだったが、あらかじめ知れていたことだから文句はない。僕はてっきり朱連も文系だとばかり思っていたけれど。
それより、かねがね朱連は、クラス替えが嫌いだと春休み中しきりに愚痴っていた。そこまで言われると、僕はそれを心配して様子をこっそり見に来たのだ。
それに人聞き良く朱連の顔を拝めるし。
クラスで朱連の様子はと言うと、ずーぅっと本を読んでいた。
文庫本サイズの表紙に色相鮮やかに描かれた女の子がにっこりしている。部屋と居間の本棚にああいった類の本が几帳面にしまわれているのを見るに、朱連はああいった本が好きらしい。
だけども朱連が本を読んでいる光景なんて僕は学校でお目にかかったことがない。それとも僕が構いすぎて読む暇を与えなかっただけか?
……逆に考えると、朱連はいま暇ということになるだろうか。クラスにはもう殆ど人が集まっている。朱連が気にしてたのはクラスに友達がいないことかもしれない。
朱連なんて、俺は一人が良いみたいな雰囲気出してるくせに意外と寂しがり屋? そういうの可愛いと思うよ。
――さて、そろそろ見てるだけじゃ物足りなくなってきた。
「やめときなよ」
僕が動き出すよりも早く声をかけられ、ビクッと体が固まった。
いつからいたんだろうか。金髪のきりりとした顔つきの眼鏡の青年が僕の横にいた。
「朱連、一人でいるの好きだし、そっとしときな」
あぁこいつ朱連の知り合いなんか。
「お前だれ?」
青年は表情を僅かに変えた。呆れたんだと思う。
「自分から朱連のクラスに連れてけって頼んできたのに、名前も知らなかったの?」
「あぁ。たまたま近くにいたし、だから頼んだだけ」
そういえばそんなこともしたっけなぁぐらいの感覚で答える。こいつには悪いが、俺は本気で朱連以外のことはどうでもいいからあまり記憶になかった。
「……朝比奈 翼」
「へぇ。あぁ、聞いたことあるかも」
学園内に朝比奈とか言う双子がいるって程度で。
「あんたは青翔 晴でしょ。知ってる。有名だから」
僕はなんてことないように笑って見せた。
有名。引っかかる言い方してくれるな。
双子の弟の方が続ける。
「だけど俺、朱連から聞いた話しか本気にしてないからさ、あんま気にすることないよ」
「……あぁ、よく分かったね。僕がそういう噂であなたのことよく知ってます感出されるの、嫌いってこと」
僕は学園内で同性である上西 朱連が好きだと包み隠さずしているもんで、一方的に名前が知れ渡っていることには慣れている。
だけどそれで知らない奴が話しかけたりしてくるのは気に食わない。ニヤニヤしてて感じ悪い。ホモに話しかけたぜーなんて、それ自慢してドコが凄いんだ。
「そういうこと、朱連には言わないようにしてるんだけど」
「朱連も同じで、噂が嫌いだったから。あんたもそうかと思って」
「それでお前自身は、ホモな僕のこと、どう思ってる?」
「? どうもなにも、別にどの感情も持ち合わせてないけど」
至極普通そうにそう言うもので、僕はなんだか笑いそうになった。
「……君のそういう他人に無関心なところ、僕と合いそう」
「そう。良かった。俺、お前と友達になりにきたんだ」
「友達? なんで?」
「なんでも」
顔色一つ変えやしない。
「……その顔じゃ、何か考えてるか分からんわ。でも面白そうだから友達になってもいいぞ」
「上から」
「別にいいだろ」
「……あんたってさ、朱連の前じゃキャラ作ってるわけ?」
「意識してるってわけじゃないが、他人から言わせればそうらしい」
僕は朱連のことは笑わせたり楽しませたりしたいから明るく振舞うよう努めている。
ので、そのことで精一杯なんで、他の奴にあまり考慮したことがない。ほぼ自然体だ。
落ち着いててそっちの方が男らしい、クールでいいと部活連中に言われたことがある。
だが明るいキャラで押し通している朱連の前では、いまさら変えようもないっていうのが本当だったり。
「まあ、僕は元々クールな……」
「おー青翔。ちょうど良かった、暇だったんだよ」
「うぉおい! あ――あぁ! 違うんだ僕、別に猫とかそんな、被ってなんて!」
「相変わらずうるせぇなぁ。んでなに。猫? 被る? 何を」
「――ぬあぁ!? 違う、そうじゃなくて!」
「なに焦ってんだよ……やかましい」
「気にしないであげて」
「あれ翼? お前らが一緒って珍しくね?……あぁそうなんか、クラス一緒なんだな。青翔の子守よろしくな。ほら、こいつ落ち着きねぇからさ」
「……そうらしいね」
「――あれ、俺なんか緑川と約束してたような…………あ、クラス遊びに行くんだった」
「行けば?」
「そうするわ。わざわざ来てもらってすまねぇが、じゃーな」
朱連が手振っていなくなり、僕は息を吐いた。
「…………なに?」
視線を感じてチラッと隣を見る。目にだけ感情が宿っている感じで、なんとなく嗤われているのが分かった。
「……さっきなんて言った? クールだっけ?」
「うるせぇーな、朝比奈弟」
「いや俺――」
「戻るぞー朝比奈弟」
「はいはい……」
とりあえず今日は、コイツはいい性格してやがることは分かった。
飛び交う筆箱。追う人間と嗤う集団。クラスは喧噪に取り込まれ、一つの団子になった女子生徒らが「やーね」と言いながらお決まりの談笑を楽しむ。
学生時代の良き悪きを左右するのはクラスだ。俺は断言しよう。(もしも卓越した才能があったりすれば、たまの例外もあるかもしれない)
学校はもともと閉鎖的だし、そこをさらに細分化した結果が教室だ。数日過ごせばクラス内には暗黙の了解が出来上がって、発言していい人間とダメな人間が生まれる。
クラスには色んな人間がいるが、クラスの雰囲気と言うものを作っているのは発言していい人間だ。だから『そういう人間』がどういう奴か、で一年が決まる。
なにが言いたいかと言うと、やだこのクラス。
このクラスは何処も惨めじゃない。クラス編成を上手くしたもんで、バランスが取れてると思う。落ちこぼれが出来そうもない。
たぶん、明るいからあのクラスが良かったーってな感じの評価を貰うだろう。
俺もうまく立ち回れるとは思う。適当に友達を作って、孤立はしないだろう
俺が嫌なことは、それとは関係ない。
さっき言った『そういう人間』つーのが、こぞって馬鹿なのだ。恐らくクラスは解んないの言葉で埋まって、馬鹿丁寧な解説が付随して湧きあがる。俺には余計な助長な説明が時間を割いて繰り出される。
そりゃあ、難解ならば凡人にはそれなりの説明もいるだろう。だけど奴らは理解しようとして聞いてないから分からないのであって、つまるところそれは二度手間にすぎないのだ。
そういう遅れに合わせるのはストレスでしかない。
どうせ国内ならどの大学も余裕で入れるからと緑川と同じこの学園に進学したが、ここまで酷いなら文系専門の学校に進めばよかった。今更ながらため息をついた。
話のレベルが合うような奴もいるとは思えない。もういっそのこと必要単位だけもらって家で自習でもしようか。
「はよっ!」
(声でけぇ……)
「聞こえてる? おーい! 望月 勝くーん!」
(え、俺?)
……誰だこいつ。
はて。金髪、ピアス、ネックレス。染めてるし、チャラチャラしてるし、品性を疑うな。
「あれ……? 聞いてるー?」
「聞いてるよ。ちょっと寝不足なだけ」
にしても馴れ馴れしい。絶対俺はこいつと知り合いじゃない。人に興味がない俺でも、顔と名前の一致ぐらいできる。
「あ、春休みの宿題終わってる? 俺さー、丸付けすんの学校でしようと思ったら解答家に忘れてさ。だから解答貸してー」
「……別にいいよ」
その前に誰だよ。
「サンキュー! あとさ、放課後ひま? 今日ちょうどクレープ食べたい気分でー」
「……その前に聞いていい? お前の名前」
「…………あ。そうだ俺、自己紹介まだだったか」
よくその手順忘れられたな。うっかりで済まないレベルだろ。
「俺は朝比奈 天。一年のときよく朱連といたんだけど、見覚えない?」
「あ、あー……あの双子ね……」
そう言えばいたな。顔そっくりの二人組、朱連の周りに。これはあの馬鹿っぺー方か。
初対面にここまで馴れ馴れしいなんてどういう頭してんだよ。非常識通り越してサイコパスだろ。
「望月くんのことは女の子たちから聞いたことあるよ。ちっこくてフランス人形みたいに可愛いって有名だし」
土に埋めたろうかこの野郎。男なのに小さくて可愛いとか、屈辱でしかないんだけど。
あとサラリと女の子たちって、慣れんなぁこいつ……。
「あはは、ありがとう」
早くクラス替えしろ。
……クラスは朱連と離れた。最悪だ。新とは同じだったのか唯一の救いだった。クラスは大人しめだったので女子が騒ぐ事もなく安心した。
今は朱連を待っている。
「朱連おっそ」
「これは……すっぽかされましたなぁ、緑川くん」
「……新、アメ」
「雨は降ってませーん」
「飴」
「はい」
新はポケットから棒付きキャンディーを取り出して俺に手渡す。俺の好みを心得ているので味は赤りんご。
「……隣のクラスだったよね」
「そうだね」
……朱連だし、どうせ昼寝でもしてて忘れてるな。なら慌てて来るし、それまで新で遊ぶか。
「おい新……」
「――彼女はどのクラス?」
「は?……いや、あいつは文系だから朱連とは同じクラスじゃない」
「そうじゃなくてさぁ、茶木さんは何組って話だよ」
「それは、知らない」
「……あんねー緑川くん、きみ腐っても彼氏だろ? もっと彼氏らしくできない?」
「…………分かってる」
「まったく。これだから緑川はー」
新に背中を叩かれる。ウザい。あと地味に痛い。
言われてみればアイツのクラス把握してなかったな。後でメールぐらいしとこう。
「――っと、ごめん緑川、遅れた」
タイミング良く朱連が教室に駆け込んできた。言わずもがな、あれは約束忘れてた顔。
「…………」
「なんだその目。ごめんって、遅れて」
「いや、気にしてないよ。ほら座って」
「おう」
朱連は近場の席に座った。すかさず新が笑いかける。
「飴ほしいか、朱連?」
「くれるなら貰うが」
「聞いただけーあげませーん。残念でちたー」
「殴ろうか」
「じょーだん、暴力は嫌いだって」
今日の新は妙に茶化してくるな。それが気分のいい証拠なんだが。
「……お前って大阪のおばちゃんみたいだよな」
「なんで? 飴いつでも持ってるから? まあオレの体はそこまで年取ってないけど。はい青りんごー」
「あざーす」
朱連がそれをぱくりとそれを咥えたのを見届けてから話を再開する。
「んでクラスはどうだった?」
――ガッ! ゴリッ!
嫌な音がした。ぽとりと青緑のキャンディーの欠片がついた白い棒が朱連の膝の上に落ちる。
「飴ついたら汚いよ」
ひょいと朱連の膝の上から棒を取った。
「それで――クラスどうだった?」
「なになに? ふむふむ……クラスに友達がいなくてぼっちだって!? そりゃ大変ごしゅーしょーさま」
「新、分かったから黙れ。俺が友達いないのは元からだ。そうじゃない、アイツが――――げっ!」
突然のオーバーリアクションで椅子から転げ落ちそうになる朱連。俺と新は朱連の視線の先を見た。
「ここのクラスだったか新。俺はとな…………あ゛?」
いくら他人に関心が無いにしろ、その出で立ちは見覚えがあった。
三白眼に赤メガネ。口元にほくろ。不健康なもやし体系。あと不潔なボサボサ頭。あの十六夜 一樹で間違いない。
俺と新は顔を見合わせた。思ったことは互いに同じだった。
「へぇ~! 朱連ちゃんと二年目なんて、いっちゃんついてるねぇ」
「良かったじゃん。知り合いがいて、さ」
二人でワザとらしく煽ると朱連が俺の腕をギリリッと捩じり掴んできた。
「てめぇそれマジで言ってんのか!? いっぺん死んでみるか!?」
目が血走っていて朱連のしていい顔じゃないと思った。
「一樹は意外と冷静じゃない?」
「……あぁ。いま、明日から不登校になると決めたからな」
「不良なこと言うなって。ほぉら、二人とも、仲良くしなさい!」
新は二人の肩を持って無理矢理近づけようとする。それを頑なに拒否する二人。
「むりだっつーの!」
「不愉快だ!」
「いやいや~、お二人さん? 息ピッタリですよー?」
俺は朱連とかとあんま喧嘩したことないから知らなかったけど、なるほどこれが喧嘩するほど仲が良いか。
「なに一人で頷いてんだよ緑川! 笑い事じゃないんだぞ!」
「あーはいはい……」
まったく。めんどくさい二人だ。
あと何日で仲良しになるか見ものだ。
初日の学校は始業式とかつまらん催し物しかなかったので、緑川の教室から出た後は保健室に直行した。それに十六夜なんかと同じクラスにはいたくない。
今日は一応頭痛という形でサボり。昨日はよく寝てたし星野先生と雑談してもらうことにした。
「始業式ぐらい出たら?」
「いやいや、勉強とか関係ねーしでなくていいでしょ」
星野先生とは結構な顔なじみだから、談笑の内容も普通の先生と比べてフランクだ。こんなこと、他に言ったら大目玉だろう。
星野先生が居てありがたいな。こんなこと話せる大人もいないし。
「なんで意味もなく式典とかしたがるんでしょうね、大人つーか、社会が」
「何事にも絶対にムダってものはないのよ。皆がみんな真意をくみ取れてないだけで」
「そんなもんかねぇ。堅苦しいしなげーし、聞かせる気そもそもないと思いますが? よく分かんねぇ」
なんでこう、大人っていうのは何でも難しくしてしまうんだろう。言葉を湾曲していつも遠回り。
伝えたいことはハッキリ言えばいいのに。俺は馬鹿だからあまり難しいのは苦手だ。
「大人になれば、みーんなそうなりますかね。慣れるんかなー」
「ならざるを得ないってこともある」
「強いられて変わるってのは、それはそれで嫌ですねー」
つくづく思う、大人になりたくない。
俺の中に根深い徹底的な大人への嫌悪感もある。今まで一番見てきた大人は教師だったが、誰一人いい思い出がない。だから自分も同じになるのが嫌なのかもしれない。
それに、俺の中で描く自分の未来図もパッとしないし、見通しの目標もない。
曖昧でなんとなく、はっきりしないけど、考えだしたら自分の胸の中ではモヤモヤとした不安があるばかり。
そんな状況で大人になることが怖いのかもしれない。
もしくはその両者。
「今日はどうしたの? らしくないじゃない」
「ほんとですよね。俺、将来の事とか考えるの苦手なのに」
たぶんここで先生に会えるのがあと二年だからなんだろうな。受験で忙しくちゃ三年はあっと言う間だし。
「難しいことばかり考えるのはやめなさいね。たいがい一人じゃ解決しないから」
「へへ、そうですよねぇ。今日はそろそろ戻ります。宿題出さないと」
戻ったら十六夜がいるな。帰るまで暇だな。あぁ戻りたくない。
「そうだ、俺、クラスに友達いないから、また来ちゃうかも。いいですか?」
小さく頷くだけだと思っていた先生が今日は珍しく俺の目を見た。
何も言わずに、俺を見ていた。
その日の夕方。昼飯にも帰ってこなかった勝がげんなりして帰ってきた。リビングのソファに座るなり通学鞄を投げ出す。
「不登校になりたい……」
「おいおい、どうしたよ」
勝が俺を横目で睨みつけた。
「君の友達だろ。あの双子の兄の方。何とかしてよ」
「双子のって……天?」
「あー! そうだよそいつだよ!」
勝がドンッとガラス机を拳で叩いた。久々に聞くな、勝の怒鳴り声。
「ガラス割れる。落ち着いて、な?」
「……ごめん」
「えー。天がお前になにかしたのか?」
「連れまわされた。商店街の店全部まわった。めっちゃ食った」
「帰るって言えばいいのに」
「アレは言っても聞かないタイプだよ」
勝はネクタイを緩めるとソファに足を投げ出し寝っころがる。勝がここまで参るなんて、天もなかなかやるな。
「んでも、悪い奴じゃねぇんし、仲良くしてくれよ」
「あのね、俺バカは嫌いなの、分かる?」
「あーでも、天は見た目ほど馬鹿じゃねぇよ。翼より成績いいんだぜ」
「え!? あの真面目そうな弟くんより兄くんの方が頭いいの!?」
兄くん? 弟くん?……天と翼のことかなり妙な呼び方するな、青翔。
「まあ――あいつ要領は良いから」
「……本当に頭いい?」
「定期試験は俺よりいいぞ」
「いやそれ参考にならない」
「うるへぇ一位、出てくんな」
「はいはいごめんね。勝、なんでそんな頭の良さ気にするの?」
「だってレベル合わないじゃん。バカは宿題教えて勉強教えて五月蠅いし」
「ほー……」
定期試験で勝は毎回緑川に次ぐ二位だ。確かにそういう経験もあるだろう。俺は緑川に聞いてたから勝にはないけど。勝は怠けた人間は嫌いそうだし、勝らしい意見だ。
「ん? そのくだりでいくと、…………俺は?」
お世辞にも俺は出来が良くない。順位はもっぱら半分から下のそこらだ。しかも一週間前でやっと、緑川に付きっきりで教えてもらってなんとかしてもらっている始末。
勝はじっと俺を見た後、
「いやー……朱連とは、元々そんな話さない」
「そうか。バッサリ言われるとキツイな」
「……ま、ちょっとぐらい面倒見てあげるぐらいしたら? これから先いろんな奴いるし、何事も経験だよ、勝」
「君が経験を語るんだね緑川……一番人を選んでそうなもんだけど」
「いやだな、俺はバカも好きだよ。面白ければ」
そこで俺を見るな。俺がバカみたいになるだろ。
「……なるほど。緑川君、僕は君にとっちゃ面白くないかな」
「正解。少しも面白くない」
「ほぉ、奇遇。僕も」
あ、またか、って顔に俺と勝がなった。
「気に入らないならなにか……ゲーム以外で決着つける? ゲームだとどうせ? 君が負けちゃって可哀相だし? あえて、ね」
「ま、まあまあ。そう言う事はあえてしなくていいから。飯食おう、な」
「は?……上等。てめぇを一位の座から引きずり落としてやるよ」
「聞けよ!」
「飯、先に食ってるよ朱連」
「俺も食う」
「俺らってさ、ながーい期間一緒に過ごしてるけど、特段仲良くはないよな」
「まあ……俺はこの程度の距離感が丁度いいよ。毎日一緒だとさ、これがいがーいと、仲良しこよしじゃ面倒なんだよな。何事もバランスってね」
まあそうか。俺らが肩組み合って仲良ししてるのも気持ち悪い。
二年後にはもう俺ら三人は卒業。ここから出ていけばバラバラで、一緒に住まなくなる。
だけどこのまま付かず離れず、仲が拗れることなくいれたなら、またいつか、久しぶりって、会えるようになるんだろう。何十年先でも、また会える。
だから何も変わらずこのままがいい。
「これからもほどほどによろしくなー勝」
「なに? 気持ち悪いんだけど」




