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第三十三話おまけ

三十三話、夜中の出来事

「何している。こんなところで、こんな時間に」


 夜中で真っ暗だった。誰の顔かすら判断はつかない。

 だけどこんな子供じみた高い声で威圧感を与えられるのは勝だけだと思った。

 勝ほどお喋りでもない。それに答える義理はない。


「懺悔でもしているのか」


 勝は的外れなことを言う。笑ってやった。

 …………なんだか眠い。そろそろ自室に戻ろう。

 勝の隣を通り過ぎたとき、勝はなにか呟いた。


「よーく覚えておけ。誰が朱連を、ああしたのか」


 昔はそれに思うところがあったかもしれない。

 だけどもう何もない。時間は戻らない。犯した罪は変わらない。もうなにもわからない。

 俺はアイツからは逃げられないのだから。






「ちゃんと諦めてくれたのか。ならこれはもう用無しかー」

 ぴんっ、と茶色の駒が人差し指で弾かれ、平らな台座の端の上でなんとか落ちることなくスピンする。

 片腕を広げたぐらい横幅のある木製の台の上には、チェスの駒のようなものが二十個近く置かれていた。色や形はどれも異なりガラス製で、ひとたび床へ落ちようものなら容赦なく粉々に割れ、二度と元には戻らないだろう。


「ねぇ何してんのー?」


 駒は生きている。そして死と生を神に操作される代物。

 割れれば死。端に行けば用無し。真ん中は生き残りで出演できる。


「パパは今ねー、ゲームちゅう」


 駒は自分の意志で人生を歩めていると大いなる勘違いをしているだろう。

 だが実際のところ駒の意志なんぞはゲーム上の趣向の一つに過ぎない。

 この駒はこういう性格だからこう言ってやればこう動く。そうしたら愉快だ。

 たったそれだけで駒の人生は簡単に変えられてしまう。これは残酷なことかもしれないが、それがいいところなのだ。


 たまにその真実に触れる奴がいるかもしれない。

 現に今回は二人いた。

 一人は「それは楽しそうだ」と言った。

 もう一人は受け入れられずに否定した。

「俺の人生が誰かにコントロールされているなんてことはあってはならないことなんだ」

 そう負けん気に言い、自分は神の思考の先読みをしてやると豪語していた。


 だけど悲しいかな、それもただの独り相撲。

 自分が勝った気になって天狗になるところも、神の思惑通りの操り人形。


「なあ天、どれが一番いらない駒でしょーか」


 駒は神のもたらす理不尽には逆らえない。


「――この青いの」


 駒はただ、いつ自分が神の標的にならないか、部屋の隅でガタガタ震えているしかないのだ。




 操作した通り。

 朱連チャンは手を出してしまった不良集団から彼女を守る為にそいつら丸ごとを潰してくれた。

 事件もすっかり揉み消された。奴らが事件について思い出すことすらありえなくさせた。それと少しか収穫もあった。

 おかげで奴ら分裂。行き場のない散り散りの不良共に今や力はない。

 たぶん近々弟さんがそれを知り駆けつけるだろう。全てまとめてくれる。そうしたらこの町も少しは静かになって住みやすいだろう。


 どうせなら弟さん、また王様を排除してくれないだろうか。

 ……いや、そうさせるのが、神様の役目だ。すごく面白そうだ。

「俺たちを出し抜こうたってそうはいかないよ、青翔晴」

 口の中で踊る飴が程よく溶け、甘美だった。


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