【友葉学園】7:56発 エセマジシャン行き
主人公は川添美空 超能力系女子(絶対可憐系女子)です。
7:56発、友葉学園行きのバスで私は一日のスタートの気合が入る。
晴れの日も雨の日もこのバスで一緒になる、名前も知らない背の高い3年の先輩。
私こと川添 美空はそんな人と恋をしました。
「その話は何回も聞いたよ……」
2-Aの教室で私は友達の目方 由那ちゃんと毎朝の挨拶代わりにまた惚気ていたらしい。
「ってかそれ惚気って言わないでしょ。一方的に好きなだけなんだし」
うう、痛いところを突かれる。
「それよりも知ってる?」
「『それ』とか言わないでよ。酷いな」
「……めんどくさいわね……あんた」
まあ許してやろう。
「ごめんごめん、で何?」
「うん。そのね、榎田さんにね彼氏が出来たんだって!」
「ええっ! 榎田さんってウチのクラスのだよね!」
「わわっ!?」
驚いて私はゴトンと水筒を倒してしまった。
「あーちょっと……」
「ご、ごめんよぉ……かかってない?」
「それは大丈夫だけど……まあ零れたのも少しだけだし気にしなくてもいいよ」
私は謝りながらティッシュで机の水滴を拭き取ってゴミ箱に投げ捨てる。
……少しだけズレたので軌道を修正する。
「あんた、本当に命中率高いわね……」
「まあそんなことよりもさ、誰と付き合ったの? マドンナと付き合えるようになった果報者は?」
そんな女の子でもドキドキするような娘っ子と付き合うなんて、うらやまけしからん。
「それがね、驚くことに鏡くんなんだって」
「鏡くんっ!? ……って誰だっけ」
なんか名前は聞いたことあるような……
そう思ってると由那ちゃんが呆れながら呟いた。
「……あんたの右の男子」
「へー、鏡くんって言うんだ」
ネクラくんやるなぁ。
「でも鏡くん凄いなぁ。告白するようなキャラじゃないじゃん」
「それがね……榎田さんの方から告白したんだってさ」
「えええええっ!? な、なんでまた」
私はまた驚く。なんとか今度は水筒は倒れなかった。
「さあね……私が聞いても『裕くんの良いところ言ったら取られちゃうから言わない』って言って教えてくれないの」
なんだよ可愛いな畜生。
「で鏡くんの方は?」
「聞いたらさ『僕にもよく分からない』って……まあ告白された側だから仕方ないかもね」
そんな会話をしているとチャイムがなった。
「おい座れー。……今日は絵はないのか。残念だな」
稀に黒板に描かれる謎の名画を見ることに先生はハマったらしい。
「もし描いてるやつがいたら文集のイラスト頼みたかったんだがな」
そんなこというから来ないんだと思うよ先生。
*****
美術の時間になる。今回はデッサンだ。
選択授業だけど、もしかしたら絵の犯人がいるかもしれないな……
「美空ー」
「由那ちゃん」
「どんな感じ?」
由那ちゃんは私の絵を覗き込んできた。
「どうかな」
「……普通」
そりゃそうだ。
「由那ちゃんは?」
「どうかな」
「……見てて酷です」
「ボロクソ言うわね」
そう言って由那ちゃんはスケッチブックに描かれた謎の生命物体A,B,Cを隠す。
その面目だとやはり自信はないようだ。
「……ねー由那ちゃんはさ、あの絵の正体誰だと思う」
「……さあね、妥当なところだとマドンナか美術部か……先生の自画自賛っていう説もあるね」
先生の自画自賛……それはないわ。
そのとき、丁度時間終了の声がかかった。
「ありがとうね。本当によく知ってる」
「ううん、まあ情報通ですから……あとデッサン消しゴム落としてるよ」
そう言って去る由那ちゃん。
私は落とした消しゴムを軽く浮かせてから(・・・・・・・・)拾い上げた。
そう言えばこのあとデッサンの回収か……なら絵を見て分かるかも。
そう思うが、全員スケッチを裏向けているため見えない。
……仕方ないか、バレないように使っちゃおう。
そう思うと私は先生の話を聞かずに目の間に力を入れて『透視』を開始した。
*****
私、川添 美空は超能力者である。とは言ってもこのことは由那ちゃんにもバレないようにしてるし、っていうか使う時は大体バレないような使い方である。
例えば、カバンの取っ手を握りながら浮かせたり、ゴミ箱にゴミを投げ捨てるときに軌道を変えたり、分かりにくい先生の説明をテレパシーで受け取ったり、遅刻しそうになったときにテレポートで校門裏まで……そんなところでだ。
そんな地味な使い方しかしないのには二つ理由がある。
一つは、当たり前だけどバレると大変なことになるから。
そしてもう一つは、私の力が強すぎるからである。
私の能力は念力、瞬間移動、意思伝達などの他、スプーン曲げ、水をお湯に変えるとか超能力者に出来そうなことならほぼ全て出来る。某漫画作品風に言えば超度7だ。
しかもその力は絶大であり、念力ならトラックどころかビルの破壊もできるし、テレポートなら北極から南極まで自由に行くこともできる。
だから使い方を誤ればエゲツないことになってしまうこの力を表に出すわけにはいけない……と組織でいわれた。
組織っていうのは……まあそういう超能力関係の組織である。
だからバレないように使っているのだが……
(そもそも距離が遠くて絵が見えない)
という結論になることも多々ある。
(なんだよ……せっかく犯人が分かると思ったのにな)
……まあいいや。
*****
お昼ご飯になり、私は由那ちゃんと教室で食べることにした。
食べる場所は窓際、私の中では常識である。
ちなみに、榎田さんは鏡くんの腕を掴んで教室を出て行った。リア充め。
「微笑ましいね」
「青筋立てながら言うセリフじゃないわよ」
私はパンを片手に貪りながらちらりと外を見た。ここからはグラウンドしか見えない。
グラウンドではサッカーで遊ぶ3年生の先輩の姿が……姿が……
「……ああああっ!! あ、あの人だ! 56分の先輩!」
「ん? どれどれ……あー、亀谷先輩か」
「知ってるの!!? 教えて!」
教えなくてもテレパシーで無理やり絞り出してみせるけどね!!
「お、落ち着いてよ。目が怖いからやめて! 話すからさ……はぁ」
私はいつの間にか掴んでいた由那ちゃんの胸ぐらを離すと由那ちゃんはため息をついて話し始めた。
「亀谷 隼先輩は3-Cの生徒で柔道部の副将をしてるんだよ。色んな噂があってさ、男好きとかロリコンだとか……」
「失礼だね!」
「そんなプンスカされても……噂なんだから」
「でも良い情報を得られた。ありがとうね」
私は由那ちゃんにポンポンと撫でながら超能力的なパワーを与える。
「……撫でられるのは遺憾だけど、美空に撫でられるとなんだか温かい気持ちになるんだよね」
まあそんな効果しかないんだけどね。
私は撫で終わると改めて亀谷先輩を見る……あーカッコいいなぁ。
すると突然バコンと遠い音が聞こえた。
よく見ると屋上の柵が吹っ飛んでいるのが見えるなんであんなものが飛ぶんだ。
「……!!?」
っていうかまずい! このままじゃ先輩に当たっちゃう!
ここからじゃ叫んでも聞こえないだろうし……
テレパシーを使う?
ダメ! テレパシーは相手を驚かせちゃうことがあるから判断してくれない!
テレポートで伝える?
これもダメ! 由那ちゃんが私を認識してる今、瞬間移動なんかしたらバレちゃう!
そう考えてる間にも金属製の柵はグラウンドのサッカーしてるところへ向かっている……。気づいているのは私だけみたい……。
仕方ない!
私は腕を突き出すと柵の軌道をグラウンドの中央の少し横にずらした。
柵が落ちたところには誰もいないが、サッカーしている人たちはそれに気づいたらしくて慌てて先生を呼びに行っていた。
「……何してんのアンタ」
白い目で見る由那ちゃんに自分がまだ腕を伸ばしていることに気がついた。
「あ、あはは……い、いたーい腕釣っちゃったーいたーい」
まあ、助かってよかった……。
*****
放課後、私は急いで3-Cに向かった。
今日は3-Cの先生が屋上の柵のことでホームルーム遅れているらしい……という話を職員室でテレパ知った。
「3-C……3-C……ここだ」
曇り窓を透視して中身を確認する。
……うん、まるで自習みたいにわちゃわちゃしている。
私はその中から亀谷先輩を見つけた……が
「な、なにあの女の子!?」
私の目の先に居たのは男子制服を着た女の子と親しく話す亀谷先輩だった。
……空いた口が塞がらない。
私は無理やり念力で顎を閉じると、改めて先輩の様子をみた。
……なぁっ!? 男子制服女子が乳を寄せたぁっ!?
な、何してるの! わ、私だって胸はあるよ! ……世間で言う並乳だけど。
しかし何? あのポニテロリ巨乳男子制服女子は? 無駄に可愛いのが許せない、っていうか飼いたい。
飼ってケモコスとかしてご飯あげてナデナデしたい!……ハッ!?
い、いけない……
論点からズレるところだった……
私は気を落ち着かせると亀谷先輩の意識を覗かせてもらった。
一番最初に見つかったワードは『乙姫』だった。
なにこれ浦島太郎?
よくわからないから流すことにする。
他は……『柔道』……『柵』……『サッカー』……『男の娘』……
『男の娘』!?
ってことはまさか!?
この男子制服ロリ巨乳って男子なの!?
「……なぁ……あ……」
なんか……男に負けたのが辛い。
ってかあの胸は何なの……?
とりあえず顔を横に振って、改めてテレパシーを開始する。
『大会』……『恋愛』……
あ、出た!『7:56』!
まさか先輩も時間で覚えてたなんて偶然も強いものがあるなぁ……。
さらにその『7:56』から追求していく。
『バス』……『登校』……
…………!!『女の子』!
こ、これを調べたら結果は出る……
出る……んだけど……
怖い……
「……どうしたの?」
「ひゃいっ!?」
かけられた声に驚いて、私は透視を解いた。
「い、いや、私はなにもしてないですし、変なことや変態なことはしてないですし」
「私なにも言ってないよ」
「え……あ、いや、その……な、何でもないですぅ!!」
私は人前だというのにテレポートで自宅まで帰った。
うわぁ3年の先輩ごめんなさい、驚かせちゃったかな。
余談だが、後日学園では人体消滅事件というものが話題になっていた。
*****
翌日、私は由那ちゃんと掲示板で興味深いポスターを見つけた。
(手品同好会……)
友葉学園には手品部がない、詰まるところ同好会でもいいからスタートしたいという生徒がいるのだろう。
「ま、手品って言っても私自身デタラメみたいな存在なんだけどね……」
「え? どういうこと?」
「あ、いや、独り言」
そう誤魔化しながら私はタハハと笑った。
「……あれ? あ、これ亀谷先輩の名前あるよ」
私は由那ちゃんの言葉に釣られそうになりながらも、吐き捨てるように言う。
「嘘でしょ。だって亀谷先輩、柔道部だもん」
というのも名前が分かったあと、家に帰ってからストーカー張りにGoo○le先生にて名前を検索したのである。
その結果、繋がったのが柔道の地区大会のホームページだったのだ。
「地区大会優勝でしょ。なら文化部に兼部なんて絶対しないよ」
「確かにそうだけど……ほら、ここ」
由那ちゃんが指差す部分を見ると『裏島 優・乙姫 心・亀谷 隼』と書いてあった。
「……私……入らないと……」
「そ、そんなに義務感に襲われるものなの?」
…………
……
そして放課後、私は部室であるらしい空き教室の前まで来た。
「……緊張するなぁ」
「大丈夫だって、私も付き添ってあげるから!」
「いや、由那ちゃん新聞部……」
「違うわよ。情報通だからってその印象つけられるとは思わなかった」
そんなことを言い合ってると突然後ろから声をかけられた……というか叫ばれた。
「あーっ! 昨日の謎の消えた少女!」
「え? 美空?」
「え、あ。その……」
「やっぱり神隠しじゃなくて手品だったんだね! ほら、入会してして、そこの貴方もほら」
こうして半端希望、半端強引に入部が決まった。
…………
……
「……ところで少なくないですか?」
私は先輩に問う。
「あー、うん。もうすぐ来ると思うよ」
そんなことを言ってると
「悪い、遅れてしまった。先生に頼まれごとをされていた乙姫の手伝いしてたんだ」
「本当ごめん裏島さん……ってあれ? もしかして新入部員?」
「あ、はい。2年の目方由那です。……ほらアンタも」
「ひゃいぃっ! か、かかかかか川ぞぞ添えぇ みっみみ美空ですぅぅううう!」
「とりあえず落ち着こう?」
私たちは教室の真ん中に置かれた椅子に座ると自己紹介を始めた。
(とはいえ知ってるんだけどね)
由那ちゃんは情報通だし、私はテレパシーが使えるから分かってるも同然なのである。……しかし、乙姫先輩は本当に女子にしか見えない。
「……ところで質問なんですけど、亀谷先輩って柔道はどうするんですか? ……っていうかどうしてこの時期に?」
やはり由那ちゃんだ。いきなり質問をぶっ放す。
「知ってたのか……。あー、まあただの気まぐれだ。あと創部の理由に関しては裏島が原因だ」
原因呼ばわりするということは裏島先輩と亀谷先輩の仲は恋愛レベルではないということ。良かった……。
そんな間に裏島先輩が話し始めた。
「えっとね。実は私もともと手品が好きなの。そんな中、昨日のあれで決心したんだよね。……残り少ないけどまあ同好会くらいならいいかなって」
結構アクティブな先輩だなぁ。
「私、先輩の手品見たいです」
まあテレパシー使うと簡単に分かってしまうことだけど。
「え……あー、亀谷くん」
「俺? 俺は出来ないぞ。乙姫は?」
「僕もだよ。っていうか出来なくてもいいからって言ったのは裏島さんじゃなかった?」
「うっ」
……一周した。
……まさか
「先輩、まさか出来ないのですか……」
「ち、違うもん! ただ技術が足りなくて……そうだ! 二人の実力も見たいな」
まさかの返し。
「ええっ!? ……どうしよ、美空」
美空は出来ない模様。正直私も出来ない……。
……でも、誰も出来ない手品部など名前が廃れるのも時間の問題だ。亀谷先輩も見てるんだから……。
「わ、私少しだけなら出来ますよ」
「本当!? 私、初耳なんだけど」
「おー! 見せて見せて!」
5人に見られて私は少したじろいだ。
「え、えっと……そうですね。そ、そうだ! コイン!」
私は財布から百円玉を出して右手に握った。
「これ! どっちにあると思いますか?」
「え? 右じゃないの?」
「それが何と! 左手です!」
「ええええっ!?」
もちろんこれはテレポートを使った手品手品サギなんだけど……。
「す、すごい!……でも、最初から二つ持ってたんじゃないの」
「……そ、それなら」
私はメモ帳とペンを取り出すと
「これに何か書いてください! 書いたら私に見せないように渡してください」
「おー手品っぽいね! ……うん、書けたよ」
先輩から受け取った四つ折りの紙を私は右手で握った。
「はい! どちらでしょう!」
「……これはまた左のパターンなのかな」
「それが……両方ないです!」
「なななんとぉぉぉおおお!?」
……うん、裏島先輩のリアクション面白い。
「じゃあどこにあるんだ?」
「……乙姫先輩、なにか違和感ないですか?」
「僕? ……そういえば胸がなんかチクチクするような」
乙姫先輩が制服の隙間から手を入れると四つ折りの紙が出てきた。
「……なんで胸に挟まってたんだろ」
気にしちゃいけないです。
「この中に書いてるの裏島先輩の書いたものと違いますか?」
「た、確かに……これは私の書いた漢文だよ」
かんぶん。
「漢文書いてたんですか」
「うん、孔子曰ーー」
「読まなくてもいいです」
変な先輩だけど、私はまあ亀谷先輩がいるからいいや。……由那ちゃんは引き気味だけど。
「ねー他は他は?」
「え? ……あー、その……じゃあ……ほら、ペンが浮きましたー」
適当に念力でペンを浮かせてみた。
「おおおおっ!? 私も浮かせる?」
「勘弁してください」
出来るけど、出来たところで問題になりそうだ。
「他には他には?」
子供みたいはしゃぎはじめた。というか裏島先輩は元々小さいから本当に子どもにしか見えない。
「悪いな。えっと……」
「川添です。川添美空。それに構わないですよ、喜んでもらえて楽しいです」
「他は他は?」
「……あーえっと、じゃあ好きな数字を一つ思い浮かべてください」
まあこれで最後にすればいいか。
「うん、思い浮かべたよ」
「なるほど7ですね。ラッキーセブン」
「ええええっ!? なんで分かったの?」
テレパシーです。
「本当凄いな」
「み、美空ちゃん。そんな特技があったなんて……」
「凄いけど……なんでだろ。ワァッて来ないんだよね」
怠そうですからね。
「でも、有能な部員が入ってくれて嬉しいな。今日から宜しくね!」
「は、はい!」
「私もよろしくお願いしますよ!」
「うん、由那ちゃんもね!」
でも……ちゃんとした普通の手品もしないとなぁ……。
家帰ったら調べよっと。
*****
家に帰ると私はゲームを買ってもらった少年よろしくベッドではしゃいでいた。
ついに手に入れた先輩のメアド。……というか元々テレパシーで知ってたんだけど、これでようやく弊害なしに送ることが出来る!
そんな中、パソコンで手品を調べていると気がついたことがある。
トランプの透視やボールが消えたり増えたりするマジック。
どれもこれも皆、超能力さえあればなんでもできるものだ。
むしろ土地ごとのテレポートや個人情報を全て見ることが出来る私ならマジックどころかイリュージョンレベルである。
……まあする気はないけど。怖いし。
そもそも本当に飛行機とかビルとか消したら天才マジシャンじゃなくて天災マジシャンだ。
とりあえず私はトランプマジックを一つ覚えると明日に向かって眠りにつくことにした。
*****
7:56
「よお川添」
「あ、せ、せせせ先輩!」
そっかもう名前覚えてもらったんだ。
「え、エヘヘヘヘ」
「ど、どうした……。まあいいや。それよりもまた何か面白いマジック見せてくれよ。凄く驚かされた」
「嬉しいです」
嬉しくはない。あれは手品ではなくてチート技だ。
「……そ、そういえば私、いつもこのバスで乗り合わせてたの知ってましたか?」
「……な、なんだ川添も同じこと思ってたのか」
『7:56』にあった『女の子』というワード。
今なら怖がらずに聞くことができる。
「いや、いつも乗り合わせるなと思ってな。川添を見ると、今日も始まったか!ってやる気になるんだ」
「そ……そうなんです……ね」
お、同じというか予想以上だよぉぉおおお!!
「ど、どうした川添。顔が赤いぞ」
「せ、先輩! ここで私降ります! お金ないので、ではまた放課後!」
「い、いや、川添いつも定期……」
先輩の言葉を振り切ると私はバスに定期券を出すと途中で下車した。
「……さてテレポートしよ」
*****
部活に慣れはじめ、皆もある程度手品が出来る様になってきたとき。
突然、裏島先輩が暴走した。
「突然だけど、この手品同好会、何も公にしてないんだよね」
「そうだな」
「だからさ、期末テストのあと冬休み前にマジックショーすることになったから」
本当に不意打ちです。この先輩。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! まずどこでするんですか!」
叫ぶのは先輩が何を考えてるか分かるからである。そもそも内容がめちゃくちゃだ。
裏島先輩は屈託のない笑顔で告げた。
「庭園だよ。あと借りた時間は90分」
12月中旬の寒さの中に90分の放置プレイ……。
まあ、寒さの方は超能力を使えばなんとかなるんだけど、絶対に自分から見にくる人いないと思う。
他の人もそう思ったらしく顔を青ざめている。
「ちなみに決定事項だから」
そして異論は認めないという一押し。
「……」
これは波乱の予感。
…………
……
内容を考えた結果、こんな感じになった。
12:00〜12:10 オープニング
12:10〜12:30 目方の手品
12:30〜12:50 乙姫と裏島の手品
12:50〜13:20 川添の手品
13:20〜13:30 エンディング
1人につき20分ごと、乙姫先輩と裏島先輩はコンビで手品をするとのことだ。
そして、やはり私が最後である。
「オープニングとかエンディングはどうするんですか」
「まあえっと、任せる」
任されてしまった。
*****
本番までの時間はまさしく刹那という言葉がピッタリだった。期末テストが終わり、クリスマスに近づこうとしてる中。私たちは部室からせっせと道具を出していた。
「ひぃっ寒い……」
私は一応超能力の温度変化を使って体を暖めているが、それでも外気に触れると冷たかった。
「しかし、こんな舞台までしっかりしなくても……」
「学園系作品はステージが凝ってるのが常識だからいいの」
「でもそれ、漫画とかアニメの話ですよね……」
「いいの。それにこれ仕掛けも作らないといけないからね。例えばこことか床に穴が空いてるんだよ」
「……先輩、脱出マジックするつもりですか」
素人からの脱出マジック。
どんな集まりですかい。
*****
時間も間も無くスタートする。
意外なことに観客はそれなりにいたが、その中でも気になる生徒がいた。
最後列で必死に背伸びをして見ようと頑張る高身長な生徒。
先輩に聞くところによると、空手部で入れなかった悲しき生徒らしくて、先輩と仲の良かったために舞台袖で見せてもらえる様になった。
良かったですね。
*****
私は一人で舞台に出るとマイクの電源をオンにした。ちなみに格好はスワロースーツに蝶ネクタイにシルクハット。
なんというか典型的な手品師スタイルだ。
「え、えーっとご観覧ありがとうございました」
終わっちゃった。
「じゃなくて!ご来場いただきありがとうございます」
クスクスと笑いが起こる。
うぅ……恥ずかしいよぉ……
自分と1でしか割れない健気な素数先輩たち助けてください……1.3.5.7.11.13……あれ?
1は素数じゃない。
「……ハッ! あ、いや、その、えーっとこれからご覧に入れますは……えーっとなんらか不思議なことです。例えば……こんな感じに……」
アドリブで何もないところからトランプを出すという手品を付け加える。もちろんテレポートだ。
練習すれば出来そうに見えるレベルの手品に小さな歓声が上がる。
「では皆さんごゆるりとお楽しみください」
…………
……
「緊張したでござる」
「お疲れ、じゃあ私行くね」
そういうとバーテン服のような格好をした由那ちゃんが交代で舞台に上がって行った。
…………
……
由那ちゃんの手品はトランプを使った手品だった。
「では皆さんに覚えてもらったこのカードを、二人のジョーカーに見つけてもらいます……えいっ!」
由那ちゃんがトランプをコツンと机に当てると二つのジョーカーが顔を出した。
「この二人のジョーカーに挟まれているこのカード……これが皆さんに覚えてもらったカードですね!」
おおおっ! 凄い! 当たってる!
観客からも、驚嘆と歓声が上がる。
「続いてはこの中のトランプを一つ破ります……」
…………
……
「お疲れ様!凄いね由那ちゃん!」
「いやぁ、それでも美空には参るよ……」
いやチートだからなぁ。
「次は先輩方ですね。頑張ってください」
「うん、ありがとう頑張る!」
「……裏島さん、この格好なんとかならないの」
「いいから行こう!」
私は裏島先輩に手を引かれる乙姫先輩を見送ると、なんだかお遊戯会に行く子どもみたいに見え、微笑ましく思った。
…………
……
舞台に上がると少しどよめきが上がった。
それもそのはずである。
魔女の姿をした裏島先輩に対して乙姫先輩はバニー姿だったのだから風紀的に大問題である。
しかし、ショーを見に来ていた生徒会長はそれを咎めるどころかクスクスと笑っていた。いいのかそれで。
というよりも、本当に乙姫先輩は男なのかな。どうしても胸と股間に目が向いてしまう。あとお尻。
二人が行うのは大道具を使った手品だった。
箱の中に閉じ込められた乙姫先輩が裏島先輩に模擬刀で串刺しにされたり、体をのこぎりで真っ二つにされたり、棺桶に閉じ込められて脱出したり……っていうよりもウサギいじめられすぎ。
……まあ火をつけたり爆発物を使わなかったところ、まだ良かったと思う。
…………
……
「お疲れ様です。凄かったですよ!」
「ありがとう!」
「……あ、ありがとう」
疲れてる乙姫先輩が気になったのでテレパシーで読み取ってみる。
『……棺桶息苦しいし、脱出の落下で腰ぶつけるし、模擬刀少し食い込んだし、バニー服だし災難だったけど、裏島さんと出られて凄い嬉しかったなぁ……』
「キマシですね」
「え?」
「なんでもないです」
…………
……
続いては亀谷先輩のマジックだ。
亀谷先輩はローブを羽織っている、どうやら夏休みにUSJに行ってたらしい。
手品の内容は観客参加型のテーブルマジック。
今参加してるのは……どうやら噂になっていた元冷酷男子さんの彼女さん。
今はツンデレレベルまで丸くなったとか……。
「ではそのボールを握ってください。三つ数えると……1、2……どうぞ、手を開いてください」
「ふ、二つになりました! 凄いです! 私の目でも分かりません!」
「さらに、もう一度握ると……」
「おおおおっ!! 大きな一つのボールに!」
テンション高い人だなぁ……。
少しすると今度はトランプを覚えてもらうマジックが始まったが、そこで事件が起こった。
「あなたが覚えたのは……ハートのAですね」
「……いえ?」
「え……あ……」
間違えたのだ。
この人の目が多い舞台、一度の失敗でもかなり記憶に残ってしまう。
なにか手助け出来ないのかな……このままだと先輩、笑いものにされるかもしれないのに……
なにか考えないと……えっと……
うんと……
………少し強引だけど、これで行こう。
「い、いえすいません。もう一度……」
『聞こえますか……私は今、直接あなたの脳内に語りかけています』
『!? 』
『落ち着いてよく聞いてください。……今から伝えることをそのまま告げてください』
…………
「て、訂正します、今あなたが覚えたカードはスペードの6です」
「あ、そうです!」
「そ、そのカードは今ここにはありません……え?」
亀谷先輩はトランプを表に返すとキョトンとした。
本当に無いから当然である。
「え、ええ!?」
「そのカードは……今、前から2番目の中学の男子生徒が持ってます」
「お、俺!? な、なんで……」
「ちょ、ちょっと相馬! ポケットポケット」
その生徒は驚くとポケットを探りはじめた。するとそこにはスペードの6があった。
ざわめきは最高潮になる。
「え、えええええっ!? あ、姉貴! こ、これって?」
「そ、相馬こそ知らないの!?」
「ということは……凄い……」
「そ、そういうことなの!?」
拍手は亀谷が去ってからも、しばらく続いた。
*****
「お疲れ様でs……」
「凄い!亀谷くん!」
「亀谷すごいな!!
「先輩尊敬しました凄いです!!」
お、押されるぅ……
「あ、ああ……でも、これは俺の技術じゃない……」
「「「え?」」」
「……川添……おまえ、ホンモノだったのか」
ば、ばれた……。
「ホンモノって……?」
「川添……お前だよな。今の手品……いや超能力使ったのって」
……まあテレパシーの上に透視、テレポートまで使ったんだからバレても仕方ないよね……。声変えたんだけどな。
私が唯一出来ない超能力。
それは……『未来予知』。
「……すいません……。こんなチートの塊みたいな人間なのにずっと黙っていて……」
やはり先輩や由那ちゃんは驚いた様子でいつになく真剣な顔になっている。
「……入部してからは力を使わずに技術だけで手品をしてたんですけど……。本当に騙してばかりですね……」
私は自分を軽蔑するように苦笑した。
「美空ちゃん……なんで……」
「……ごめん」
由那ちゃんの咎めに謝罪する……
しかし
「……ううん、そうじゃなくて」
「え?」
「どうして美空ちゃんは自分のことをそんなに悪く言うの? 何も悪いことしてないじゃん」
キョトンとする由那ちゃんの言葉に私の方がキョトンとなる。
「で、でも騙してたわけだし」
「手品ってそもそも人を騙して楽しませるものでしょ? それに超能力だって一つの技術なんだから手品も変わらないよ」
「そ、そんなの……」
「川添、言いたいことはあとにした方がいいと思うぞ」
気がつけば結構な時間を食っていたらしく、会場がざわつきはじめている。
「川添、俺たちはお前が超能力使ってると知った今でも凄いと思ってるぞ。それにさっきだって感謝してるんだ」
「亀谷先輩……」
私が顔を上げると皆、私を敵視してる人はいなかった。
「ほら早く行かないと! 超能力なりどんどん使っていいから頑張ろう!!」
「っ……はい!」
…………
……
「皆さんお待たせしました。 では私も始めさせていただきます」
私は、手にしているカードを見る。
昨日、用意した手品である。
「……」
私はそれをスッとポケットに戻し、代わりに衣装のステッキを放り投げた。
「いきます。それっ!」
私は態とらしく、力を込めた声を出すとステッキを空中に浮かせた。
会場は超能力だとは思われていないようで歓声が上がる。でもここからだ。
私はそのステッキに腰を掛けると、そのまま高さを上げた。
もちろんそのまま乗るだけでは危ないので自分も念力で浮かせている。
「すごーい!!」
「どうなってるんだ?」
ざわざわと騒ぎが聞こえる。この調子だ。
私はシルクハットを外すと、逆さにして指を鳴らした。
すると20羽以上のハトがバササッと帽子の中から飛び立つ。テレポートで渡り鳩の通路と繋げたのである。
やはりの大歓声だ。
次は……これがいいだろう。
私はステッキから降りるとステージに立った。そして、テレポートの瞬間を見られないようにするためマントを翻す。
すると、私の姿は一瞬消えたように見えた。
「ええええ? どこ行っちゃったの?」
「き、消えたぞ?」
私はそして転移マジックに見せるように、屋上から手を振った。
「おおおおおおっ!!」
私は大喝采を浴びながら舞台に降りて帰った。
…………
……
「美空ちゃん、ノリノリだったね」
「え? ……あー、そうだったのかな?」
「お客さんもテレビでしか見たことのないようなイリュージョンを体験出来て喜んでたと思うよ」
まあ手品に見えてくれたら嬉しいけど、少しやりすぎた気もするんだけど……
「でも由那ちゃんも先輩もそんなに驚いてる様子はないですけど……」
すると裏島先輩が苦笑しながら答えた。
「ハハハ……まあね。 私たちもステッキが浮いた瞬間は驚いたけど、タネが超能力だって分かったから変に納得しちゃうんだよね」
「まあ手品はタネが分かるとシラけてしまうものだからな。超能力だって同じだ」
「な、なんですかそれ! じゃあ私、もうこのメンバーに手品しても意味ないじゃないですかぁ……」
「はは、まあ超能力以上の手品見せられるように頑張ろう」
先輩の応援の応援もなんだかなぁ……。
「さ、エンディングだぞ。川添、好きなようにやってくれ」
「好きなように……そうですね。最後まで楽しめるようにします!」
…………
……
私は舞台に立つと客席の方を向いた。こうしてみるとかなりの人が集まったんだなと思う。
「みなさん、ご観覧ありがとうございました。明日からの冬休み、皆さんに楽しんでもらえるように私からプレゼントをさせていただきます」
そう言うと私は空に向かって手を伸ばした。
すると数秒後……
「あっ……雪」
降水確率10%の今日、雲ひとつない空から友葉学園に雪を降らせる。
『天気を操る』、それは薬を捲くなどを除いて一般的には出来ないだろう。
私だから出来る……今のところ私の超能力だけが出来る技『天候変化』。
実際あまり役に立つことはない技だし、使う機会もない。それに使った代償だって大きい。
それでも私だけが出来る愛すべき超能力。
私は改めて客席の方を向くと、太陽光に反射する雪の光を浴びながら言葉を紡いだ。
「皆さんのこれからの学園生活、驚きと楽しさで華やかになりますように」
*****
ショーの終了後、私の携帯に電話がかかって来た。
「……あはは……そうですよね……はい、わかりました」
「どうしたの川添さん」
私は携帯をポケットにしまいながら答えた。
「あーいや、超能力者を管理する組織がいるんですけど……使いすぎだって怒られちゃいまして、少しだけ学校に来られそうにないです……あはは」
しばらくは超能力も使えないだろうな……。
「だ、大丈夫なの!?」
「まあ殴られたりはしませんし、注意受けるくらいなので大丈夫です」
まあ少ししんどいけど……。
「川添」
「はい?」
「その、なんだ……頑張れよ」
「……も、もちろんです! 私頑張っちゃいますから!」
私はテレパシーで亀谷先輩の本当の気持ちに気がつくと、つい赤くなりながらも、心からなんでも頑張れる気持ちになれた。
「ではまた! ……7:56に!」
「ああ、7:56にな」
こんな感じです。
この作品オリジナルキャラクターでいえば、主人公の友だちの目方由那ですな。情報通です。




