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彼の姿がはっきりと見えるに従って、そのお方は、私が求めていたお方その者の感じがした。
「そうでごぜぇます、陛下ぁ」
「そうか、下がっていなさい」
徒歩で現れたその人は、どこか、遠く昔に見たことがあるような気がする。
「さて、貴女の名前は?」
「ダグラード帝国、第一皇女でダグラード・ラードシャよ」
その名前を聞いた瞬間、周りがざわついた。
「ほう。大帝の娘か」
「そうよ。だから、私に乱暴なんてしたら、お父様が黙ってないわよ」
「しかしながら、貴女は結婚をするという噂を聞きましたがね。いかがしましたか」
彼は、私の周りをくるくると見定めるかのように回っている。
その濃い茶色の髪に、いい香りがして、思わずうっとりとしてしまいそうだ。
「それで、陛下ぁ。どうしますかぁ」
「ふむ……」
「そんなことより、貴方の名前はなんなの」
はたと足が止まる。
それは、私のすぐ後ろだった。
「スラッツシルト王国、第三王子、スラッツシルト・フォン・シュルツ。ここは、王国領ではないんだが、愛馬と一緒にさまよってきているうちに来てしまってね。そして、ここの国王として居るわけさ」
「ちょっとまって、貴方は死んだって言われていたわよ」
「だろうね」
それから180度私が回ると、悲しそうな顔をしている彼がいた。
「それも父上は望まれたんだろうね」
だが、その顔は一瞬で消え去った。
「さて、皇女殿下、これからどうするおつもりで」
「どうするって…」
確かにこの状態はまずい。
それは私も分かっている。
でも、私は戻るつもりはない。
なにせ、3000kmは離れている王国との政略結婚なんて、私ははっきりと嫌だ。
「決めた、私、貴方と結婚する」
それは、彼らにとって驚きだったようだ。