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Mr.プリンセス   作者: 業平アキラ
Mr.プリンセス、恋に落ちる
2/11

2*プリンセスは不機嫌に唄を歌う

「よって、株主の企業統治が必用な訳だ。……おい、篠村」


「すぅー…すぅー…」


振り返るといつもは顔にクエスチョンマークを沢山浮かべて眉間にシワを寄せながらも、

一応は補習を受けているはずの少女は机に突っ伏し、漫画のような寝息を立てて熟睡していた。


それを目の当たりにしたのは、机に頬をべったりつけている彼女唯一人のために補習をしている、政治・経済の教師。

この人物、名字は吾妻。名前は侑姫。

ちなみに性別は男。よろしくね…っと、本人が絶対に口にしない言い回しを使ってスッキリした所で本編のヒーローを紹介。


吾妻侑姫、二十九歳。


この”ちなみに性別は男”が、男なのに”姫”の字を名に持つ彼にとっては重要だったりするが、名前を明かさなければパッと見ちゃんと男性なので意外と気にする程ではなかったりする。

しかしながら、すっと高く伸びた体にきっちり分けられ固められた髪、表情乏しく光るは銀縁の眼鏡、

そんな冷たく感じられる見た目の持ち主だが、彼も人間なのだ。


二十九年前、親に付けられたとは言え、この名前にコンプレックスを持たずには居られない訳で…。


まぁ、葛藤は色々あるにせよ”吾妻先生”として彼は今、目の前の再再再テストへ向けての補習を眠りながら受けているこの少女・篠村薫の前に黒板から徒歩三歩でやってきた。



「おい、篠村起きろ…おい」


声をかけても返事が無い。こいつ相当熟睡してるな。

マンツーマンのこの空間で。

それも随分気持ちよさそうに。

私は黒板へ向かっていた五分程、子守唄を歌っていた様なものか。

私に対するその度胸の良さに免じて、いっそ本当に歌ってやるか。



度胸が良いとか思いながらも、怒りを隠しきれない吾妻は嫌がらせに出るべく、息を吸い込み口を開け、青野の学生なら知らぬ者はいない歌を口ずさんだ。



「萌える木々は青に満ちて

伸を求めて学舎集い

知識の陽光その身に受ける

青野青野青野

高く伸びゆく我らは

私立青野高校


風が吹けども青に満ちて

芯を求めて学舎集い

友との日々にに己を磨く

青野青野青野

心しなやかき我らは

私立青野高校


いつの時にも青は満ちて

真を求めて学舎集い

高みを究めて輝き放つ

青野青野青野

真価を手にする我らは

私立青野高校


うーん…校歌で起きないのか?」


耳元で歌ったが、相も変わらず突っ伏し熟睡している少女。

吾妻は彼女の席の近くの椅子に座り、顎に手を当てその姿さながら考える人になった。



パッと思いつく歌と言えばこれくらいだけなのだが…こいつは手強いな。

となれば。




閃きを得て、立ち上がった吾妻は彼女の席の前に立つ。

そして再び口を開けた。


「面ー!」

「?!」


即座に竹刀を持つ構えをして立ち上がった篠村に教科書で一撃。

真っ直ぐ伸びた背筋。さすがは剣道部のエースだな。



関心する吾妻を涙目で睨んでいるのは被害者の少女・薫ことカオ。

イケメンだが至って普通の人を宇宙人呼ばわりしたり、彼を氷の世界から来た鬼と叫んだりするファンタジックな思考の彼女は、もちろん吾妻の胸の内など読めるわけもなく、思った事を即座に口にした。


「イター!…角は反則っすよ、先生!!」

「補習中に居眠りする方がたちが悪いだろう」


「え?カ、カオ寝てないっすよ?」


目を泳がせて動揺を思いっきり体現しているが、本人はきちんと誤魔化しているつもりだ。

それを見ながらも、さらに言葉で追いつめるこの教師はドSとしか言いようが無い。


「ほう?…そのよだれの付いた顔でよく言えるな」

「う…」

「何か言う事は?」

「すみませんでした」


潔く引き際も間違えないのは、篠村の良い所だろうな。



吾妻は再び椅子に腰を下ろした。


「よし。では眠気冷ましに少々話でもしよう」

「は、はあ…」

口をポカンと開けて、ものすごく唖然とした表情だ。


”この氷の世界から来た鬼が授業中に話をするなんて超意外”


なんて思っているのがものすごく鮮明に顔に書いてある。

面白い程分かりやすいな、篠村は。



表情乏しい自覚のある彼がほんの一瞬口角をあげたことに、本人はもちろんカオも気付かなかった。



「珍しく居眠りしていたが剣道忙しいのか?」

「来週練習試合あるんっす。対戦校が三週間前の大会で負けた相手で…」

「あぁ、赤手ぬぐいの筒村学園か」


その大会は青野が開催校だった。

筒村は”今年こそ全国”の旗を掲げていたし、揃いの赤手ぬぐいが気合いの度合いが伝わる色だったな。

うちの学校も実力的には大差無いはずだったが、惜敗してしまった。


「え?先生、対戦相手知ってたんっすか?」


記憶を遡っていた吾妻だがカオの一言で現実に戻って来た。



「どこかの誰かさんが再テスト落ちて、二度目の補習期間だったからな」


「ゔ……。でも何で赤手ぬぐいを知ってるんっすか?」

「補習対象者が試合中で暇だったからな、見に行ったんだ」


どうして暇なのかと言えば、それは彼女が今回見事な赤点を取りテストの結果発表と同時に、補習対象者の名前が貼り出された日。

彼の元へやって来た老齢の剣士が居た。

剣士の名は西条(さいじょう)。

この私立青野高校の国語科の現代文教師で剣道部顧問だ。



西条先生に感謝しとけよ、篠村。


「大事な試合なんだ!頼むから篠村を出させてくれっ!」

と頼み込まれたので予定はほぼ剣道部に合わせて組んであったりする。

よって、練習時間も試合の日程も全部しっている吾妻。




そんなことがあったなんて、こいつは知らないんだろうな…



「ぬぬぬぅ…」


そっちのけで頭を抱えてどこから出るのかという様なとんでもなく低い声を出して唸る少女を瞳に映した彼は、音がしそうな程ギュッと眉根を寄せた。


「奇声とは随分な返事だな。そんなに見られるのが嫌だったのか。…補習に戻るぞ」


「え、違…」


少女の否定は、頭の中をリフレインしていた悔しい瞬間のせいで一拍遅れ、おまけにらしく無く声が小さかった為、自分で会話のシャッターを閉ざした吾妻へ届かなかった。

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