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後編  命の唄


上を向いて歩こう


涙がこぼれないように


思い出す春の日


一人ぼっちの夜


幸せは雲の上に


幸せは空の上に



私は両親がつけた「幸子」という自分の名前がキライでしょうがなかった。


『あなたはパパとママが愛し合い幸せになるため生まれてきたのよ…』


幼き日のパパとママの言葉を思い出す。

ウソばっかり。

パパとママが愛しているのは仕事だけ…

私の事なんてどうでもいい。

幸せという言葉がトラウマだった。

幸せの意味がよく分からなかった。


幸せは雲の上…

幸せは空の上…


幸せはどこにあるの…!?


ねぇ「幸子」教えてよ…

こんなにキズついて…

こんなにボロボロになってもあなたは天使のように微笑み続けて…


ねぇ「幸子」答えてったら…


私は「幸子」を強く強く抱きしめ泣き叫んだ。




馬鹿だよね。私は…

ホント大馬鹿者だよ…


幸せは誰かが運んできてくれるものだと思っていた。

私は大ママの操り人形だと思っていた。

私は誰かに生かされてるだけだと思っていた。

誰かに…

いつも誰かに…


だから自分をキズつける事によって自分は「生きている」事を実感したかった。


そこにはいつも自分がいなかった。

いつも誰かのせい…

パパやママのせい…

大ママのせい…


これで本当に私は「生きていたの」?

「生きるとは」自分の足で地に立つこと。

私は今まで、誰かに背負われた事をいいことに、ただワガママだけを言ってただけじゃない!





「幸子」…


「幸子」…


この幼き少女の中で私はボロボロになるまで泣き続ける。


ごめんなさい…


ごめんなさい…


なぜか出てくる言葉は「ごめんなさい」しかなかった。




私にはパパもママも大ママもいる。

暖かい部屋と暖かい洋服、そして暖かいご飯さえも不自由なくある。

ないのは「夢」と「未来」だけ…

だから、いつ命の幕を閉じてもいいと思ってた…


しかし、「幸子」あなたには何もない…

生きていくための生活すら…

あなたにあるのは、その大きな瞳が見つめる「未来」だけ。


だから「幸子」あなたは、明日のために未来のために今日を生きる。

「幸子」私は、意味もなく今日を生きる。

ホントに生きているのはあなたの方。


私は…


私は…



授かった「命」を無駄にしている!!


ごめんなさい…


ごめんなさい…




「チャー」


ボロボロに泣き崩れる私の腕で、「幸子」は私に笑顔で微笑む。

その笑顔に私の心はさらに痛む。


私は着物の袖からハンカチを取り出した。

「幸子」のすすけた顔をキレイに拭いてあげる。

パサパサになった髪を手櫛でキレイにといてあげる。


―――そして


頭に着けていた真っ赤なサンゴのかんざしをはずし、そっと幸子の手に渡す。


「why?」


きょとんとする幸子の髪を結い、私はそのかんざしを着けてあげる。


「Give you…」


涙にぬれた頬をふき、精一杯の笑顔で

「幸子」

に手鏡をむけてあげる。


「Thank you!!」


幸子は嬉しそうに路地裏を駆け回り、皆にそのかんざしを見せまわる。


ねぇ

「幸子」…

そのかんざしは約束のしるし。

私は絶対生きてみせる。

強く生きてみせる。

同じ名前を持つあなたに恥じないように。

遠い遠い雲の上にあるかも知れない「幸せ」をつかむために。


ねぇ、「幸子」…

私は今「幸せ」を見つけたよ。


それは、あなたたちを絶対迎えにくる事!!


たとえ無力でも…


何も出来なくても…


心の中で忘れない。


あなたを…そしてこの路地裏を…


私に何ができるか分からないけど、とにかく頑張ってみる!!

頑張って迎えに来て見せる!!


だから…


そのかんざしは「二人の約束」





「幸子」は老人に何やら話しかけ、私の手を引っ張った。


「お嬢さん、幸子はそのかんざしをとても喜んでるようじゃ。お礼に見せたいものがあるんで、ついて来て欲しいと言ってるのじゃがどうする。」




「Yes!!」


私は、その小さな手を握り、彼女の歩くままについて行った。


数分歩くと中環という駅に着いた。

私は、香港のこの光と影がまさに隣り合わせになっているのをしみじみと実感した。

さっきまでの腐敗した街並みが、一気に日本では見た事のないような大都会に変わったのだ。


こんなに近いのに、こんなにも遠い光と影…

それは、たった少しのボタンのかけちがいのように、生まれてくる命を弄ぶ…


中環から、「幸子」の言われるままにトラムというバスに乗った。


日は落ち、周りは香港独特の赤や青の原色のネオンが煌きだした。


数奇な歴史の中、その影に生まれてしまった「幸子」を横に私は思う。


歴史は経済成長という名のもとに発達して、より豊かな暮らしやより豊かな国を作っていった。

私は何も資本主義を否定するわけではない。

むしろそれが整わず、国自体が「幸子」のいる路地裏のようになっている国は沢山あるだろう。

だから、より豊かな未来を求めるためにはそれが必要だ…


しかし…

その影で、「幸子」のような影を生み出してしまってるのも事実。


願わくば、歴史はこの路地裏を忘れて欲しくない。

不可能であるとは分かっているが、この先何100年とも続いてゆく歴史の中で、いつか全てが光となって新しい歴史のページを開いて欲しい。

そして、私はその新しいページを開くために生きてゆく。

私一人では何も出来ないけど…

いつか小さな川が海に続くように、私に生まれたこの小さな気持ちを大切にしたい。


世界中がいつが笑顔で満ち溢れんことを…


この小さな願いが、世界中の願いに変わるように…


私は生き続ける!!


生きて生きて生きてみせる!!





トラムに揺られ私たちはどこか山の上についた。


「Victoria Peak!!」


「幸子」は嬉しそうに微笑み、トラムを降り私の手を引っ張った。

その山頂は大きな広場になっており、香港を一望できる展望台がいたるところに設置されていた。私は「幸子」の言われるまま展望台に足を運び街を眺めた。





……!!




星が…





星が降ってる……!!



そのビクトリアピークから眺める香港の景色は、まるで夜空と街が入れ代わったかのように、街の明かりが星たちの輝く夜空のように煌いているのだ。



―――こんなキレイな夜景見た事ない!!



驚く私をみて、

「幸子」

は嬉しそうに微笑んでいる。

タイムズスクエアで初めて出逢った時の笑顔ではなく、ホントに無邪気な心からの笑顔。

たまらなくなった、私は

「幸子」

を背中から抱きしめる。



二人は星降る街をずっとずっと眺めた…




ふと…一瞬

「幸子」

の表情が曇る…


私の左手首にある何本もの傷に気づいたのだ。

「幸子」は首を思いっきり後ろに倒し、背中にいる私の瞳をじっと見つめた。



「チャー」


そして私に向って何度も何度も小さく呟いた。


「チャー」


「チャー」


その幼い瞳には涙が溢れる…


―――チャー!?


一体なんだろう

「チャー」

って!?


ようく耳を澄ませて

「幸子」

の発音を聞いてみる…


「チ…ア…」



チア…!?


チアー…




―――Cheer!!


そっか!!あの路地裏でみんなが挨拶してた言葉は


「Cheer!!」

(ガンバレ!!)


なんだ!!


あの明日さえ分からぬ路地裏で、それぞれがそれぞれを

「ガンバレ!!」

って励ましあっていたんだ!!でもその言葉をナゼ私に…!?



「Don't kill youeself … Cheer!!」(自分をキズつけないで…ガンバレ!!)



いつも無邪気に笑っていた

「幸子」

はそのつぶらな瞳に涙を浮かべ…イヤ…涙をポロポロながしながら何度も何度も私に言った。


「Cheer!!」


「Cheer!!」


「Cheer!!」




私は…私は…涙が止まらなかった…


ねぇ、

「幸子」

、その幼きまっすぐな瞳に映っている大きな大きな未来に、私が手をつないで歩いてゆかなきゃいけないのに…

「幸子」あなたは私を思い…涙してくれてるんだね…

ねぇ「幸子」…辛いのはあなたの方じゃない…

なのに…なのに…


涙ってこんなにもキレイに流れるんだね。


私は「幸子」の流す純粋でキレイな涙が、自分が今まで心に作ってしまった汚れをを洗い流してくれた気がした。




「ありがとう…幸子」


もう大丈夫だからね…


絶対切ったりしないから…


だって私にはあなたとの「約束」がある。


私に芽生えたこの小さな切なる願いが…


大きな大きな空となって世界中に広がるように…


そして、「幸せ」が空の上だって、雲の上だって、絶対掴み取っちゃうんだから!!


だから…


生きてみせる!!


もっと強く!!生きてみせる!!


私の願いが叶うまで…

「二人の約束」が叶うまで…


誰がなんと言おうとも生きてやるんだから!!


ねぇ、「幸子」…


だから…あなたも生きてね…


「二人の約束」が叶うまで!!




今宵星降る街の中で…


私は切なる願いを世界に唄う


今宵星降る街の中で…


この星たちのように輝きをを放つ

「命」

の灯火よ…


ずっと…


ずっと…


輝いて欲しい!!




あなたは生きるために生まれてきたよ


決して命なくすためじゃない


きっときっとみんなが流れ星


誰かの願いになる


いつか大空かかるきれいな虹を


一緒に笑顔で見れるように


一秒でもいいから聞かせたい


心からの歌がある



「流れ星」

川嶋あい




こんばんわ。

あいぽです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

解説をつけさせていただきます。

初めて私が香港に行ったとき、その街の熱気とパワー、そして日本では見た事のないような大都会の街並みに非常に驚きを感じました。

しかし、その影では一歩路地裏に足を踏み入れると、街並みががらっと変わってしまってその差に幼いながら恐怖心を覚え、光と影が遠くて近い香港という国に興味を持ちました。

このお話はフィクョンですが、このお話を作るにあたって、香港の歴史や文化、経済など色々調べました。今では香港は貧富の差もそれほどでもないようです。

しかし、九龍半島を中国大陸に行ったところにある「シンセン」というところでは、この物語のような路地裏…イヤもっとひどい現実が事実存在しているようです。また、アジアの貧しい国々の女性が香港に娼婦として出稼ぎに来ていた事も事実です。

調べれば調べるほど、その事実には涙が溢れてとまろませんでした。世界中が笑って暮らせる日…不可能な夢かも知れませんが、一人一人の切なる願いがいつか大きな唄となって、いつか世界に奏でられればと願います。

また、日本でも同世代の方々の、リストカットやイジメ、援助交際などの色んなニュースが毎日のように話題になっています。2007年のこの新春に、このお話を読んでくださった一人でも多くの方が「生きてゆく事の尊さ」をもう一度一緒に考えていただき、あいぽが奏でる「命の唄」が届きますよう心から願っています。

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