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雪が降る日に

作者: TAKA丸

「お兄ちゃん見て! 雪が降って来たよ」

「ああ……そうだね、雪だね」

 僕の腰の辺りで妹が無邪気に笑う。

 今年でいくつになるんだっけ……?

 いつまで経っても子供なんだなと僕も一緒に笑った。

 はしゃぐ妹が見上げる鉛色の空からは、絶え間無く白い雪が降り続いている。

「寒くないか?」

「全然。 お兄ちゃんは寒い?」

「いや、僕も全然寒くないよ」

「良かった。 じゃあ、たくさん遊べるね」

「……そうだね」

 家の庭に立つ僕達の足元には、どんどん雪が積もって行く。

 ついさっきまで見えていた芝生も、今は白く塗り潰されて見えなくなっている。

「雪ダルマ作れるかなあ?」

「どうだろう? もう少し積もらないと無理かな?」

「そっかあ〜……もっといっぱい降るといいね」

「……そうだね」

 でも妹は雪が積もるのを待ち切れないらしく、小さな手で、その手に見合った小さな雪玉を作り始めた。

「よいしょ……よいしょ……」

 その雪玉を今度は転がし始める。

 そうして徐々に雪を付け、玉を大きくしようというのだろう。

 けれど雪が少ないせいなのか、雪玉はなかなか大きくなってくれそうもない。

 その内に、妹が恨めしそうな顔で僕を見つめている事に気付いた。

「……お兄ちゃんが手伝ってくれないから、おっきくならない」

「僕のせいなのか?」

「そうだよお! 早く手伝ってよお!」

 妹は昔から言い出したら聞かない性格だ。

 そのせいで、どれだけ大変な思いをしたか解らない……。

「早くぅ!」

「解った解った……」

 僕は妹の手伝いをする事にした。

 でも、こうなる事は最初から解っていたんだ。

 だって、いつも最後は僕が折れて、妹の望みを叶えてあげる事になるんだから。

「このくらいでいいかなあ?」

「いいんじゃないかな? 結構大きくなったし」

 暫くして、僕の身長と同じくらいの雪ダルマが完成した。

 でも、まだ雪玉を積み上げただけの、ただの雪の塊だ。

「顔と……腕と……あれ? お兄ちゃん、足はどうしようか?」

「普通、雪ダルマに足は付いてないんじゃなかったかな?」

「あ、そっか。 じゃあ、まずは目を付けてあげようっと」

 僕は、ただ妹が喜ぶ顔が見たかった。

 だから、いつでも妹の言う事を聞いてあげたんだ。

 お父さんやお母さんが妹を叱った時も、僕はいつでも妹を庇ってあげた。

 イヤと言うほど殴られたけど、妹を護ってあげられた事で僕は満足だった。

 どんなに痛い思いをしても、それは僕の中で誇りになった。

『お兄ちゃん大丈夫? ……ごめんね……』

 心配そうに僕を見つめる妹が愛しかった……。

『お父さんもお母さんも嫌い。 お兄ちゃんだけ、いてくれればいい……』

 僕の可愛い妹……誰にも僕の妹を傷付けさせたりしない……。 

 僕がずっと護ってあげるんだ……。

「お兄ちゃん、目はここでいい?」

「あははは。 それじゃ雪ダルマの胸に目が付いちゃうぞ」

「もっと上〜? 届かないよ……この台、低いんだもん」

「ほら、だっこしてあげるよ。 これなら届くだろ?」

 僕は妹が台代わりにしていた物を蹴飛ばすと、妹を抱き上げて目を付けさせた。

「うん、優しい顔に出来たね」

「お兄ちゃんみたいな顔だね」

「そうかい? ありがとう」

 似てるのかな? やっぱり。

 それはそうか、親子だもんね……。

「次は手を付けてあげようっと」

「気を付けてやるんだよ? ポイントはさっき教えた場所だからね」

「うん。 優しい手にするんだ〜、お兄ちゃんの手みたいに」

「そう、頑張ってね……」

 妹が雪ダルマを完成に近付ける毎に、白かった雪ダルマが赤く色を変えて行く……。

「お父さんもお母さんも、こうして遊んであげるのは久し振りでしょ? しっかり最後まで遊んであげてね……」

 僕はさっき蹴飛ばした、妹が台代わりに乗っていたお父さんを見た。

 そして視線を妹に戻すと、丁度お母さんの腕が綺麗に切り取れたところだった。

 妹の誇らしげな顔を見て、僕は満足だった……。

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― 新着の感想 ―
[一言] びっくりしました・・・。 微笑ましい兄弟の展開から、 台にしてたのが殺した父親で、 おっかさんも腕を切り取られてるって・・・。 鳥肌が立ちました。凄い・・・。
2009/08/23 21:17 退会済み
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