Ⅷ
王が結婚したと聞いたときからずっと思っていた。彼が伴侶に選んだのはどんな女性なのだろうかと。
そして己の存在をどう、思っているのか。
一人は王の伴侶として子をもうけ、王妃としても国に尽力を尽くした賢妃。一人は人とは違う長き寿命を持つ忌まわしき魔女と呼ばれ、長きに渡り幽閉されつづけた女。
立場は違えど同じ男と長きにわたり関わり続けた二人の女性は王の死の境にして顔を合わすこととなった。
怨まれて当たり前の立場である魔女を見る王妃の目は優しくそして悲しげだ。
「王妃、さま」
魔女の掠れた声に寂しげな笑みを浮かべた女性は未だに扉の前に立ちふさがる臣下に向き直り、一歩前にでた。
それはまるで魔女を守るような行為で、そして魔女に対してそんな行動に出るとは思ってもなかったため庇われた本人はおろか周囲すら目を見開いた。
気圧されるような威厳は長年王を支え、国を支えた王妃にしか出せないもの。その厳しい視線が魔女ではなく己に向けられていることに臣下たちは戸惑う。
なぜ、王妃が魔女を庇うような行動をしているのだ?
「そこをどいて魔女殿を中へいれなさい」
「なにを!」
「王妃様!!」
ざわめく臣下を手を上げただけで再び王妃が鎮める。静かにだけど威厳のある声が魔女を王のもとへといざなう。
「そこを通しなさい。魔女殿に会うことこそ王の最期の願いなのですから」
魔女はただ王妃の背中をみていた。小柄な穏やかな女性に見える。なのにその背中は声は何倍にも大きく強く感じられた。彼女は間違いなく王妃。国を支え、王を支え続けた女傑の言葉に誰もが声と動きを奪われた。王妃が静かに扉の前にやってくる。まるで見ない手に操られるように一人、また一人と彼女に道を譲る。誰も居なくなった扉の前で王妃は魔女を見た。
「魔女殿。どうか、王にお遭いください。そして、かの人の心を知ってください」
そう言って頭を下げた王妃。彼女が何を思い、何を魔女に託したのかはわからない。だけど、王妃は確かに王への道を示してくれた。
「ありがとう、ございます」
他に何も言葉が出なかった。王の伴侶。閉じ込められ、忘れられた自分とは違い王のそばにあり続け、支え続けることができた女性。憎んでもいいはずなのに何故だかそんな気持ちは湧き上がることはなく、ただ、魔女は静かに一礼をし、そしてさえぎるもの居なくなった扉をそっと開いた。
終わりが始まる。




