秋の夜を泳ぐ
同居している母が風邪で寝込んでいる。
ポカリが飲みたいと言うので、手提げに財布を突っ込んで、近所の自動販売機まで行くことにした。
昼間の暖かさから、ティーシャツにつっかけの軽装だったが、夜風はひんやりと身体を冷やした。
どこからか、金木犀の香りが漂ってくる。
階段を一段ずつ降りるたび、滑り転けそうで怖くなる。
つっかけの足を踏みしめて、自分はここにいるぞと再確認。
かくん、っていったら、ぴしゃんと水がはねるように自分の足がめり込んでしまう錯覚。
今夜はちょっとおかしい。
怖い。でも、ドキドキする。
なにか起こりそうだ。
夜風になぶられた髪で、くしゃみを連発。
やばい。私も風邪かな。
暗いのに、足下はほのかに明るい。
芝生を行くと、バッタが無数に飛んで逃げる。
急がなくちゃ。
自動販売機まで辿り着いて財布から硬貨を取り出し、ポカリをに、さん本買う。
振り向くと、一瞬、暗闇の海に飲み込まれそうになった。




