第二話『消える配達』
翌朝。
目覚めたとき、胸の奥に、昨日の“違和感”がまだ残っていた。
──荷物は、確かにあった。
──開けた瞬間、消えた。
何度考えても説明がつかない。
「夢……だったのか?」
顔を洗い、コーヒーを淹れ、いつものニュースを流す。
見慣れた朝の光景なのに、どこか現実感が薄い。
頭の隅に、あの玄関の光景がこびりついて離れない。
気のせいだ。そう言い聞かせて、出勤の準備をする。
だが、靴を履こうと玄関に立ったとき、
足元に“濡れた跡”があることに気づいた。
……水?
拭いた記憶はない。
昨日は雨も降っていなかった。
それなのに、玄関マットの端がじっとりと濡れている。
「……まさか」
恐る恐るドアの覗き窓を覗く。
──そこには、昨日と同じ段ボールが置かれていた。
だが、今度は違う。
箱の側面に、大きく黒い文字で、こう書かれている。
> 『受ケ取ッテ クダサイ』
息が詰まる。
ふざけている? 誰が?
いたずらにしては悪趣味すぎる。
スマホを手に取って撮影しようとするが、
カメラを向けた瞬間──
画面には何も映らなかった。
「……は?」
覗き窓からは見えるのに、
カメラ越しでは“そこに無い”。
震える指先でドアノブを握る。
開けてはいけない、という直感と、
確かめたいという衝動がせめぎ合う。
カチャ……。
ゆっくりとドアを開ける。
──何もなかった。
段ボールも、文字も、跡さえも。
ただ、静まり返った朝の空気があるだけ。
ふと足元を見ると、
玄関の床に、小さな“伝票”が落ちていた。
拾い上げる。
白い紙に、にじんだインクで印字された送り主の名。
> 【差出人:……自分。




