◆第一話『ピンポン』
ピンポーン──。
夕暮れ時、玄関のチャイムが短く鳴った。
最近、物騒なニュースが多い。
知らない配達員を装った事件もあったと、ニュースで見たばかりだ。
念のため、ドアの覗き窓から外を確認する。
……荷物が置かれている。
段ボールのようだ。配達員の姿はない。
どうやら置き配らしい。
「ふうん、またAmazonか……」
つぶやいて、ドアノブに手をかける。
カチャ。
だが、ドアを開けた瞬間──何もなかった。
「……え?」
玄関の前、何も置かれていない。
ポーチにも、階段にも、段ボールの影すらない。
たしかに見た。
今、そこに荷物があった。
見間違えた? いや、そんなはずはない。
胸の奥がざわつく。
ドアを閉め、鍵をかける。
足音が静まり返る部屋で、自分の鼓動だけが響く。
……気になって、もう一度、覗き窓を覗いた。
そこには──
さっきと同じ場所に、段ボールが置かれていた。
「……は?」
思わず息を呑む。
同じサイズ、同じ角度。
確かに“そこにある”。
恐る恐る、再びドアを開ける。
……やっぱり、何もない。
空気が一瞬、止まったように感じた。
風もないのに、玄関の隅でビニール袋がかすかに動いた。
背筋に、冷たいものが走る。
その夜、男は玄関のドアを閉めたまま、何度も覗き窓を見た。
見るたびに、荷物は──“形を変えて”そこにあった。




