第83話 思わぬ発見
受講生六名による作戦会議が終わった。地面には枝で描いた図を消した跡が残り、彼らが真剣に議論したことが窺える。相手は教官リン――自分たちより圧倒的に強い冒険者。しかし試験は『一撃当てれば合格』。六人は一つのチームとなって挑む決意を固めていた。
アルトがリンへと進み出る。
「六人同時での挑戦、できますか?」
常識的には無茶だが、リンはあっさりと答えた。
「大丈夫」
その余裕にライカは内心で歯噛みしていた。だが今は怒っている場合ではない。勝たねば、未来はない。
ナカムラが声を張る。
「準備はいいな? 始めるぞ」
リンも受講生も頷く。コリーは期待を込めた目で見守り――。
「はじめっ!」
号令と共に模擬戦が開始された。
最初に走ったのはライカとドルン。武術経験者二名が正面から突っ込む。リンが迎撃姿勢に入る直前、二人は左右に飛び退いた。左右の挙動を見ようとリンが後ろに下がった瞬間――風切り音。
ローレンスとリィベルの二本の矢が飛び込む。リンは紙一重で避けるも、次の矢を撃たせないために射手たちへ向かおうとする。
そこに飛び込んだのは、アルトとハーネス。槍が横薙ぎに走り、リンの足元を牽制する。リンは軽く跳び越え、アルトが正面で盾を構える。左右からはライカの斧、ドルンの剣が迫り、背後からはハーネスの槍。さらに後方には射手が控えている。完全な包囲網。
――普通なら、詰み。
しかし、熟練冒険者に常識は通じない。
リンは一気に加速し、後方へと駆ける。ハーネスと二人の射手が目を見開く。
「えっ!?」
ハーネスは咄嗟に槍を突くが、リンが盾でいなし、そのまま剣で一本。反転し、追いかけてきたライカに切り込み一本。その隙をつこうと、ハーネスの後ろを回って斬りかかってきたドルンも剣を弾き、兜越しに頭へ蹴りを入れて一本。
残るは三人、アルト・ローレンス・リィベル。
「まじかよ……」「いや、ありえん……」
それでもアルトは盾を掲げ、射手二人を守るように立った。
リンが駆ける。ローレンスはクロスボウを撃つが、リンは横へ飛んで回避。装填する時間はない。ローレンスは短剣を抜き、リィベルより前へ。二人で盾となるつもりだ。
だが盾を持っていないローレンスがリンの攻撃を防ぐ術はなく。ローレンスは蹴り飛ばされ、後方のリィベルの方に飛ばされ、リィベルも誤射を防ぐために弓に番えた矢を外す。アルトが必死に盾で迎え撃とうとする中、リンが死角側に回りこもうとする。
その時――
リィベルの放った矢が、リンの左肩をかすった。
「あっ……」
一番驚いていたのは本人だった。
ナカムラがすぐさま声を上げる。
「そこまで! 合格だ!」
コリーが目を丸くし、受講生たちは状況を飲み込めず固まる。
「あれに当てた……?」
リンも少し驚いたようで、目を丸くしていた。
「驚いた。合格」
沈黙から一転、六人は歓声を爆発させた。
「やったー!!」「すごい、リィベル!」
「ありえんって!」
しかしリィベルだけは呆然としている。
「リィベル、どうやって当てたんだ?」
アルトが声をかける。
彼女は困ったように答える。
「なんか……リン先生が、瞬間移動したみたいに見えて……反射で射ったら当たったんだよね」
ナカムラが木の板を拾いながら近づく。
「さっきローレンスがぶつかった時、左目は塞がってたよな?」
「うん。バランス崩して、でも撃たなきゃって……」
ナカムラは板を構える。
「よし、左目つぶったまま、この板を射てみろ。もし当てたら……卒業でいいぞ!」
そして板を大きく投げる。
「えっ、あっ――!」
リィベルは思わず左目をつむり、矢を放った。板は回転し不規則に揺れる。だが矢は――中心を撃ち抜いた。
「あ……れ……?」
ナカムラはうなずく。
「やっぱりな。スキル鑑定師へ行くぞ」
受講生たちはどよめいた。
「スキル持ち……?」
「じゃあ本当に冒険者でいいんじゃ?」
だがリィベルは首を振り、深く頭を下げた。
「みんなで卒業したいから、さっきのは無しでお願いします」
ナカムラは笑った。
「わかった。じゃあ行くぞ。コリー、後よろしく」
「はーい!」
その後――鑑定の結果、リィベルには予知視のスキルがあると判明した。相手の動作を瞬間的に視覚化し、先の動きを視覚化する能力。今まで「集中するとブレて見える」と思っていたのは、情報が過剰に見えていたためだったのだ。
長い間、「自分は下手だ」と思い込み苦労してきた彼女。しかし今回、偶然の一撃が才能を暴いた。
きっと彼女は胸を張って村に戻れる――冒険者としての確かな成果を携えて。
そして、第一期の仲間たちと共に卒業するため、また明日も弓を握る。




