第81話 武器の扱い方
冒険者育成コースは折り返し地点を越え、いよいよ受講生たちは武器を使う段階に移行する。
海での釣りと食事で心身ともにリフレッシュした彼らは、朝から真剣な表情で訓練場に立っていた。
目の前にはいくつもの木製の人形――丸太を削り、急所を示す紋様が刻まれた訓練用ターゲットが並んでいる。
「まずは、止まっている敵を正確に狙うことからだ」
ナカムラの声が、乾いた土の上に響く。
武器を手にする行為は、それだけで心が昂ぶる。
しかし同時に――
これから自分が扱う“力”が、敵であれ味方であれ命を左右することになる。
そんな重みも、受講生たちは薄々感じ始めていた。
「じゃあ、リン。お手本を」
呼ばれたリンは、まるで風の音を纏うような静かな気配を残し、大型ナイフを抜いた。
構えは無駄がなく、目だけが鋭く人形へと向けられる。
次の瞬間――
目、首、胸、腹、手足……
斬撃が連続して走り、木肌に鮮やかな線が刻まれていく。
最後に深い踏み込みとともにひと太刀。木製の首が軽い音を立てて転がり落ちた。
「…………」
ほとんどの受講生たちは誰ひとり声を出せなかった。
まるで目の前で本物の戦闘を見たような緊張感が、空気に残っていた。
「ここまで出来なくていい。ただし――」
ナカムラは改めて全員を見回す。
「“当てる”だけじゃ意味がない。その一撃で敵を止めるには、どこを狙うべきか。どう踏み込むべきか。それを考えろ」
その言葉で、受講生たちはようやく息をついた。
そしていよいよ各自が選んだ武器を手に、人形へと向かった。
ライカ(両刃斧)
最初から喧嘩腰で、最初から誰よりも自信満々。
幼いころから力が強く、剣では軽すぎてしっくりこなかったという。
「じゃあ、いくぞ!」
一振り。
木の人形が真横に裂け、バキンと音を立てて倒れた。
「……やりすぎだ」
「いや、こういうもんだろ?」
ナカムラが額を押さえる横で、ライカは他の受講生に武器の振るい方を教え始める。
その豪快さは、良くも悪くも冒険者向きだった。
ドルン(盾+長剣)
元兵士であるドルンは、今日も静かに淡々と作業をこなしていた。
斬る音も突く音も軽やかで、急所にはすべて正確に跡が刻まれている。
ただ、その完成された動きとは裏腹に、人との距離はいつも少し遠い。
「……終了しました」
「うん、問題ない。でももう少し周囲とも話してみるといい」
ナカムラの声に、ドルンは微かに頷くだけだった。
リィベル(弓)
弓を構える姿は美しく、矢も正確に木人形へ刺さる。
「面接のとき、弓当たらないって言ってなかったか?」
「止まってる物は当たるんですよねぇ。動くとダメで……。だから親父には“戦闘向きじゃない”って言われてて」
試しに木片を投げて動かしてみると、見事に外れた。
的には当てられるが、生き物には弱い――という癖なのかもしれない。
「これは後日、別で補強しよう」
「はーい」
リィベルは苦笑しながらも、何度も弓を引いていた。
ハーネス(槍)
大柄だが手先が器用、そのバランスから罠師向きと判断して槍を持った。
突く、払う、引く。
ぎこちないが、きちんと意味を理解して扱っている様子がうかがえる。
「……人形ならば、大丈夫そうです」
単純な力押しではなく、武器の重心をしっかり理解した動きだった。
ローレンス(クロスボウ)
近接が苦手とはっきり主張しただけあり、遠距離一本に絞ったスタイル。
「一人で行動しないようにして、近接戦闘向きの人や罠が扱えるようにしていこうと思う」
放たれたボルトはすべて急所へ突き刺さる。
反応速度と集中力はかなり高かった。
アルト(棍棒+盾)
最後まで迷い、最も意外な武器を選んだのがアルトだ。
「刃が無くてもいいかなって……当てれば何とかなるだろうし」
安直な理由ではあったが――
そもそも運動神経がいいからだろう、棍棒で一撃を与えた時の音は、初めて武器を振るう者の動きには見えない。
その動きに、ナカムラも目を細める。
「案外、向いてるなぁ」
「本当ですか!?」
アルトは素直に喜んだ。
全員が、自分の武器を手にして木人形へ向かう。
振るうたび、刃の感触が腕に伝わり、柄の震えが体幹を揺らす。
攻撃の瞬間だけではなく、その“反動”をどう受け止めるか――
それもまた、武器の扱いにおいて重要な要素だった。
打撃武器なら体重の乗せ方。
剣なら刃がきちんと立つ角度。
弓やクロスボウなら照準の安定と、次弾への体勢づくり。
そして、最も難しいのは――「動く敵」を相手取ることだ。
しかし今日は、まず基礎を固める日。
止まっている敵を、速く、正確に、確実に仕留める姿勢を学ぶ日だった。
しばらく見守っていたナカムラは、コリーとリンの方へ歩いていく。
「……最初、心配だった。なんかやれそう」
「ほんとにぃ。姿勢も良くなったし、目つきも冒険者っぽくなってきましたよぉ」
「知識も判断力もついてきた。……やっぱり、こういう場は必要だよな」
冒険者ギルドに登録して依頼を受け――
誰にも教わらないまま、いきなり危険に放り込まれる新人は少なくない。
その中には、命を落とす者もいる。
だからこそ、この育成コースの意義は大きい。
「さて、今日はここまでにする。明日からは、いよいよ“動く標的”に移るぞ」
受講生たちの顔が引き締まる。
木の人形が、敵として動き始める。
そしてその次には――実際に人同士で組んで行う模擬戦が待っている。
冒険者への階段は、少しずつ、しかし確実に彼らを鍛えていく。




