表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
2つ目の伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/91

第79話 生存戦術

 二週目も折り返しとなった。

 受講生たちはそれぞれに悩みを抱えつつ、少しずつ自分に合う武器を探し始めている。だが今日は、その武器そのものよりも――もっと大切な、もう一つの“生き残る手段”を学ぶ日だった。


「さて、今日教えるのは――罠で獣を仕留める方法です」

 コリーがいつもの柔らかい口調で切り出す。説明役は彼女だ。戦闘よりも射撃と罠に特化した、ある意味もっとも“冒険者らしい”技術を持つ人物である。

「戦いに自信がない者でも生き延びられる技術ですからねぇ。鹿、猪……場合によっては熊なんかもいますし。正面から戦う必要がないなら、それが一番ですよ」

 受講生たちは頷く。

 ナカムラも補足を挟んだ。

「そもそも人間は野生生物と正面からやり合うようには出来てない。武器を使った戦いは――可能なら避けるべきなんだ」


 だからこそ罠がある。地形を利用し、距離を取り、相手の不注意を突いて仕留める。

 冒険者の生存率を最も上げる技術――それは派手な剣技でも豪胆な突撃でもなく、“準備と判断”なのだ。

 訓練場の片隅では、コリーが実物の縄や若木、土、落ち葉を前にして準備を始めていた。

「ここでは私がよく使う方法を紹介しますね。登られにくい場所からの射撃や、素早い生物を待ち伏せで仕留める方法、それに――皆さんが今日挑戦する罠」

 そう言って彼女は、太い麻縄の端を持ち上げた。

 輪になった部分を示しながら説明を続ける。

「まずは鹿や猪に使う“くくり罠”です。足を踏み込んだ瞬間に縄が締まり、木の反動で獣の体を宙に浮かせたり、動きを止めることが出来るんですよ」

 彼女の両手は迷いなく動き、地面に浅い窪みを掘る。輪を置き、土をかぶせ、落ち葉を散らして擬態させる。

 その手際の良さに、受講生たちは食い入るように見入っていた。

「大切なのは獣道の観察です。足跡が深い場所は通行量が多い証拠。そこへ仕掛けます。ただし――」

 コリーは輪の部分を指先で示した。

「この輪は地面と“完全に同化”してないとバレちゃうんです。餌なんかを撒く方法もあるんですけど、まずは丁寧な作り方から覚えていきましょう」


 受講生たちはさっそく挑戦を始めた。

 だが思うようにはいかない。

 輪が大きすぎたり小さすぎたり、隠しきれずに縄が露出してしまったり。

 若木をしならせた瞬間に“ビタンッ”と自分の額に当たり、その場で悶絶する者まで出る始末だった。


 そんな中、ただ一人――慣れた手際を見せる者がいた。リィベルだ。

 彼女は弓を扱う狩人の家で育った少女で、足跡を見る視線も、地形の把握も、罠の設置も、すべてが手慣れた動きだった。

「え? あたし? いや、弓の腕が酷いからさぁ……こういうのだけでも出来ないと、家で居場所なかったってだけだよ」

 自虐気味に笑うが、その手は確かだ。罠の輪は美しく隠れ、木の反発力もほどよい。

「いえいえ、手際がいいのは本当にすごいですよ」

 コリーが近づき、優しく微笑む。

「罠が発動してくれたほうが、安全に一回で仕留められますし、矢よりも失敗が少ないです。貢献値も高いですし、その技術は誇っていいと思いますよ」

「え、あ、そ、そう……?」

 リィベルは耳を赤くしながらも、まんざらでもない様子だ。

 受講生たちの中には彼女に罠のコツを教わる者も出てきていた。


 続いて、ナカムラが籠罠を取り出した。丸い籠の側面を指で叩きながら説明する。

「これは魚や蟹を捕る“籠罠”だ。中に魚の頭を少し入れておくだけで、勝手に獲物が入って、出られなくなる」

 中の構造を見せながら、懐かしそうに笑う。

「冒険者になって最初の頃は食料確保のためにこれでエビを捕まえたもんだよ」

 罠は地味だが、時に命を救い、時に食事を与えてくれる――冒険者にとっての“底力”なのだ。

「まぁ、極端な話をするなら――高いところから大きな石を落として当てるだけでも、大抵の生き物は戦闘不能になるからな。重要なのは“リスクを避ける工夫ができるか”ってことだ」

 ナカムラの言葉に、表情が少し軽くなる者もいた。

 戦わないという選択肢があると知っただけで、心の余裕が生まれたのだ。


「とはいえ、不意に遭遇することだって珍しくない」

 ナカムラの声が少しだけ低くなる。

「だからこそ、咄嗟に使える武器は絶対に必要だ。この週のうちに――必ず扱う武器に慣れておいてくれ」

 その言葉に、武器選びで迷っていた者たちは、再び現実へ引き戻された。

 罠は強力だが、罠だけで生き残れるわけではない。

 すでに武器を決めている者もいる。

 ローレンスは早々にクロスボウを選び、練習用の的に向かって淡々と射撃を続けている。彼女はクロスボウの原理や的を狙うコツなども積極的にコリーに師事し、数日撃っただけで既に安定した精度を見せていた。

 リィベルは弓にこだわり続けており、近接武器を触りながらも結局は弓へ戻る。家柄の問題だけではなく、弓を持つ姿そのものに誇りを感じているように見えた。しかし、相変わらず止まっている標的には当てられるが、動く対象物にはなぜかほとんど外してしまうという失敗を見せている。ナカムラはその様子を見ながら、何が原因かをずっと考えていた。


 残る二人はまだ迷っている。

 だが今日学んだ罠の知識は、彼らの迷いを少し軽くした。武器が得意でなくても、生き延びる術はある――そう知っただけでも前に進める。

「それぞれの武器が決まり、扱いを学べるようになったら――次の週へ進むぞ」

 ナカムラは、受講生たちの姿を見守りながら呟いた。

 六人はこの数日で確かに “冒険者らしさ” を身にまとい始めている。

 迷いながら、悔しがりながら、それでも一歩ずつ前へ進む。その姿は、かつての自分たちを思い出させた。


 ――全員が自分のなりたい冒険者になれる。

 そう信じながら、ナカムラたちは今日も教える。

 生き残るための知恵と、仲間を守るための力を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ