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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
2つ目の伝説

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第78話 分岐点

 次の週が訪れた。前週では毒や環境といった“知識”を中心に学んだが、本日はその知識を「どのように実戦へ落とし込むか」を学ぶ日だ。

 冒険者にとって、もっとも分かりやすく命を左右するもの――それが武器選びである。

 訓練場に集まった六人の受講生の前には、ざっと十種類を越える練習武器が並べられていた。短剣、長剣、曲刀、大剣、槍、斧、棍棒、短弓、長弓、そしてクロスボウ。どれも刃や先端は木製か刃を潰した模擬武器だが、その重さや重心は実物を模してある。触ればすぐに得手不得手が分かる程度の精度だ。


「まずは持ってみろ。人に向けないようにだけ気をつけて、手に馴染むかどうか確かめてみてくれ」

 ナカムラが声を掛けると、それぞれが思い思いに武器へ手を伸ばしていく。

 都市育ちで武術経験のないアルトは、短剣を持っては戻し、槍を構えては腕を震わせ、斧に手を伸ばしてはそっと戻すを繰り返していた。「何が自分に合うのかまるで分からない」と顔に書いてある。

 逆に、元兵士のドルンは落ち着いたものだ。最初から腰に自前の長剣を下げ、壁にもたれかかったまま仲間たちの様子を眺めている。武器を触る必要すらないという余裕だ。

 初日から色々とお騒がせしているライカも同様で、両刃斧を背に、静かに周囲を観察していた。

 そんな二人へ、ひょいと声を掛けたのがリンだった。木剣と小型の盾を片手ずつに持ち、いつもの無表情で近づく。


「暇? 他の子の参考、付き合って」

 その声音には悪気がないのだが、聞いた側が挑発と受け取っても無理はない。案の定、一番に反応したのはライカだった。

「へぇ、面白いな。教官様と打ち合っていいのか?」

 言葉とは裏腹に目は完全に戦意に満ちている。背中から両刃斧を抜く動作も滑らかで、素人とは一線を画していた。

「うん、平気。私、負けたら卒業でいい」

 やはり言葉が少ないせいで誤解を招くリン。場がざわつく。

 そのまま二人は距離を取り、自然と対峙する形になった。受講生たちは、さきほどまで武器を触っていた手を止め、固唾を呑んで見守る。

「なぁ、合図とかあんのか?」

「別に、いつでも」

 リンは構えすらとらない。背筋をすっと伸ばし、淡々とライカを見つめているだけだ。


「――あっ、そう!」

 ライカが叫んだ瞬間、大地を蹴る重い音が響いた。両手で構えた大斧を振り下ろすため、一気に間合いを詰める。踏み込みには迷いがなく、風を裂く音が訓練場に鋭く流れた。

 対するリンは、驚くほど軽やかな後退を見せた。ほんの一歩、身体を引いただけで斧の軌道から外れ、そのまま懐へ踏み込む。

 大振りの武器の宿命――“振った後”の隙を突く、その教科書のような動きだった。

「なめんなっ」

 ライカは咄嗟に、大斧を引き戻すように回転させて盾代わりに構える。よほど力に自信があるのか強引な動きだ。

 リンの剣を防いだあと、同じように一歩下がって再び振りかぶろうとする。

 だが――。

「えっ」

 ライカが次に目にしたのは、自分の顔めがけて飛んでくる“盾”。リンの手から離れた盾が回転しながら飛んでくる。

「はっ!?」

 予想外すぎて思わず体を傾けた。顔の横を盾が通過し、地面に転がっていく。

 視界をリンに戻したときには、剣先がライカの喉元へ寸止めされていた。

「終わり」

 淡々とした声。受講生たちから小さなどよめきが漏れる。

「きったねぇぞ!」

 ライカは悔しさで顔を真っ赤にする。だがナカムラが間に入った。


「大したもんだ。冒険者になる前から、それだけ振れれば十分だ。並大抵の獣なら、最初の一発で首が飛んでる。経験があるんだな」

 ライカは悔しさを噛みしめつつも「まぁ、一応な」と声を出す。

「ただな。ルールがないのが狩猟であり冒険だ。相手は言葉が通じない。真正面から殴り合ってくれる獣なんていない。だからこそ、勝てる方法を積むのが技術なんだ」

 ナカムラは、ライカの戦いを見て不安げな表情になっていた受講生たちへ向き直る。

「戦闘技術がなくても、罠や飛び道具で相手を弱らせればトドメを刺せる。今リンがやったのも、その一つの例だ。正面からじゃ勝てない相手も、角度を変えれば勝機はある」

 視線をリンへ向ける。

「ってことでいいか、リン?」


「うん。ありがとう。また遊んで」

 リンが頭を下げると、ライカは拍子抜けしたように「あ、あぁ」と返した。肩の力が抜け、険しさが消えている。

 その姿を見た受講生たちは、勇気づけられたようだった。

 ライカの周りには「教えてほしい」と声を掛ける者も現れ、場の空気は一気に明るくなる。

 ナカムラは全員を見渡し、軽く手を叩いた。


「さて、今日の目的だ。まずは――“自分が扱えそうな武器を一つ見つける”こと。それが最初の一歩だ。向いているかどうかなんて、触って、振って、転びかけてみてやっと分かる」

 彼は続けて言う。

「冒険者は、武器の選択で生存率が変わる。背伸びして強い武器を使う必要はない。まずは扱いやすそうな者からでいい。それを何度も扱うんだ。慣れてないと咄嗟に動かせないからな」


 受講生たちは頷き、それぞれまた武器へと向かった。

 戦いを見たことで、先ほどよりも目に熱がある。“自分もいつかは”という気持ちが湧き上がったのだ。

 何を選ぶのか、ということが出来るのは恵まれた環境だから出来ることだろう。その機会を逃さないように武器の重さ、長さ、扱いやすさ――それらを一つひとつ確かめながら、六人は冒険者への第一歩を踏み出していく。

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