第72話 養成コース企画
ギルド長との話し合いを終え、ナカムラは食堂へ戻ってきた。夕方の食堂は落ち着いた雰囲気に包まれ、厨房からはリンが包丁を扱う乾いた音だけが響いている。
そのテーブルにはすでにコリーが座っており、ナカムラが戻るや否や、身を乗り出してきた。
「どうでしたぁ?」
「まぁ、いつものようにギルドからの依頼には違いないな。ただし初めての話だから何からするかを迷うなぁ」
ナカムラが腰を下ろすと、リンが厨房から顔を出し、エプロンを外しながら合流した。
「人、育てる、やる?」
「まぁ冗談抜きで、冒険者ギルドの未来がかかってるからな」
三人は自然と姿勢を正し、話し合いの空気に入っていく。
現在の冒険者ギルドでは、冒険者希望者はまず書類を提出し、その後、ギルド長を含む複数名の職員による面談を受ける。そこでは戦闘経験、判断力、心構え、危機対応――といった様々な基準で適性を判断していた。
だが最近、事情が変わってきている。
ベテラン冒険者が減っている。
その分、新しい人材を確保したい。
しかし──冒険者という職業は、命を扱う。
「強いだけじゃ足りない。弱くてもダメってわけじゃないけど、自分の力量を理解して、時には退く判断ができるか……そこが一番大事なんだよな」
ナカムラは遠い日の自分の面談を思い出しながら呟いた。
無理をすれば冒険者は死ぬ。死ねば依頼は中断され、冒険者ギルドの信用は落ちる。
無闇に新人を入れることはリスクそのものだった。
だからこそ──
「何か一芸に秀でた者、磨けば光る者を一定期間鍛えて、その後冒険者として送り出そう……って話だな」
「そうですそうです! 育成してから登録って、いいシステムですよねぇ」
コリーはすでに目を輝かせていた。
今回の依頼は、まさにその「鍛える」部分をナカムラたちに任せる、というものだった。
責任は重大だ。
しかし同時に、それは新しい挑戦でもあった。
「面談はギルドが行う。で、俺も立ち会って、ギルド長と相談した上で“養成コースへ回すか”を判断する……そういう流れになるらしい」
「面談から関われるなら、どういう子か最初に見られていいですねぇ」
三人はテーブルの紙を広げ、次々と考えを書き込んでいく。
「最初は、冒険者としての心構えから、だよなぁ」
「ですねぇ。あと荷物とか道具の使い方とか、教えてもらえるなら、あれもこれも教えてほしかったですねぇ」
「獲物の攻撃、避けて、斬る。一番大事」
リンの即答に、ナカムラもコリーも思わず笑ってしまう。
「あぁ、まぁ……間違ってないけどな」
ギルド側から求められた期間は“おおよそ一か月”。
その中で、冒険者として最低限の判断と技能を身につけさせる必要がある。
時間は短い。だからこそ、取捨選択が重要だった。
ナカムラはメモを取りながら、カリキュラムを整理していく。
「まず一週目は……冒険者の心構え、準備、野営、現地での知識。基本は全部ここに詰め込む」
「基礎ですよねぇ! ここでつまずくと、本番で痛い目見るんですよぉ」
コリーが肩をすくめた。
「二週目は武器の訓練だな。武器の選定から、扱い方、戦闘技術の基礎。罠や道具の扱い方も教えたい」
「三週目は模擬戦と技術テスト。ここはリンにお願いする事になると思うが、手加減はしてくれ」
ナカムラがリンを見る。
「頑張るっ」
すごく気合が入っているのがとても不安だ。
「で、四週目は模擬依頼。これを卒業試験にする……って流れか」
「……こうして見ると、案外いけそうだな」
「あの~、ごはんの作り方も入れてくださいね~? 冒険者は自炊大事ですよ?」
「料理、重要」
二人に言われ、ナカムラは思わず笑った。
「料理人目指すやつ出たらどうすんだよ」
「それはそれで良い事ですよぉ。でも目的は冒険者養成なので、そこはほどほどに!」
「……まぁ教えるけどな」
そんな他愛のない冗談が飛び交う頃には、すでに三人とも完全にやる気モードに入っていた。
「でも……どんなやつが来るかわからないからなぁ」
ナカムラは腕を組んで机に寄りかかる。
「若者ばかり、ってわけでもないでしょうしねぇ。武器の得意不得意も、人数もバラバラでしょうし、いざという時はリンちゃんお願いしますねぇ」
「指導!」
頼もしすぎる返事に、ナカムラは苦笑を浮かべた。
「まぁ……どんなやつが来ても、俺たちで見てやればいい話だ。俺たちが決めたことだしな」
カリキュラムをざっと整えた後、三人はギルド長のもとへ提出に行った。内容を見たギルド長は深く頷き──
「では、明日からの面談時には声をかけるようにする」
「どんな生徒が来るか、楽しみですねぇ!」
「まぁ、やるからには全力だ。変なやつでも、怖がりでも……ちゃんと見てやる」
それぞれの胸に、それぞれの期待がふくらんでいた。
こうして──
冒険者ギルド・第一期“冒険者養成コース”は、静かに、しかし確実に動き始めた。




