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第6話 カマヒ一家の日常

 干物が都へと旅立ってから数週間。商人は再び村を訪れ、干物を大量に買い取っていった。どうやら、彼はこの魚の味にすっかり魅了されたらしい。


「すっかり都でも評判で、買い取っても買い取っても足りなくて……。」


「商売繁盛で何より、他の魚も運べるように工夫してみるから、楽しみにしててくれ」


 ナカムラは笑いながら頷いた。干物は保存が効くため、これなら安全に運べる。村人たちも手伝いながら、毎週の出荷に追われる日々が始まった。カマヒの家では、すっかり元気になった姉妹が、ナカムラのつくった賄いを食べているところだった。

 カマヒ本人は、


「休んじゃおれん、せっかく村が活気を戻しつつあるのだから、頑張らんと」


と仕事に勤しんでいるそうだ。


 食堂が一息ついたので、カマヒの家で、コリーとリリーと一緒に賄いを食べていた。


 姉妹は出会ったころと比べて各段に美しい容姿となっていた。

 長女のコリーは、ピンクがかった茶色の長い髪を持つ娘である。陽の光を受ければ淡い薔薇色にきらめき、風に揺れるたびに柔らかい光沢を放つ。痩せこけていた頃と比べ、長身故に細身に見える体躯はすらりとしていて、一見すると華奢な印象を与えるが、実際にはしっかりとした筋肉が隠れており、力も強い。

 褐色に近い健康的な肌と、切れ長の瞳は、凛とした印象を持たせる。そんな彼女だが、日常の仕草には子供っぽい一面も垣間見える。困ったときや緊張しているときには、つい長い髪を指先でいじる癖があり、感情が昂ると手をバタバタと動かして表現することもある。また、言葉の語尾を伸ばす癖があり、物静かで大人びて見える外見とは裏腹に、内面には不器用な優しさと、年相応の幼さが同居している。だからこそ、彼女を知る人々は思わず守ってやりたくなるのだ。


 そんな長女のコリーは魚の骨を取り除くのが上手ではなく、たくさんの骨がついている魚は、骨に身が残ってしまうことも少なくない。

 それを見たナカムラは、さりげなく骨の処理をしてからまかないを出すようにしている。


「ほら、骨はほぼ取り除いてある。安心して食べられるぞ」


 本日の賄いは、フグの唐揚げである。油が貴重なこの世界では、食堂で贅沢に使って、皆に出せるほどの量は用意しづらい。そのため、こっそりとカマヒの家でのみ出される秘密の賄いとなっていた。


 熱々のフグ唐揚げが皿に盛られる。揚げたての衣は黄金色に輝き、カリッとした音とともに香ばしい香りが立ち上る。手に取るだけで、衣のパリッとした感触と、まだ温かい湯気が指先に伝わってくる。一口かじれば、まず外側の香ばしい衣が弾け、口の中にじゅわっと広がる熱と香り。次にフグの身が顔を出すと、驚くほどしっとりとしていて、噛むたびに上品な甘みがじわりと溢れる。衣の塩気が旨味を引き立て、口の中でパリッとしっとりが絶妙に重なる瞬間、思わず笑みがこぼれる。そこに柑橘類をひと搾りすれば、爽やかな酸味が香ばしさを引き立て、さらに食欲を刺激する。


 コリーは目を輝かせ、嬉しそうに箸を伸ばした。


「わぁ~ナカムラさん、ありがとうございます~! やっぱり骨がないと食べやすいです~。」


 その言葉にナカムラは苦笑する。


「まぁ、そのうち慣れるようになるから、今のうちだけさ」


 コリーは一口食べ、にっこり笑った。その笑顔を見たナカムラは、なんだか心がほっこりするのを感じた。


「姉さん、そろそろ慣れていかないと、骨に近いとこのほうが美味しかったりするんだよ」


 そう笑いながら、コリーに物を言うのは妹のリリーである。

 リリーは、セミロングの黒髪に金髪が混じるツートンカラーの髪を持つ少女だ。陽光の下では黒と金が鮮やかなコントラストを描き、動くたびにその二色の髪がきらめきを放つ。身長は姉のコリーに比べればやや低め、横に長い瞳は意志の強さを映し出し、鼻筋も高く通っていて、整った顔立ちは年齢よりも大人びて見えるほどだ。褐色に近い健康的な肌は、いつも外で活動している証のようであり、その生き生きとした印象は見る者に活力を与える。

 面倒見の良さも彼女の大きな特徴だ。じっとしていられず、困っている人を見ればすぐに手を貸そうとする。特に姉のコリーに対しては過保護なほど世話を焼き、何かにつけて気を配る。時にはそれが鬱陶しがられることもあるが、リリー自身は本気で姉を守ろうとしているのだ。


 出会った当初は、やせ細っていたリリーも今では健康そのもの。今では、少しずつ魚を触れるようになってきていた。最初は恐る恐るだった手つきも、ナカムラの指導で徐々に上達し、干物の塩加減や干し具合を手伝えるほどになった。感覚としては、リリーのほうがコリーよりも魚の調理には向いている印象を受ける。

 遅めの昼休憩を終えた後は、再び食堂の営業時間となる。夕方時にもなると食堂は満員に近くなる。炭火の匂いと村人の満足そうな声が店内に満ちていく中、


「そろそろ店舗の拡張もしないといけないなぁ……」


そんな嬉しい悩みもわいてくる。


(ここに来た時はどうなるかと思ったけど、異世界も悪くないなぁ)


干物の販売も順調であり、毎週2回の干物の出荷が恒例となり、村の生活に新しいリズムが生まれた。


(もしかしたら、異世界なのだから、見たこともない魚やそれ以外の生き物もいるかもしれない。まだまだ可能性がある。)


そんな先々の事を少し考えながら、今日も包丁を振るう、ナカムラであった。

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