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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第39話 就業体験

 屋敷の庭に、朝の光が差し込んでいた。池の水面には銀色の鱗がきらめき、ボラたちが元気に泳ぎ回っている。その光景を前に、ナカムラは深呼吸した。いよいよ今日、孤児院の子どもたちがここにやってくるのだ。

 やがて、玄関の前に十代半ばと思しき少年少女たちが、整列するように立っていた。彼らの顔は緊張に固まっていたが、目の奥には強い光が宿っている。シスターとルマカーチが子どもたちを伴い、にこやかに歩み寄ってきた。


 「今日から、こちらの先生方に学んでもらいます。ナカムラさん、コリーさん、リンさん」

 シスターの声は柔らかく、けれどはっきりとしていた。


 子どもたちは揃って頭を下げる。

 「よろしくお願いします!」


 その声に、ナカムラは少し照れながらも答えた。

「こちらこそ、よろしくな。俺たちが考えたことを全部教える。けど大事なのは自分で工夫して、自分のやり方を見つけることだ」


 横でコリーがぱんっと手を叩き、笑顔を見せた。

「楽しくやりましょうねぇ!」


 リンは相変わらず表情を崩さないが、静かにうなずいた。

「大丈夫、簡単、リンもやった」


 最初に教えたのは、ボラを捕まえるところからだ。子どもたちは水際に並び、ナカムラの動きを真剣に追う。


 「まずは網をこう入れる。暴れるけど、落ち着いて抑えろ」


 網の中で跳ねるボラを素早くすくい上げ、バケツに移す。その一連の動作を見た子どもたちは、我先にと挑戦し、最初は水を浴びて笑い合ったが、何回もやっていくことで手際よく魚を扱えるようになった。


 次は捌き方。包丁を握る子どもたちに、ナカムラは厳しい目を向ける。

「魚を殺すのは簡単だ。けど、命をいただく以上、最後まで丁寧にやるんだ」


 少年の一人が震える手で包丁を入れると、リンがそっと横に立ち、「角度……こう」と短く助言する。すると見違えるようにきれいな切り身が現れ、少年の顔に自信の笑みが浮かんだ。


屋敷の畑では、葉野菜が日々成長していた。子どもたちは毎朝、畝に水をやり、雑草を抜き、芽を見守った。

「小さい芽でもねぇ、大切に育てたら立派な葉っぱになるんですよぉ」


 コリーの明るい声に、少女たちは笑顔を見せる。果樹園の手入れも学び、枝を剪定し、病気の葉を取り除く。

「ここで手を抜くと、収穫のとき泣く羽目になるぞ」

 ナカムラの言葉に、子どもたちは真剣にうなずいた。


 こうして、畑と果樹の管理、魚の世話、捌き方、調理方法。どの分野でも彼らは驚くほどの吸収力を発揮した。シスターの教育がしっかりしていたのだろう。理解が早く、質問も的確で、教えれば教えるほど伸びていく。その成長を見守るナカムラの胸には、静かな感動が広がっていた。


 日々の努力が積み重なり、一か月が過ぎる頃には、子どもたちは完全に一人前になっていた。魚を捕まえ、捌き、衣をつけて揚げる。畑で収穫した葉野菜を洗い、パンに挟み、果樹の酸味を絞って完成させる。その一連の作業を、指導しなくても協力してやり遂げられるようになっていた。

「先生、もう僕たちだけでできるよね?」

 少年の自信に満ちた声に、ナカムラはうなずいた。

「ああ、間違いなくな」


そしてついに、都で露店を開く日がやってきた。子どもたちは清潔な服装に身を包み、白いエプロンを結ぶ。胸を張る姿は、まるで本物の料理人だった。

 ナカムラはとっておきを用意していた。露店の傍に置かれた大きな看板、そこには


『王家特別賞受賞者ナカムラ考案 ボラサンド』


 その文字を見て、ルマカーチが感嘆の声を上げる。

「粋ねぇ! 都の人なら絶対に目を留めるわ」


 実際、通りかかった人々が立ち止まった。

 「王家特別賞? あの料理大会の……?」

 「でも、ボラってなんだ?」

 興味本位で財布を開いた客が、子どもたちの差し出すサンドを手に取る。


 一口食べた瞬間、目を見開き、感嘆の声を漏らした。

 「うまい!こんなに安いのに」

 「揚げたてで野菜も新鮮だ、重くなくてさっぱりしている!」


 その声が広がると、たちまち行列ができた。次から次へとサンドが売れ、用意していた材料はみるみる減っていく。子どもたちは大慌てで調理しながらも、必死に笑顔を絶やさず接客を続けた。


 その光景を見ていたルマカーチは、子どものように手を叩きながら叫んだ。

「すごい、すごーい! 本当に人が押し寄せてる!」


夕方、全ての材料が売り切れた。子どもたちは汗だくで椅子に崩れ落ちたが、顔は輝いていた。これからしばらくは、この生活が続くのだ。店が安定していけば実績と自信が生まれる。そして稼いだ金をどう使うか、どんな未来を築くか。それはもうナカムラの役目ではない。

 「ボラの仕入れ値はほとんどかからない。だからこそ安く、誰でも買える。ルカマーチの家に用意した食材が全部なくなった後、手にした知識、技術、そして金。あとはお前たちの頑張り次第で未来も変えられる。」


 そうつぶやきながら、ナカムラは夜空を見上げた。

 今日も都に新しいグルメが誕生したのだ。


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