第37話 新たな家探し
リンが仲間になってしばらく。
宿屋の二階、ツインベッドの部屋に三人で腰を下ろした瞬間、コリーが溜息をついた。
「ねぇナカムラさん、やっぱり狭すぎません? ほら、ベッド二つしかないですし」
「我慢できなくはないけどな。床で寝袋は慣れてるし」
そう淡々と答えるナカムラをよそに、リンは壁際で正座をして首を傾げる。
「どっちか、ベッド一緒、無理?」
「無理です!」
即答したコリーが真っ赤になり、両手をぶんぶん振った。
「私だって女の子なんですからね? リンちゃんも女の子! さすがにナカムラさんと一緒に寝るのは、こう……落ち着かないっていうか!」
「そう?」
リンはあっさりした様子だが、コリーは肩を落とす。ナカムラは額に手を当て、少し考え込んだ。
「じゃあ、新しい部屋を探すしかないな。だが三人部屋、都合よくあるかどうか」
翌日から彼らは宿探しを始めた。しかし、都の宿はほとんどがシングルかツインベッド、それ以外だと高価な広い部屋。三人用などという中途半端な部屋はなく、結局は「グレードの高い宿で広い部屋を借りる」か、「思い切って家を買う」かの二択になっていた。
「うーん……広い部屋って、文字通り無駄に広いんですよねぇ。しかもお値段も高いし、家を買うなんて……ナカムラさん、本気で考えてます?」
コリーの疑問にナカムラは肩を竦めた。
「長く滞在するなら、その方が安上がりかもしれん。だが、急に決めるには情報が足りない」
そんな話をしながら歩いていると、後方から朗らかな声が響いた。
「あら~っ! ムラちゃんじゃない!」
振り返れば、ルマカーチが片手を振りながら歩いてきた。先日の魔獣討伐で共闘した冒険者である。
相変わらず、全身がマジックアイテムでキラキラしている。
「誰がムラちゃんだ」
「いいじゃない、呼びやすいんだもの!」
と彼女は笑い、ずかずかと近づいてくる。
「で? 浮かない顔してるけど、何か困ってる?」
コリーが答えた。
「実は今、住む場所を探してるんです。三人で泊まれるところを」
「なるほどねぇ」
ルマカーチは腕を組み、しばし考え込む。
「条件付きなら、ちょうどいい候補があるけど……話、聞く?」
三人は顔を見合わせた。ナカムラが頷き、
「とりあえず聞かせてもらおう」
と答える。
ルマカーチが語ったのは、彼女が内々で支援している孤児院のことだった。
「子どもたちもそろそろ働ける年頃なのよ。でも“孤児院育ち”ってだけで、まともな仕事をもらえない。経験もないから余計にね」
その表情には怒りとも悲しみともつかない影が差している。
「私が表立って支援すると“特定の施設を優遇してる”って批判されるし……。だから、信頼できる人に任せたいの」
「なるほどな」
ナカムラは腕を組んだ。
「もし君たちがこの依頼を受けてくれるなら、使ってない家を譲ってもいいわ。どう?」
「使ってない家?」
コリーが首を傾げる。
「まぁ、見に行けばわかるわよ」
ルマカーチは笑った。
翌日。案内された先で、三人は目を丸くした。
それは“使ってない家”などという言葉で表せる代物ではなかった。石塀に囲まれた敷地の中に、二階建ての大きな屋敷。庭には果樹が実をつけ、大きめの石で囲まれた池と菜園ができそうな空間まである。
「……これが、“古い家”?」
ナカムラが呟く。
「ごめんねぇ、ちょっと古くて汚いでしょ?」
とルマカーチは笑い飛ばす。
「いや、どう見ても屋敷だろ……」
コリーとリンは口をぽかんと開けたまま。リンが小さく呟く。
「広い……」
コリーは目を輝かせながら庭を駆け回る。
「果樹園付きなんて……夢みたい!」
ナカムラは半ば呆れながらも、内心では願ってもない条件だと感じていた。だが、気になるのはルマカーチの“条件”だった。
「で、肝心の条件ってやつは?」
「簡単よ」
ルマカーチは真剣な眼差しで告げる。
「子ども達に働く経験をさせてほしいの。将来の仕事につながるような経験が望ましい」
「孤児院の子達に、か」
ナカムラは顎に手を当てた。
「いきなり冒険者は無理だからね。危険すぎる」
「わかってる」
ナカムラは頷き、後ろの二人に視線を向ける。
「コリー、リン。どう思う?」
「私は……いいと思います」
コリーは真剣な顔になった。
「ナカムラさん、食べ物や保存の工夫で村を助けたでしょう? ああいうの、きっと子ども達にも役立つはずです」
「わたしも、いい」
リンは短く答える。
「食べ物作る、生きれる。子ども、自信でる」
その力強い言葉に、ナカムラは微笑んだ。
「決まりだな。条件、受ける」
ルマカーチはぱっと笑顔になり、がっしりとナカムラの肩を叩いた。
「さすがムラちゃん! やっぱり頼りになるわ!」
「その呼び方はやめろ」
「えー、可愛いのに!」
横でコリーとリンがくすくす笑う。
こうして三人は、新たな家を手に入れるために準備をすることになった。
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