第33話 帰省
出立前に2人は、密林の部族の村出身シレーンあてに伝言をギルドに依頼してから故郷の村へと向かった。もしかしたら2人が不在の間に別行動をしている部族長だったリンが尋ねてくるかもしれないと思い、シレーンには状況を伝えておいたほうがいいだろうとの判断だ。
そして今は、商隊の馬車に揺られ、街道を進んでいく。期待している分、長旅のように感じられた。しばらくして目の前に広がったのは、コリーの生まれ育ったあの小さな村......のはずだった。
しかし2人の目に映ったのは「小さな村」というよりも、すでに町のような賑わいだった。
道沿いには新しい木造家屋が立ち並び、漁具や工芸品を売る店が開かれている。行き交う人の数も増え、子供たちが走り回り、魚を積んだ荷車がひっきりなしに村の中心へと運ばれていた。
「なんか、思ったより発展してないか?」
ナカムラがぽつりと言うと、隣のコリーは目を丸くしていた。
「うそ、え……本当に? ここ、私の村だよね……?」
彼女にとっても、これは想定外の変貌だったらしい。
門のように立つ簡易の柵を抜けると、村の漁師たちが魚を仕分けている様子が見えた。そこでも激しいお出迎えを頂き、歓迎されているのを実感した。
聞けば、この村の特産品となったフグ料理と加工が軌道に乗り、その副産物として他の魚の生息環境も良くなり、漁獲量が飛躍的に増えたという。
「今じゃ他の魚も都にも卸してるんだ。あのフグがきっかけで、村の名が一気に広まったんだよ」
道端で話しかけてきた壮年の漁師が誇らしげに語る。かつては細々と暮らすだけだった村が、今や活気あふれる漁村へと姿を変えていた。人口も増え、商隊の立ち寄りも多くなり、外から移住してくる人までいるという。
ナカムラは思わず
「繁盛してるなぁ」
と笑みをこぼした。コリーも同じく、胸を張ってうれしそうに頷く。
――かつて二人が汗を流した「毒魚食堂」。
以前は古びた空き家を改装しただけの粗末な建物だった。だが今では、村の中心部に堂々と建てられた二階建ての木造建築へと変貌していた。
一階は広々とした食堂スペース。磨かれた木の床、白い布が掛けられた大きな机、壁際には酒樽や香辛料の壺が並んでいる。二階は宿屋となり、遠方から来た客を泊めることができるらしい。
村民の会議の場としても使われており、まさに村のシンボル的存在になっていた。
「おぉ……すっかり立派になったな」
ナカムラが感心して見上げると、コリーは目を輝かせて頷いた。
「ねえ、なんだか誇らしいよね!」
二人が戸を開けて中に入ると――
「いらっしゃいませ!」
と元気いっぱいの給仕係の声が響く。
だが、次の瞬間、その女性は目をぱちくりさせた。
「えっナカムラとコリーじゃん!? うそっ、ちょっと待って! ねえ! リリー呼んで! 二人帰ってきたって!!」
その大声が食堂中に響き渡り、客たちが一斉に振り向く。呼ばれるまでもなく、厨房からリリーが慌てて飛び出してきた。
「本当に?......あっ!」
小走りで近寄ってきた彼女は、満面の笑顔を浮かべて二人に抱きついた。
「おかえり! やだっコリー姉さん、冒険者みたいじゃん! すごーい! 似合ってるじゃーん!」
「ただいま~。えへへ……手紙を送るより早く着いちゃった」
コリーは少し照れたように笑う。その表情は、都会では見せなかった、素朴で柔らかなものだった。
「姉さん、何日くらい居られるの?」
リリーが弾んだ声で尋ねる。
「ん~、あんまり長く居ると帰りたくなくなっちゃうからね。次の商隊で帰ろっかな~って思ってる」
「そっか……じゃあ、その間はゆっくりしていって!」
リリーの言葉に、コリーはにっこり笑って頷いた。
厨房からは香ばしい魚の匂いが漂い、村人たちの賑やかな話し声が店内を満たしている。かつての毒魚食堂の面影を残しつつも、そこには新しい活気と誇りが溢れていた。
ナカムラはその光景を眺めながら、心の底から「帰ってきてよかった」と思った。
こうして二人は、懐かしい村での温かい再会と、驚くほどの発展を目の当たりにするのだった。




