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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第29話 発展と決別

 ナカムラは数日をかけて入念な準備を進めていた。密林での活動を本格的に形にするためには、自分ひとりの力では足りない。彼は都に戻ると、商人アキードのもとを訪ね、協力を依頼した。


「定期的に密林の入り口で密林の採集物が取引できるようになる。動物の素材だけでなく、梅の実を含めた果実酒の材料もある。どうだろうか、アキードさん」

 商人は目を輝かせ、すぐさま快諾した。


「定期的に密林の特産物が手に入るとなれば、こちらとしても安定した利益が見込めます。梅の実だけでなく、教えてもらった果実酒を広めていけば、色々稼がせてもらえそうですね」


 笑いながらそう語るアキードを見て、ナカムラは安堵する。これで後ろ盾は整った。

 投網、鉄格子罠の部品、保存食の見本。必要なものを一通りそろえ、準備は万端。数日後、ナカムラたちは再びシレーンと共に部族の村を訪れた。


 村の中央広場に人々が集められる。説明を行うのは部族長スンダリだった。彼女は深く息を吸い、ローブの裾を握りしめながら部族の言葉で説明をする。ナカムラとコリーは、わからない言葉だったので、隣でシレーンが通訳をしてくれている。内容は以下のようなものらしい。


「皆に伝えたいことがあります。私たちの生活は今、危機にあります。獲物が減り、このままでは子どもたちに十分な食を分け与えることもできなくなる。ですが……ナカムラさんが、助ける方法をいくつも提案してくれました」


 真っ直ぐに声を届けようとする姿勢。しかし、民の反応は薄かった。ざわめきはあれど、うなずく者は少ない。それどころか、視線には冷ややかさが混じっている。

 その理由は、ナカムラにもすぐに察せられた。


 ――スンダリの容姿だ。

 銀髪に白い肌、赤い瞳。異質とも言えるその容姿は、外の人間からすれば神秘的な美しさを放つ。しかし、赤髪と浅黒い肌を持つ部族の民からすれば、「自分たちとは違う者」なのだ。部族長であるにもかかわらず、彼女の言葉はその見た目ゆえに信用を欠いてしまう。


 シレーンに部族長の条件を聞いたところ、部族の民同士で闘い、最も強い者が部族長を名乗るらしい。スンダリは部族長になってから負け知らずらしいが、なぜこの村が危機に瀕しているかなんとなく察する事が出来た……。


 横に立つシレーンが一歩前に出て補足する。

「スンダリの言っていることは本当だ。彼らの方法を試せば、必ず食糧は増える。外界と接する私が保証する」


 シレーンの言葉に、民の表情はようやく和らぐ。スンダリは悔しさを噛み殺すように目を伏せた。その横顔を見て、ナカムラは心の中で誓った。


――必ず結果を見せてやる。お前の想いを、この村に届けるために。


 まずは投網漁の実演だった。村の近くを流れる川に案内された一行。ナカムラは持参した網を広げ、手早く構えを整える。


「見ていてくれ」

 大きく腕を振りかぶると、網は弧を描いて水面に広がった。しばし沈黙が続く。だが引き上げた瞬間、魚が跳ねる音に人々の目が見開かれた。大小さまざまな魚が、網の中で銀色の光を放っている。

 その量は、粗末な罠で手に入る量をはるかに上回っていた。


 次は梅拾い。シレーンが案内した林に入ると、青々とした梅の実が枝から垂れ下がっている。「毒果実、食べられない」と村人が言うため、まずは、梅酒を少し味見してもらい、実の価値を確認してもらってからナカムラは説明する。


「そのままでは食べられない実だが、集めれば、食料に換えられる。都で取引もできる。通貨に変わるんだ」


 村人たちは半信半疑のまま実を集めるが、樽に溜まっていく梅の量を目の当たりにして、少しずつ表情が変わっていった。


 さらに野菜の採集。野草の中から普段、村人が食べていないものを選び取り、簡単な調理を施す。アクを抜き、適切な調理をする重要性を見せる。シレーンが味見をすると、思わず笑顔を見せた。

「……うまい」

 その素直な感想が、民の心をほぐしていく。


 そして目玉は鉄格子罠だった。ナカムラが持ち込んだ部品を組み立て、森の中に設置する。仕組みを説明し、実際に試すと――翌朝、大型のイノシシが掛かっていた。普段使っている簡易な罠では壊されてしまい、普段なら数人で丸一日かけて追い立てる獲物が、罠ひとつで捕らえられたのである。驚愕と歓声が村に広がった。


 実演を終えたころには、広場は熱気に包まれていた。民の多くが口々に感想を述べ、すぐにでもやってみたいと見よう見まねで手を動かそうとする。スンダリが再び声を上げる。

「これが……未来につながる道です! 新しい技術による発展をこの村に!」


 今度は冷ややかな沈黙はなかった。拍手がわき、同意の声が上がる。その様子に、スンダリは堪えきれず目頭を押さえる。彼女の容姿に関係なく、その意志が人々の心を動かしたのだ。

 そんな彼女の背を、ナカムラは静かに叩いた。

「ちゃんと伝わったな」


 シレーンも隣で微笑む。

「ようやく、この村も変わり始めるな」


 こうして、部族の民とナカムラたちの協力による新たな挑戦が幕を開けた。


 夜の密林は、昼間の熱気を少し残しつつも、月明かりが木々の間からこぼれ、幻想的な光をつくり出していた。部族の村では、大きな宴が開かれていた。捕らえられた獲物、そして採集した野菜や果実をふんだんに使った料理が、焚き火を囲んで次々と並んでいく。


 香ばしい肉の匂い、川魚の塩焼き、しっかりと調理された密林の野菜、どれもが民の舌を喜ばせ、子どもから大人まで笑い声を上げながら頬張っていた。


 太鼓の音が鳴り響き、笛の音が夜空へと昇る。若者たちは火の回りで輪になり、飛び跳ね、踊り、手を取り合って歌う。普段は狩猟で引き締まった顔をしている彼らも、この時ばかりは子どものように無邪気だった。


 焚き火の明かりで照らされる笑顔を、遠目からじっと見つめる影があった。スンダリだ。彼女は、人々の輪に加わろうとはしなかった。


 その背に、ナカムラが歩み寄る。

「やはり、溶け込めないか?」


 問いかけに、スンダリはしばらく黙っていた。火の粉がぱちぱちと舞い上がり、彼女の銀髪に赤く反射する。やがて、小さな声が返ってきた。

「誰も、悪くない、でも寂しい」


 その一言には、長年抱えてきた孤独が滲んでいた。部族長でありながら、異質な容姿ゆえに距離を置かれ続けてきた日々。宴の笑顔を遠くから眺めるしかない彼女の立場を、ナカムラは想像する。


 スンダリはふいに、こちらを振り向いた。赤い瞳が月明かりを映し、不安げに揺れる。

「あなたも、私、怖い?変?」


 ナカムラは即座に首を横に振った。

「俺のいた故郷ではな、白い生き物は幸運を招く神の使いと言われて大切にされていた。だから何も気にしていない。……むしろ、綺麗だと思うぞ。その髪も、目も、肌も」


 一瞬、スンダリの表情が硬直する。だが次の瞬間、月光に照らされた横顔がほころび、微笑みとなった。その笑みは、彼女がこれまで見せてきたどんな笑顔よりも柔らかく、嬉しそうなものだった。


 そして、思いがけない言葉が飛び出した。

「私、この村、出る」


 ナカムラは思わず言葉を失った。

「……は?」


 耳を疑ったが、スンダリの表情は真剣そのものだった。

「私、いなくなる。そしたら、この村、まとまる。もう、村、滅ばない。だから、私、もう、必要ない。一人、不安、一緒に、行きたい」

 淡々と語られる決意。しかし、その奥には長い年月の孤独と葛藤が積もっていたのだと、ナカムラは気づく。


「でも、いいのか?」


 問い返すと、スンダリは真剣な眼差しで話しかけてきた。


「この村、男、居ない。女、たくさん食べ物、持ってくる男と結婚する。だから、たくさん食べ物、手に入れる、あなたに付いていく」


 あまりに率直な言葉に、ナカムラは頭を抱えた。

「おいおい……なんでそうなるんだよ」


後で聞いた話だと、この部族の村では男と結婚した女は、子どもが出来たら母子だけ村に戻ってくる掟らしい。なのに男の子がいない理由を聞くと、なぜかこの村の部族の女達からは、女児しか産まれないらしい。


 どうしたものかと困惑しながら、隣にいたコリーへ視線を向ける。

「なあ、コリー。どうすりゃいいんだ、これ」


 するとコリーはケラケラと笑いながら肩をすくめた。

「どうもこうもないですよぉ。私だって、無理矢理ついてきたようなもんですし。止められませんって。ねぇ、リンちゃん」


 不意に呼ばれた名前に、スンダリは首をかしげる。

「……リン? 私、リン?」


 コリーは少し照れたように笑い、言葉を続けた。

「スンダリさんだと、ちょっと呼び辛かったので、スンダリのリをとってリンちゃん……ダメでしゅか?」


 スンダリはしばし考えた末、こくりと頷いた。

「いい。私、リン。よろしく、正妻。リン、二番目でいい」


 唐突な発言に、今度はコリーが手をブンブンと振りながら叫んだ。

「ちがいますよ!! なんでそうなるんですか!!」


 宴の太鼓と歌声に混じり、二人のやり取りが夜空へ響いた。ナカムラは頭をかきながらも、どこか楽しげに二人を眺めていた。


 ――スンダリは、己の未来を選び取った。

 それは部族を見捨てることではなく、むしろ村を信じて託すという覚悟だった。そして自らは、外の世界へと歩み出す。


 焚き火の向こうでは、まだ歌と踊りが続いている。その片隅で、部族長スンダリという名前を脱ぎ捨て、リンという新しい名を抱いて、新たな道を歩む決意を固めていた。

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