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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第22話 料理大会

そして、料理大会当日を迎える。会場となるのは都の中央広場に設けられた特設舞台だ。普段は人々の往来で賑わう場所も、この日は装飾が施され、立派な天幕と巨大な調理台が並び立ち、観客席はすでに熱気で渦巻いていた。

 ナカムラの前評判は、アキードの尽力もあって十分すぎるほど広まっていた。


「片田舎の伝説の料理人だそうだ」

「いや、都で名前が広まってなかったのは、実は貴族のお抱えの料理長で、情報統制されていたかららしいぞ」

「いやいや、聞いたぞ。商業組合が外国の接待の時だけ料理を振るう影の料理人だとさ」


 尾ひれに背びれ、胸びれまでついた噂話は、人間から魚になった気分だ。当の本人はというと、調理台の横で黙々と包丁を研ぎ、緊張を表に出さずにいた。大会に参加するのは、貴族や商業組合が推薦した凄腕の料理人6名。この中で特に注目を集めているのは、2年連続優勝を果たしている女料理人プセマだ。長い金髪を結い上げ、艶やかな料理人服に包み、舞台に立つだけで観客を惹きつける。美貌はもちろん、料理の腕は確かで、誰もが「今年も彼女の優勝は堅い」と口を揃える。


「それでは、抽選を始めます!」


 審判役の声と共に、参加者たちは番号札が入った木箱の前に立った。箱の中には、食材が割り振られた数字が入っている。公平を期するための制度――表向きはそうだが、裏があるらしい。


 1番目の王太子推薦の料理人ポリカラが札を引く。「剣角鹿!」会場が歓声に包まれる。


 2番目は大臣推薦の料理人セリブロソン「虹色鳥!」再び拍手。


 3番目、貴族推薦プセマの番だ。箱から引き当てた札を掲げ、「大河魚!」と読み上げられると、観客はさらに沸いた。美貌に加え、華やかな食材。絵になる勝負だ。


 4番目、商業組合推薦の料理人!そしてナカムラの番が巡ってきた。

 札を引き、番号を見た瞬間、ほんのわずかに口元が動いた。


「……食材は――“毒棘獣”!」


 審判役の声が響くと、会場は一瞬静まり返り、すぐにざわめきが広がった。


「なんだって!?」「毒棘獣だと!?」「魔獣じゃないか!」


 本来なら棄権して当然の食材。身体から無数に生えた刺から強力な毒を滲ませ、襲い掛かってくる。全身が毒とされている魔獣。過去にこの札を引いた料理人は皆、手をつける前に辞退していた。

 しかしナカムラは迷わず前へと歩き、調理台の下に運び込まれた毒棘獣を見下ろした。全長2メートル弱。黒緑色の刺に包まれた体は、生きていなくとも禍々しい気配を放っている。


 観客が息を呑む中、ナカムラは調理道具を手に取った。


「始めます!」


 短い言葉と共に、堂々と捌きに取りかかる。その背中に、会場中の視線が集まった。


 プセマの眉がわずかに動く。――調子が狂う。

 これまでの大会では、有力候補が毒食材を引けばそのまま棄権し、自分が安全な食材を調理して優勝するのが“筋書き”だった。だが目の前の男は、平然と包丁を入れている。


「……なぜ」小さく呟き、視線を観客席に送る。そこにいたのは推薦人の貴族、その表情もまた、僅かに歪んでいるのを、彼女は見逃さなかった。


一方のナカムラは、目を凝らしながら捌いていた。

魔獣とよばれる生き物もドクウナギの時と同じように、毒の部分は黒緑色に淡く光っている。それを一つ一つ見極め、手際よく取り除いていく。観客にはただ包丁さばきが見えるだけだが、その集中力は尋常ではない。食べるとこは少ない。だが無いわけではない。


「何をしている……」「本当に食えるのか……?」


 ざわめきが大きくなっていく。

 やがて完成したのは、毒棘獣のハンバーグである。ゆっくりじっくりと火を通して、特製ソースで煮込むように仕上げる。ジューシーな肉の匂いが会場に広がると、観客は思わず唾を飲み込んだ。

 審査の時が来た。まずは前回優勝者のプセマの大河魚の料理。鮮やかな盛り付け、洗練された味わいに審査員たちは頷く。観客からも大きな拍手が湧いた。

 そして、ナカムラの番。

 審査員の一人がハンバーグを口に運ぶ。次の瞬間――その目が大きく見開かれた。


「……旨い!」


 他の審査員も次々に試食する。


「まさか毒棘獣がこんな……!」「いや、これは新発見だ!」


 観客も総立ちになり、歓声が渦を巻いた。

 

 結果としては、ポリカラの剣角鹿の料理が優勝となった。プセマの料理が決して悪かったわけではないが、集中力を欠いたせいかインパクトのある料理ではなく、その次の毒刺獣の料理によって話題性をとられてしまい、その次に出されたポリカラの料理が同じ肉料理だったため、毒刺獣とどっちが旨いのかという審査員の判断の結果であった。


 その代わりナカムラは、毒のある魔獣の肉を調理することが出来た事への特別な賞として、王家特別賞を受賞した。


 2人が表彰台に上がり、表彰される中、アキードは満足げな顔で拍手をしていた。


 大会が終わってすぐ、「話が違う」と詰め寄るプセマと貴族の言い合いの現場を押さえられ、不正に関与していたスタッフも捕まることになった。プセマは、自身の色香で貴族をたぶらかし、その手練手管にすっかりほだされてしまい、今回の不正につながったという。なかなか現場を押さえられずにいたが、予想外の自体に慌てた結果だという。


「最初からこのつもりだったんだろ、アキードさん」

「いやぁ、すみません……。」


 アキードは、王太子から依頼を受け、不正の疑いのあるプセマが取り乱すように、毒魔獣を調理できる人間を推薦して、アキードと王太子は、お互いが有力候補にしていたポリカラが優勝すれば、問題なかったという事だ。


「まぁ、特別賞ってのはもらったから、よしとしよう」

「黙ってたのはすみません、それと依頼達成報酬も受け取ってください」


 かなりの額の入っているであろう袋をもらう。


「それと王太子殿下からも、言伝を預かってます。『何かあったら言ってくれ、出来る限り尽力する』と、同じ言葉を商業ギルドからも伝えさせてください。」


「まぁ、それが聞けたなら、今回は大成功って事でいいな」


商業組合の応接室から出ると、コリーが待っていた。

「受賞おめでとうございまーす!」

「ありがとう」

「冒険者ギルドで、皆さん待ってますよ。特別賞受賞者のお祝いに何かつくってくれ、だそうですー。」

「え?逆じゃないのか……」


都でも、自分の力が役立つのは有難いことだ、これからも頑張っていこう。

そう心に誓うナカムラであった。

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