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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第20話 湿地の脅威

 朝の薄霧が湿地を覆う中、何匹かのドクウナギを釣り上げ、釣果としては十分になってきたところで、四人は湖畔で罠籠の回収作業を行っていた。ぬかるんだ泥と腰ほどの高さの草が足元を隠し、慎重に一歩ずつ進むしかない。罠籠の一つを引き上げると、中には数匹のドクウナギが捕まっており、順調な作業に胸をなで下ろす。1つ1つ回収し、今回も十分な量が確保できるだろうと期待していた。しかし、大きな湖沿いに設置していた罠籠が壊れているのを見つけ、眉をひそめた。


「壊されたのか……どちらかというと大きなものに潰されたような?」


 もしかしたら、別の冒険者が回収しようとしたかもしれない。そんな疑念もあった。周囲を見渡すと何もいないし、そもそも今回はドクウナギ用の籠のため、そんなものを持って帰っても捌くのも一苦労だろう。自分のような物好きは多くないと考えてる矢先


「気を付けて、そこの水面!」


イザベラが大きな声で注意を促す。


 水面のうねりが強くなり、中から巨大な影が飛び出してくる。こないだのワニとは大きさが比較にならない。推定5メートル近い巨体、全身が硬い鱗に覆われたオオトカゲ。


「「ダイオウトカゲ!?」」

 

 生態報告書では、湿地帯では特に注意の必要な危険生物としてあげられていた。雑食性のため、湿地帯の生物ほとんどを捕食対象にしているらしい。水しぶきとともに地面を踏み鳴らし、周囲の草を押し倒しながらこちらに向かって走ってくる。


「ようやく護衛の時間だな!」


 ハンマーを振りかぶり、ゴルドはダイオウトカゲに一撃を入れる。しかし硬い鱗と分厚い皮下脂肪、巨体によって衝撃が伝わりきらず、返しの尾撃によって、ゴルドはよろめく。


「うおっ、マジかよ」


「援護する!」


 イザベラが矢を矢継ぎ早に放つ。イザベラの弓は威力重視というよりも取り回し重視の短弓である。それ故にそこまで威力は高くない。厚い鱗に阻まれ、矢先が入る程度である。これでは致命傷には至らない。ワニの時のように、網をかける方法も、あまりの巨体故に掛かり切らない可能性が高い。


 湿地の脅威を知らしめるには十分な戦況に、緊張感が走る。


 4人で固まることが逆に危険になるため、互いに距離を保ちながら、警戒する。ぬかるんだ足元もまた、ダイオウトカゲに有利な状況をつくっていた。


 ダイオウトカゲは暴れながら、尾で地面を叩き、湖水を巻き上げる。泥や水が跳ね上がり、視界を遮る。ゴルドのハンマーが当たる瞬間も、ダイオウトカゲは衝撃に耐えきり、イザベラの矢も浅く刺さるだけなので、暴れるのを止めることが出来ない。


 ダイオウトカゲは自身の重量に任せて突進してくる。ゴルドはハンマーを受けるが、そのままハンマーが飛ばされ、地面に叩きつけられたゴルドは、泥だらけになりながらも立ち上がる。予備で持っている短刀を構えながら


「こいつ、硬すぎるぞ!どうすんだ」


 ゴルドが声を震わせる。イザベラも矢を再装填しながら


「鱗が分厚すぎて、普通の武器じゃ……!」


と息を切らす。


コリーは手元の短剣を握りしめ、湿地の草むらに潜む障害物や地形を意識する。


「どうすれば……」


と小声で呟く。


「俺達の武器だけじゃ、このままじゃ無理だな……」


 ナカムラはつぶやく。四人は互いに位置を変えながら、攻撃のチャンスをうかがうが、ダイオウトカゲは常に動き回り、無尽蔵の体力と素早さで優位を保つ。

 戦場の湿地は、泥と水が跳ね、木の枝が折れる音、ダイオウトカゲの唸り声で満たされている。四人は息を整え、互いに短い視線を交わす。今の状況で勝利するには、武器だけではなく、何か“別の方法”を見つけるしかない。

 周囲を見渡すと、そこまで大きな木があるわけではないため、何かで潰すのは不可能。罠にかけるにしても、時間が足りない。誰かが再起不能になってからでは遅い。トカゲなら寒さに弱いが、今の状況では利用できない。どうする?ネギとかは中毒にさせるんだったか……。


「あ、だったら?」


 湿地なら居てもおかしくない。そう思い、いつも毒魚を凝視する時のように周囲の見渡す。

出来る限り黒緑色の光の強いもの……。ナカムラの目にうつったのは、今までにないほど黒緑色の光を纏うカエルだった。急いで、はじかれたイザベラの矢を拾い、カエルの方に向かう。


「あと少しだけ、時間を稼いでくれ!倒す方法を見つけた!!」


 ナカムラの声に3人は、無言で頷く。そのまま、矢をカエルに突き刺し、イザベラに声をかける。


「イザベラ!この状態のまま、あのトカゲに射ってくれ。絶対に矢先には触るな!!」


 イザベラは矢をつがえ、出来る限り有効射程に近づく。ゴルドは大分疲弊しているが、それでも注意を反らすために、自分の短剣をダイオウトカゲに投げつけた。イザベラの矢はダイオウトカゲの身体に刺さり、しばらくしてカエルの毒の力が働き始めたのか、トカゲは急に苦しみだした。


「そのまま距離をとって!コリー、ゴルドの回復頼む!」


「はいっ!」


 4人は距離をとり、苦しみのたうつダイオウトカゲに巻き込まれないように観察する。そして、だんだんと動かなくなり、最後は地面に倒れこみ動かなくなった。


 ダイオウトカゲの体を慎重に観察する。すると、全身がぼんやりと黒緑色に見えるようになっていた。どうやら毒が回ったようだ。今までの経験から、このスキルは毒を識別するためのものだと思っていたが、今回のように応用できることに気づいた。


「これもスキルの応用か、こういう使い方も出来るんだな」


 小さく呟き、コリーに目で伝える。ゴルドとイザベラも驚きと感心の入り混じった表情を見せる。


「いやぁ、面目ねぇ!しかし、あの毒の使い方は見事だった」

「よくあの状況で、あんなカエル見つけられたね」

「まぁとりあえず帰ろうか」


 この経験を通じて、ナカムラの毒視認化スキルの価値を再認識すると同時に、この世界は一歩間違えれば死ぬ、それを湿地が教えたかのような出来事であった。


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