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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第19話 ギルドの名物依頼

 最近、都の冒険者ギルドでは一風変わった依頼が話題をさらっていた。

「週に一度、名物料理を提供するための食材調達」――それ自体は珍しくもない。街の飲食店が冒険者に食材の採集や護衛を頼むのはごく普通のことだからだ。


 だが、この依頼は中身が一味違っていた。

 依頼内容は「ドクウナギの捕獲」。ただし、捕獲そのものは依頼主が行うため、冒険者に求められるのは周囲の護衛と一夜の見張りが主である。


 さらに驚くべきは、同行者が治癒スキルの持ち主であることだった。都でさえ治癒師に依頼すれば高額になるのが常識。普段は薬草で代用するしかない貴重な技術を持つ人物が同行するというのだ。


 そして極めつけは「美味しい賄い付き」という一文。

 治癒スキルの恩恵に加え、ギルドで噂になっている名物料理――“毒抜きドクウナギのかば焼き”を提供しているナカムラの賄いを味わえる。


「治癒スキルとただで旨い飯が付いてくる? これってほとんどボーナス依頼じゃねえか」

「賄いだけで受ける価値あるわ。あのかば焼き、一度食ったら忘れられん」


 そんな声が広まり、依頼の人気が上がっているのだ。その日も、ギルドの正面ホールは異様な熱気に包まれていた。朝早くから冒険者たちが集まり、依頼内容が張り出されるのを待っている。


「あ、ナカムラさん!」


カイルが手を振ると、人混みの隙間からナカムラとコリーが姿を現した。


「やっぱり、今日も賑わってるな」


ナカムラが苦笑交じりに呟く。ミナが肩をすくめて答えた。


「当たり前よ。だって、この依頼は“外れがない”んだもん。護衛と見張りだけで、飯も治癒も付いてくるんでしょ? そりゃ皆やろうとするわよ」


近くにいた冒険者たちも会話に混ざってきた。


「なあ、あんたら前に行ったんだろ? どんな感じだったんだ?」

「ドクウナギって本当に食えるのか?」

「毒ってどう処理してんだ?」


 新人冒険者のカイルとミナすら、以前に同行しただけで、他の冒険者から様子を聞かれる始末だった。おかげで2人は、そんなに苦労することなく、他の依頼にも参加できるようになってナカムラとコリーに感謝していた。冒険者同士、知らない顔同士でも気さくに会話が弾んでいく。

 やがて、職員が現れ、依頼票を掲示板に貼り付ける。


「お待たせしました。本日の特別依頼、ドクウナギ捕獲の護衛依頼です!」


 瞬間、人々が殺到した。ギルド職員が声を上げる。


「抽選を行います。希望者は名乗り出てください。」


 あまりの殺到ぶりに、抽選という形をとるようになっていた。


 最初に手を挙げたのは筋骨隆々の大男だった。

「俺はゴルド。ハンマー使いだ。硬い鱗の魔獣が相手でも叩き潰せるぜ」


 次に、小柄な弓使いの女性が名乗りを上げる。

「イザベラ。遠距離支援と偵察が得意。湿地は視界が悪いから、役立てると思う」


 さらにもう一人、若者が前に出る。

「僕はデュアル。双剣使いだ。速さには自信がある」


 こうして、応募者の中から、決めることになるのだが、コリーが同席する以上、女性の冒険者は必ず一人は入れておきたいと決めていた。そのためにも抽選にしたのだ。理由があり、コリーは非常に人見知りなため、男性のみで編成された時は、ほぼ一言も喋らないのだ。それを防ぐためには、このような形式で対応するようにしている。ギルド側に相談した時も微笑みながらこう言われた。


「あまりに殺到する場合や高額の際は、面接にすることもありますので、問題ありません」


 今回は、硬いウロコの生き物でも対応できそうなハンマー使いのゴルドと、見張り役として適任の弓使いのイザベラの同行をお願いした。


 到着した湿地は、相変わらず昼でもどんよりとしており、地面はぬかるんでいた。

冒険者たちは手分けして周囲を警戒し、ナカムラは慣れた手つきで罠籠を設置する。


「こうやって川の流れを読んで仕掛けるんだ」

「ほー、なるほどな」

「枝葉で違和感を無くすようにすると、警戒されづらい」


 手慣れた作業を繰り返していく。そんな中、イザベラが弓を肩に掛け、周囲の偵察から帰ってきた。


「いいところにいたから野鳥を仕留めたんだけど。これ賄いにしてもらえる?」

「おお、それは楽しみだな!」


 ゴルドが目を輝かせ、ナカムラも興味津々で見つめる。


「あ、でもちょっと焦ったかな……枝に頬を擦っちゃった」


 イザベラの頬には、薄く血がにじんでいた。コリーが駆け寄り、頬に手をあてる。


「大丈夫ですか?今、治しますね」


コリーは手に集中力を込め、柔らかく温かい光が頬に触れると、傷がじんわりと塞がっていく。


「えっ、あ、ありがと。このくらいいいのに」


イザベラは目を丸くして驚いた。コリーはくすっと笑いながら手を振る。


「女の人の顔だから、イザベラさん綺麗だし」


 ナカムラは横で苦笑交じりに目を細め、


「コリーは面倒見がいいな。まあ、俺たちも助かるが」


 ゴルドも感心した様子で頷く。


「確かに。怪我の手当てが出来るのは大きい。戦闘中でも頼れるな」

「そ、そんなに大げさですよぉ」コリーは少し赤面しつつも、内心嬉しそうだった。

「さて、じゃあ賄いといくか」


 ナカムラが包丁を取り出す。包丁が動くたびに胸肉、もも肉、手羽、ひとつひとつの部位に分かれていく。その光景はただの下処理ではなく、「命が食材へと変わる瞬間」そのものだ。 切り分けた肉を水で清め、いくつかの香辛料と穀物の粉をまぶすと、香りが染み込み、肉の表情が少しずつ変わっていくのがわかる。手で揉み込むたびに、じわりと旨みが広がっていくようで、期待感が高まる。

 野営で使う事など滅多にない、贅沢な量の油を鉄製の鍋に注ぎ込み、熱していく。じゅわぁっと力強い音とともに気泡が立ち、油の中で唐揚げが踊り始める。衣は次第に黄金色に変わり、香ばしい匂いが辺りを包み込み、誰もが待ちきれない顔になる。

 夕暮れ前、湿地の澄んだ空気の中で火の回りに集まった四人は、唐揚げを頬張りながら談笑を続けた。香ばしい匂いと、食欲をそそる音。初めての湿地での罠設置と狩猟を無事に終えた充実感に、自然と笑顔が溢れる。


「うまいな!衣のパリッと感と、鳥の旨味が絶妙だ」


ゴルドが絶賛する。


「うん、これは美味しい! こんなに贅沢に油を使う料理が野営で食べられるなんて凄いわね」


イザベラも頷く。

コリーはふと周囲を見渡した。


「こうして皆で協力して作業して、最後にこうやって食べると楽しいですねぇ」

「そうだな、仲間と一緒だと食事もより美味く感じる」


ナカムラも頷く。

夕暮れの湿地に焚き火の明かりが揺れる中、四人の笑い声が静かに広がっていった。


(帰ったら、ドクウナギのかば焼きで忙しくなるな)

ナカムラは、一人そう呟いた。


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