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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第15話 はじめての依頼とパーティー

 翌朝。冒険者ギルドの広いホールには朝の光が差し込み、すでに多くの冒険者たちで賑わっていた。依頼掲示板の前には人だかりができ、張り出された羊皮紙を睨むように見つめる者、声をかけ合いながら仲間を募る者、それぞれが新たな仕事を探している。

ナカムラとコリーも、人の波をかき分けながら掲示板の前に立った。


「うわ、いっぱいありますねー」


 コリーは思わず声を漏らした。害獣駆除、護衛、素材採取、採集依頼――内容は多岐にわたり、危険度も報酬もまちまちだ。


 ナカムラは腕を組んで掲示を見上げた。


「密林や山脈は、討伐や護衛系が多いな。猛獣はさすがに無理だろうなぁ」

「そうですねぇ……湿地の方は……あ、これ!」


 コリーが指差した紙には、こう書かれていた。


――湿地帯に生息するオニガラエビの捕獲依頼。

  捕獲数に応じて追加報酬あり、爪が無事の状態なものが望ましい。


少し高めの料理屋で出される食材のオニガラエビは、硬い殻の中には、茹で上げることで真珠のように輝く白身が現れる。ぷりっと弾ける食感が特徴で濃厚で甘みのある旨みがある人気の食材だ。


「エビっ!これなら私達でもできそうじゃないですか?」

「そうだな、だが初めての場所だ、2人きりで行くのもなぁ……」


 ナカムラは紙を手に取り、そのまま受付へ向かった。受付嬢は落ち着いた雰囲気の女性で、彼らの相談に耳を傾ける。


「なるほど、はじめての場所なので、心配なされているのですね。」

「ええ。オニガラエビの捕獲中に、想定外の生物が現れたら対処できないかもしれない」

「そういう場合は、『同行依頼』を出されるとよいですよ」


 受付嬢は微笑んで説明を続けた。


「受注後、同行者募集として掲示板に載せれば、同じ依頼を希望する冒険者とパーティを組めます。互いに協力して報酬を分け合う仕組みです」


 ちょうどその時。後ろから遠慮がちに声がした。


「あの、よければ、僕たちが一緒に行っていいですか?」


 振り返ると、まだあどけなさの残る少年少女が立っていた。二人とも十代半ばほどで、旅装も新品同然。少年は短剣と丸盾を提げ、少女は背中に短槍を背負っている。


ナカムラは片眉を上げた。

「……この依頼、正直そんなに実入りは期待出来ないと思うが、なぜ俺たちに?」


 少年は気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「僕たちも、昨日登録したばかりで……何から始めればいいか分からなくて悩んでたんです。2人きりだと心配って思ってました。」


 少女も笑顔を浮かべて続けた。

「なので、せっかくだから、一緒に行けたらって思って!」


 ナカムラは腕を組み、しばし考え込んだ。二人の装備は護衛役として最低限の形は整っている。経験不足は否めないが、それはお互い様だ。何より、人数が増えることで安全度は増す。


「では、一緒に行こう。ただし、護衛役としてお願いしたい。俺とコリーは採集担当でどうだろう?」


「はい!」


 二人は声を揃えて頷いた。


 こうして即席の四人パーティが結成された。少年の名はカイル、少女はミナ。二人とも都の南方にある農村出身で、村には仕事がなく、出稼ぎのために冒険者となったのだという。ギルド内のテーブルを1つ借り、作戦会議をする。


「依頼は捕獲数に応じて追加報酬が出る形式だ。なるべく多く捕まえたい。提案は、釣りと罠の両立だ」


「罠って、どんなのですか?」


とミナが首をかしげる。


「網籠を加工して、エビが入ったら出られない仕組みにする。死肉に寄ってくる習性があるらしいから、餌を仕掛けておけば効率よく捕れるはずだ」

「じゃあ、ナカムラさんとコリーさんが捕獲を進めて、僕とミナが護衛につけばいいんですね」

「その通りだ、カイル」

「では、明日の朝に東門前で会おう。見通しのいい時間帯に安全な場所も見つけたい。」


 図書館で調べた報告によれば、オニガラエビは朝の薄暗い時間帯に活発になり、硬い殻で外敵を防ぐ。死肉を好むため、倒れた小動物や魚の死骸に群がることも多いという。

夜のうちに罠を仕掛け、翌朝の活動時間に回収する。それが最も効率的な方法だった。

 その日の帰り、ナカムラは市場に寄って網籠をいくつか購入した。ひとつは捕まえたエビを入れる運搬用、残りは罠籠に加工する。慣れた手つきで紐を結び、入口に返しをつけると、エビが入ったら自力では抜け出せない仕掛けが出来上がった。


「よし、これで準備は整ったな」


 翌朝。東門前に集まった四人は、軽い挨拶を交わす。


「おはようございます、ナカムラさん!」


カイルが元気よく手を振り、ミナも槍を抱えながら笑った。


「今日はよろしくお願いします!」

「こちらこそ。気を引き締めて行こう」


コリーは緊張したように髪を撫でながら、にこっと笑顔を見せる。


「初めてのパーティー。頑張ろう!」


 そうして四人は湿地へと歩みを進めた。都を出て東へ、道はやがてぬかるんだ大地へと変わり、霧が漂い始める。水音と虫の声が入り混じる、不気味で豊かな湿地帯。


 異世界での初めての冒険が、いま幕を開けようとしていた――。


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