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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第13話 都で学ぶ異世界の地理

 ナカムラが都に到着したのは、薄曇りの朝だった。

 肩に背負った荷物を揺らしながら、彼は人々の行き交う街道を歩く。隣には、少し緊張しつつも好奇心に目を輝かせるコリーが並んでいた。ピンクがかった茶髪を風になびかせ、日焼けした褐色の肌と切れ長の目は、どこか鋭さを漂わせつつも、少し不安そうに周囲を観察していた。


 2人はまず都での生活の拠点を確保することにした。宿屋に入り、簡素な個室を借りると、荷を下ろして窓から外を眺めた。人々が忙しなく行き交い、冒険者と見られる剣や弓を背負った者たちもちらほら見える。宿で落ち着いた後、ナカムラはまず図書館での調査を提案した。


「この世界にはどんな生物がいて、どんな危険があるか、把握しておく必要がある、そのために図書館に行こうと思うんだが、どうする?別行動でもいいが……。」


 コリーは興味津々で


「行きたいですー」


 と返し、二人は都の中心にある図書館へ向かった。


 都の中心部にある「王立図書館」は、天井まで届く書架が幾重にも積まれ、生物調査報告書や地図、学術書などが所狭しと並んでいる。司書に生物調査報告書のコーナーに案内してもらったナカムラは、早速目を通し始めた。コリーはコリーで読みたい本があるようで、ここからは別行動となった。


 目の前に広がったのは、異世界の地図と詳細な生物調査報告書の数々。都を中心に各地域の危険度、魔物の生息域、希少な植物や食材の情報が図示されていた。ナカムラは目を輝かせながら、一つずつ確認していく。


湿地

 都の東に広がる湿地帯は、大きな川が流れており、地面はぬかるんでいる場所も多い。奇怪な水草や巨大な藻が生い茂り、爬虫類や魚が生息しているという。中には毒のある生物もいるため、注意が必要だそうだ。しかし湿地特有の薬草や珍しい食材が多く存在するともあり、それを目当てで訪れる者も多いらしい。


密林

 都の西に広がる濃密な森は、昼間でも薄暗く、木々の間から差し込む光がわずかに地面を照らす程度。樹上には飛行する鳥類、地上には草食獣だけでなく、肉食獣との遭遇歴も記載されている。森の奥には希少な薬草や特殊食材が生えるため、報告書では冒険者の依頼対象として頻繁に登場する。この地域ではもっとも生息する動植物が多いため、まだ見ぬ生き物と遭遇する可能性が最も高い。


山脈

 北には険しい山脈が連なり、積雪や急斜面で危険度が高い地域とされる。山中の洞窟には希少鉱石や動物の巣があるが、天候も変わりやすく、危険生物も多いため、帰ってこない者もいると書かれている。


大遺跡

 最も危険で魅力的なのは、都の外れに存在する大遺跡と呼ばれる古代建造物群。迷路のような構造に魔獣が生息しており、冒険者の命を奪うこともある。しかし貴重な素材やまだ見ぬ発見を求めて、冒険者は挑戦し続けているそうだ。異世界らしさもあり、心が自然と高ぶるのを感じた。


 報告書を片手に、ナカムラは各地域の危険度や食材の情報を頭に叩き込む。

 魚だけでなく、毒を持つ他の生き物にも応用できるかもしれない「毒捌きスキル」の可能性を感じ、胸が高鳴った。


 しばらく読書に耽った後は、コリーを探して合流し、図書館と後にした。図書館を出る頃には、空はすでに茜色から群青へと移り変わっていた。頭の中で新たに得た知識を整理しながら歩いていると違和感に覚える。隣を歩くコリーが両腕をだらんと下げ、足取りも重たそうだ。


「ナカムラさーん」

「ん?」

「お腹が空きましたー」


 コリーは髪をいじりながら、子供のように語尾を伸ばした。ナカムラは苦笑しつつ空を仰ぐ。確かに、もう昼どころか夕餉の時間を過ぎている。


「そうか、すまない、つい夢中になってしまったな」


 コリーは自分のお腹を軽く叩き、恨めしそうにナカムラを見上げた。その顔に、ナカムラは小さくため息をつく。


「仕方ないな。宿に戻る前に、食べていこうか」

「やった!」


 コリーは一瞬で元気を取り戻し、両手を胸の前でぱちんと合わせた。その姿は、無邪気で、ナカムラは思わず口元を緩める。


「で、何が食べたい?」

「んー甘いの!」

「……夕飯だぞ?」

「だって、あそこに屋台出てたんですよ! ほら、果実を焼いたやつとか、はちみつをかけたパンとか!」


 ナカムラは額に手を当てた。空腹に負けている少女の目は、すっかり屋台の方向に釘付けになっている。


「……まぁ、今日くらいはいいか」

「ほんとですか、ありがとうございますー」


 コリーは嬉しさのあまり、ナカムラの腕を掴んで軽く揺さぶった。その子供っぽい仕草に、ナカムラはまた苦笑しながらも、心のどこかで温かさを覚えるのだった。


 街の広場には屋台の明かりが次々と灯されていた。鉄鍋で焼かれる肉の香ばしい匂い、香辛料を効かせたスープの湯気、甘い果実を煮詰めたソースの香り――昼間とは違う顔を見せる都の通りは、人々で賑わい始めていた。


 ふわふわに焼き上げられた丸パンに、黄金色のはちみつをとろりとかけて売る屋台だった。パンの表面から立ち上る湯気と甘い香りに、思わず足が止まる。


「ぴぁ……甘い匂い……!」


 テンションが上がって、変な声が出ているコリー、目をキラキラさせながら手を小刻みに振る。屋台の店主がにやりと笑いながら声をかけてくる。


「お嬢さん、うちのはちみつパンは都で一番だよ。果実と一緒に食べれば、疲れなんざ吹き飛ぶさ」


 ナカムラは迷わず二つ注文した。木皿に盛られたのは、ふわふわの白パンにとろりとはちみつが滴り落ち、その脇にはカットされた鮮やかな果物――赤いベリー、黄色の柑橘、透き通るような緑のブドウ。


 コリーは待ちきれないように一口かじりついた。


「んん~っあまいっ!」


 はちみつの濃厚な甘さと、果実の爽やかな酸味が口の中で溶け合い、彼女は目を見開いて固まったかと思うと、次の瞬間


「おいしいです~」


 満面の笑顔である。その様子にナカムラもつられて笑い、自分もパンを口にした。

舌に広がるのは、確かに村では味わったことのない甘美な世界。

 魚の旨味を活かす料理に慣れた舌にとって、この濃厚な甘さは衝撃ですらあった。


「なるほど、都で一番というだけあるなぁ、甘みと酸味で腹も心も満たされるってわけか」


 一方コリーはすでに皿の果物をつまみ、頬を膨らませて夢中で食べていた。


 毒魚食堂に甘味を加えれば、村の食卓はもっと豊かになるかもしれない――そんな未来を想像する自分に気づき、少し笑みを浮かべる。

 夜風に吹かれながら、二人はしばらく甘いひとときを楽しんだ。都の雑踏の中で味わうこのひと皿は、ただの食事ではなく、村では知り得なかった新しい世界の味そのものだった。


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