第10話 コリーとリリー、それぞれの成長
村での教育が続く中、毒魚食堂の営業も安定している。ナカムラは朝早くから魚の仕入れや下処理を行い、コリーとリリーもそれぞれ手伝う日々。
ある日のこと。ナカムラが店の奥で干物の準備をしていると、リリーが厨房で黙々と作業していた。小柄ながらも、手際よく丸く膨らむ毒魚を扱っている。
「リリー、随分手慣れてきたな」
ナカムラが声をかけると、リリーはにっこり笑いながら答えた。
「はい! 今日も毒魚を安全に捌いて、美味しく出せるように頑張ってます!」
包丁を持つ手は迷いがなく、丸く膨らむ毒魚の可食部と、毒のある部位を的確に仕分けていく。
思わず息を飲んだ。
(これは……もし店を任せるとしたら、リリーが適任かもしれないな)
リリーの手元は、教えた手順に忠実でありながら、自分なりの工夫も少しずつ取り入れていた。小さな包丁の動きに、確かな成長が感じられる。
「ナカムラさん、見てください! ここをこう切ると、身がきれいに取れるんです」
リリーは嬉しそうに見せてくれる。ナカムラは頷きながらも、心の中で考える。
(リリーなら、この店を任せても問題ないかもしれない)
一方、コリーはカウンター越しにリリーの作業をじっと見つめていた。手際よく魚を仕分け、包丁を使いこなすリリーの姿に、複雑な思いが胸に広がる。
(リリーはこんなに上手に魚を捌けるのに、私は何が出来るんだろう)
コリーは自分の手元を見つめ、まかないの盛り付けや簡単な下処理はできるものの、毒魚の調理やフグの扱いはまだナカムラの助けが必要だ。ふと、小さな胸に焦燥感が芽生える。
(このままじゃ、店のことも、村のことも、私は……)
ナカムラはそんなコリーの視線に気づき、声をかけた。
「コリー、何を考えてる?」
「え……あ、いえ、その……」
コリーはうつむきがちに答えたが、目はリリーを追っていた。
「無理に答えなくていい。ただ、焦らなくても大丈夫だ。お前にはお前の役割がある」
ナカムラの声には優しさが込められていた。その後もリリーは黙々と作業を続け、丸く膨らむ毒魚の可食部と毒のある部位を分け、刺身や唐揚げ用に下処理を進める。ナカムラは背後からそれを見守り、時折アドバイスを送る。
「そこはこうやると、さらに綺麗に切れる」
リリーは素直に従い、手際よく調理を続ける。コリーはその様子を見ながら、自分の立ち位置を考えていた。魚の捌きだけが役割ではない。食堂の運営、接客、盛り付け、干物作り……自分にもできることは必ずある。
(私にしかできないことを、見つけなきゃ……)
ナカムラはそんなコリーの表情も見逃さなかった。焦る必要はない、少しずつ自信をつけていけばいい。そんな中、村人の大きな悲鳴が響き渡る。
「ぎゃあっ! 狼だ!」
大型の狼が突如現れ、村人たちを威嚇していた。
ナカムラとカマヒは咄嗟に武器を手に取り、村人を避難させながら狼に立ち向かう。
「リリー、コリー、ここに隠れて!」
二人の少女は慌てながらも安全な場所に避難した。
狼は牙をむき、荒々しく唸る。だがナカムラは何か違和感を覚えた。
(なんだ? この狼、襲ってくるというより、何かを訴えているような……)
そのとき、コリーが狼をじっと見つめ、ふと口を開いた。
「怖がらないで……怒っているんじゃないよね。何か困っているの?」
すると狼は、まるで理解したかのように低く唸り、後ろを振り返りながら森の奥へ歩き出す。
ナカムラとカマヒは少し戸惑いながらも、狼に従って森へ向かう。
森の一画に到着すると、狼は立ち止まり、唸りながら子どもを示した。
子狼は罠にかかり、足に傷を負っている。
「これは……」
ナカムラが息を飲む。
子狼は怯えてうずくまり、弱々しく息をしていた。
コリーは罠を外して、狼の子の足をそっと撫でる。足からは血がしたたり、歩くのは難しそうだった。
「痛かったよね……」
コリーが狼の子を撫でると、狼の子は声にならない声をあげて、苦しんでいる。その時、コリーの手元から淡い光が放たれ、傷口の血が止まった。傷が治ったわけではなさそうだが、出血さえ止まれば、このまま死ぬのを待つだけという事ではなくなる。少し楽になったように見えた狼の子は、弱弱しく立ち上がる。
「ナカムラさん、私、今なでただけなのに……。」
「ああ、おそらくスキルと呼ばれるものだろう」
ナカムラは驚きつつも、コリーを見つめた。
(なるほど……コリーには、弱いながら治癒魔法が使える力があるのか)
母狼は子どもの状態を確認し、少し安心した様子でわが子を咥え、森の中へと去っていった。
村へ戻る道すがら、コリーは静かに考えた。
(弱くても、傷を癒す力があれば役に立てる……魚を捌くことだけが私の役割じゃないんだ)
ナカムラはそんなコリーの様子を見て、微笑んだ。
「お前の力も、村や動物を守るために使えるな。焦らなくても、自分にできることを大切にすればいい」
コリーは少し安心したようにうなずき、森と村の景色を見渡した。




