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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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59. 見守る人たち

「こんちわーす」

 ケンタが元気よく入ってきた。

「これ平等様のとこから」

 ドサリと閻魔帳を置く。

「おう、ご苦労、ケンタ。午後、ちょっと頼みたいことがあるが、いいか?」

と、相田が聞くと、

「あ、午後は俺、奪衣婆さんとこに呼ばれてるっす」

「なんだ、急ぎか?」

「閻魔様のせいっすよ」

 ケンタが、迷惑そうに顔をしかめた。


「また何か壊したのか?」

 最近、閻魔様の評価が変わってきた。謹厳実直、質実剛健、全てを睥睨する冥界の王、などという畏れ多い存在から、遊びを覚えて時々たがが外れるいい年をした大人、という一面を見せるようになった。特に、三途の川の船遊びでは顕著である。


「あの人、一人遊びでは物足りなくなって、分身二人でボートの競争したんすよ。でも、元は同じ閻魔様じゃないですか。パワーも技術も、ちょっとしたコツも、相手を出し抜こうとする考えも、みんな同じなんすよ。

 で、どうなるかというと、同時に対岸に着いた後、勢い余って岸に乗り上げて、ボート二艘、大破させましたとさ。俺、それの修理の手伝いに呼ばれてるんすよ」


「あー、それは閻魔様がいかんよな、どう考えても。菅原さんから言っておいてくれないか」

 相沢が、梅子に振った。

「えー、じゃあ、今日はノニジュースと、センブリ茶濃いめのダブルで、と司命さんに伝えておきます」

「そんなんじゃ、絶対懲りないっすよ」

「仕方ないですよ、これまで仕事仕事で、ほかに何もできなかったんですから。あと百年もすれば落ち着くでしょう」

「気が長過ぎる」

「ここは、そういうところだから」

「しょうがないなあ。じゃあ、行ってくるっす」

 そう言って、ケンタは出ていった。


「ケンタって、よく奪衣婆さんのところに行きますよね。そんなにあそこに行く仕事があるんですか」

 梅子が、誰にともなく聞くと、

「ああ、あいつは、おばあちゃん子だから」

と、宇多田が答えた。

「細かい事情は知らないけど、小さい時から、ばあちゃんに育てられたって言ってたな。ばあちゃん見ると寄っていってしまうらしい」

「冥界には、ばあさん少ないもんな。唯一の癒しなんだろう」

 どうやら、みんなの共通認識らしい。


「その割に、現世で働く気もなくいるところを、小野さんにスカウトされたんですよね」

「だから、今さらのように、ばあちゃん孝行をしてるんじゃないかな」

「転移の能力も、すぐに奪衣婆さんのとこに行けるようにじゃないかと、俺は踏んでる」

 ケンタの意外な一面を、百年目にして知った梅子であった。



 梅子は、司命たちのところに、今日はノニとセンブリ茶のダブルでお願いと言いに行ったついでに、喫茶室に寄った。


「藤原さん、こんにちは。お疲れですか」

「ああ、菅原さん、聞いてくれる? 小野がさあ」

「まさか!」

「そう、その、まさか。・・・いや、待て、菅原さんは、何を想像してる?」

「実力行使で誘拐」

「さすがにそこまで無茶はしない。ただ、相変わらず、遠くから次代の子を見守りに行ってる」

「大丈夫ですか? 見つかったら大変でしょう?」


「保育園には近づかない。送迎の通り道を、毎回場所を変えて、通行人のふりをして歩いているらしい。タイミングがいいと、すれ違いざまに姿を見られるのが面白くて、ゲーム感覚になってるんじゃないかな。目的と手段が入れ替わってる気がする」

「ここにもいましたか、いい大人になって遊びを覚えたばかりに、一途にのめり込む人が、、」


「そんなわけで、実家にもちょくちょく顔を出しているみたいだよ」

「そういえば、最近、小野家の部屋で会うことが減ったなあと思っていました」

「なにしろ、それまでご無沙汰が過ぎて、久方ぶりに実家にいったら、不審者扱いされたんだって。間抜けだよね」

「なんて自己紹介したんでしょう。自称百六十五歳が、何を言ったとしても、余計怪しいですよね」

「頭がおかしいか、新手の詐欺かって思うよね。だから、俺が呼ばれた。俺はその家ともつながりを保っていて、その家の当主とはたまに会っていたんだ。でも、そこの家の若い世代は知らされていなかった。一族のうちに冥界で働いている人間がいるなんて」

「藤原さんだって、自分のこと、どう言ってるんですか。胡散臭さは同等ですよね」

「俺はもう人間辞めて死んでるけど、そこは気味悪がられるから誤魔化してる。閻魔様に、そういう便利な装置を作ってもらったしね」

「小野さんて、そういう根回しできなそう」

「だよね」


「それじゃあ、どうやって、閻魔庁で働いていることを分かってもらえたんですか」

「そりゃ、やって見せるでしょう。魔鏡で冥土通いの井戸を投影して、ダイブ。これをやられたら、大掛かりな手品と思うか、本物と信じるか」

「手品と言っても、アスファルトに仕掛けができるとは思えませんよね」

「小野篁卿のことも、当主が所縁ゆかりの品々を出してきて、若い者に説明していたよ」


「ご実家の方は、それで納得したとして、その子のお家の方には、まだ内緒なんでしょう?」

「しかるべきときに、本人に言うつもりらしい」

「閻魔様はどう考えているんでしょう」


「閻魔様は、小野のことを気に入ってるから、次代の子を無理に連れてこなくていいと言っている。優秀な官吏たちは育ったし、効率化してうまく回っているから、急ぐなと」

「それを聞いて、小野さんは」

「ますます忠義心に燃えて、やる気になってたね」

「逆効果ですねえ」

「まあ、俺らとしては、犯罪者とならないように見守るだけだね」

「ですね」


 なんとも、もどかしい梅子であった。



読んでいただき、ありがとうございました。


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