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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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57. 地獄からの脱出

「最近、食事がちょっと変わったと思わない?」

 寮の夕食を食べながら、鬼塚が言った。

「そうね、おにぎりなのは変わらないけど、お米かな、炊き方かな、ごはんがふっくらしているのよ」

 橘もそう言う。

「それに、具材も最初の頃より、ずいぶんバラエティ豊かになりましたよね。しかも、今日はこれ、じゃなくて、三種類から選べるって嬉しいですよね」

 今日の梅子はツナマヨ、鬼塚は鶏そぼろ、橘は明太子だ。


 汁物にしてもそうだ。具だくさんなのは相変わらずで、豚汁、さつま汁、中華玉子スープ、ワンタンスープなどなど、次に同じのが出てくるのは一か月以上先だ。

「食の豊かさは、心の豊かさにつながる気がする」

「鬼塚さんの場合は、地獄の責め苦の豊かさが、心の豊かさにつながっていそうですね」

「違いない」

 それから自分の好きなおにぎりの具ベスト3を選んだり、生前好きだった食べ物の話で盛り上がった。


 厨房の中でそんな話を聞いていたスタッフが、翌日、食事改善チームの仲間に、それを伝えた。


「やったー。ほらね、おにぎりの具は、毎日変わるのはいいんだけど、絶対いくつかから選べた方がいいって言ったっしょ。コンビニの棚の前で悩むのも醍醐味なんですよ」

「こんびにが何のことか分からないが、そうか、選べるのは嬉しいのか」

「だって、たまにはあんまり好きじゃないやつの日もあるだろうし、その日の気分で食べたいものって違うし」

「へえ、食事が必要でない俺らには思いつかなかったことだな」

「あと、炊き方は、ほんのちょっとの工夫で味が変わるから、ひと手間は惜しんじゃいけないってことですよ」

「お前、詳しいな。そういう仕事してたのか」

「まさか、まさか、忙しい親に代わって作ってただけだから、家庭料理止まりです」


「お前、ここに来た時から、ずいぶん変わったよなあ」

「そうよ、あの頃は、でっかい体を丸めて、自信なさそうな小さな声でさあ、すぐに泣きそうになってたよね」

「デス、マス付けてしゃべっても全然似合わなくて、見た目は獄卒なのに、中身はウサギだったよな」

「ウサギはひどいです」


「お前、現世組だろ。なんで最初に地獄に配属されたんだ? 全然、適性ないだろ」

「あっちではイキってたっていうか。見た目がいかついから、しょっちゅう喧嘩をふっかけられて、やられるばっかじゃ痛いから、せめてもの抵抗をしてたんです。体が大きいっていうのは、けんかでかなり有利ですからね、勝つこともそれなりにあったんです。小野さんには、喜々として相手を痛めつけてるように見えたんですかね」

「あー、小野さんか。連れてきたのが藤原さんだったら、ここに直行だったのに。回り道したなあ」

「でも、いいっす。地獄を経由してきたんで、ここのありがたみが身に染みるっていうか」

「それでも、よく地獄で十年頑張ったよな」

「いや、頑張ってないです。イヤでイヤで、逃げ回って怒られてばかりの毎日でしたね。小野さんも根負けしたのか、十年耐えたら、好きなところに行かせてやるって言ってくれて。今考えると、十年なんて、あっという間ですね」

「まあ、これからも、食べるのが楽しみになるような工夫をしてこうや。頼りにしてるぜ」

「ういっす」 



 翌日、梅子は喫茶室で会った小野に、食事改善されて嬉しいと話した。すると、小野は少しだけ気まずそうな顔をして、

「実は、僕の見込み違いで、調理のセンスのあるやつを、地獄の獄卒として配属してしまったことがあるんです。見た目と喧嘩ばかりの姿に勘違いしてしまいました。その彼が、先日、食事改善グループに入って、めきめきと頭角を現しているんです。彼の十年を無駄にしてしまいました」

と、懺悔するように言った。

「十年というと、私と同じ頃ですか」

「ええ、菅原さんが職場見学に来て早々、僕に泣きついてきた獄卒がいたのを覚えていませんか」

「うっすら記憶にあります。あんなに弱弱しい獄卒もいるのかと驚きましたもの」

「現世では、虚勢張ってただけらしくて。今は調理場で、すごく楽しそうに働いています。食事もますます、美味しくなると思うので、楽しみですね」

「期待してますって、その人に伝えてください」


 梅子は、これからの食事がどう変わるのか、またひとつ冥界での楽しみを見つけたのだった。



読んでいただき、ありがとうございました。


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