表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/67

56. 往年の約束

 梅子が朝の手習いを終えた頃を見計らって、閻魔様がやってきた。

 リクエストのこんぶ茶を飲んで、まったりしていると、


 チリーーーン、チリーーーン、


 ホットラインのおりんの音がした。


「はい、日本閻魔庁、担当の菅原です」

東岳大帝とうがくたいていだ。閻魔羅闍えんまらじゃは、いるか」

 

 とっさにスピーカーフォンにした。


「我だ、どうした」

「いたのか、遊びに行かぬか」

 もはや、外遊という名目さえ捨てている。

「良いな。実は我も誘いをかけようと思っておったのよ」

「ほう、珍しいな。なんぞやりたいことでもあるのか」

「うむ、近場ではできぬ」

「ならば、会って話そう。一時間後に」

「場所は三途の川で」

「承知した」


 カチリ


「というわけで、菅原の、お前の出番だ、なりきり閻魔ちゃん」

「あー、はいはい」

 梅子は、閻魔様のやりたいことがすぐに分かった。三途の川、と言ったことで確定だ。

「東岳大帝様とサーフィンに出かけるのですね。その間、私が閻魔様の依り代となって、分身閻魔様の中の人をやると。かしこまりました」


 ずいぶん前のことになるが、船遊びの際、それを提案したのは梅子なのだ。責任を取って、任を果たそう。


 閻魔様は、分身を出して、三途の川へ行かせた。

 閻魔様は法廷へ、梅子は、小野や同僚に説明するために職場へと向かった。


 それぞれが、それぞれの場所で打ち合わせを終えた後、小野の部屋に集合した。閻魔様本体、東岳大帝様、小野、梅子の四人だ。法廷には、閻魔様の分身が座っているらしい。


「行先は、中国海南島の万寧市日月湾。東岳大帝お勧めのサーフィンスポットだ」

「世界のサーフスポット十選に選ばれたこともあるぞ」

「そんなメジャーなところに、冥界の王たちが行って、大丈夫なんでしょうか」

 小野が心配そうに言うが、

「儂らがそこで何かをするわけではない。一般人と同じく、波に乗って楽しむだけだ」

と、取り合わない。それより梅子は、

「閻魔様は、冥界から現世に出てしまったら、体に負担が大きいのではありませんか?」

 こちらの方が気がかりだ。


「なに、心配はいらぬ。『板子一枚下は地獄』ということわざを知っておるか。船乗りは、船底の板一枚下は深い海という、死と隣り合わせの仕事だ。本来それは危険な状況なのだろう。

 だが、我らにとってはまさにそこが、地獄につながる安全地帯なのだ。どこの海も、三途の川や奈河と、どこかしらでつながっておる。だからこそ、かつて小野篁が我が冥界に流れ着いたのだ」

「つまり、陸地と違って、海の水に接していれば、閻魔様は無事だということですね」

「いかにも」


「それなら安心です。どうぞ存分に楽しんできてください」

「ときに、何日ほどのご予定ですか」

 小野が聞いた。

「うむ、我の身外身の法の実力から考えれば、最大二週間であろうか」

「却下です。司命さんと司録さんの我慢の限界を考えれば、やはり五日まででしょう

 ここは譲れない。司命さんたちのメンタルを守るためだ。閻魔様もそれは分かっていたようで、ごねることもなく引き下がった。



「では、さっそく行くか」

と、逸る閻魔様を押しとどめて、東岳大帝様にお茶をお出しする。冥界の国賓を粗雑に扱うわけにいかないではないか。


 それから閻魔様は、分身を一度戻し、司命、司録も見守る中、先ほどより丁寧に新しい分身を作り出し、依り代としての梅子を包み込んだ。


〔私はまた、小野さんの部屋で、ウォーターベッド睡眠ですね〕

「では行くぞ、閻魔」

「後は任せた、司命、司録」

「「かしこまりました」」

 忠実な声が重なった。

 

 こうしていつものメンバーに見送られ、閻魔様と東岳大帝様は、一路、万寧市日月湾へと旅立った。


 

 前回から十年近くたっていたが、中の人である梅子の閻魔様の所作も問題なく、司命と司録もさすがの落ち着きで、五日間を無事に乗り切った。


 ところで、帰還した閻魔様は、ずぶ濡れだった。


「ど、どうされました、閻魔様」

 慌てる小野を尻目に、閻魔様は、

「いや、なに、本当に海を漂っていたら三途の川にたどり着くのか、試してみただけだ。ちゃんと着いたぞ。奪衣婆も驚いておったな」

と、事もなげに言った。

「額から血が出ているようですが」

と、司命。

「川に入ってからは、岩場もあったからな」

「着物も、あちこちボロボロですね」

と、司録。

「滝を落ちたりもしたな」

「これ、他国訪問のために新調したものでしたのに・・・」

 司命たちのこめかみがピクピクしている。

 閻魔様が無事だった安堵と、乗り切った誇らしさと、閻魔様の無鉄砲さに、情緒が渦巻いているのだろう。梅子は、少し同情する。


 その梅子は、依り代の役目を終えて、やっと自分を取り戻した。

 早く寮の食堂のご飯が食べたい。鬼塚たちと、たくさんしゃべりたい。いそいそと柊寮に向かうのであった。


読んでいただき、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ