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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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54. 閻魔様むかし話

 閻魔様のオフ日、梅子は閻魔様と色々な話をした。

 というのも、足こぎのスワンボートは、いくら閻魔様といえど、そうはスピードを出せない。のどかに三途の川を往復するにはそれなりの時間がかかるのだ。だからその間、他愛もない会話が、ぽつぽつとなされた。司命と司録がいれば、川岸で地団駄踏んで悔しがったことだろう。


「そういえば、前から思っていたんですけど、閻魔様と小野篁卿は、どこで知り合ったんですか。閻魔庁で働くようになった経緯も知りたいです。教えていただけるのなら」

「む、別に隠しているわけではないぞ。ただ、昔の話だからな、今さら誰も話題にしないというだけだ。そんなことを聞かれたこともないしな」


「冥界は死なないと来れないのに、篁卿が生きているうちから通っているのを、周りが普通に受け入れていたのはなぜでしょう」

「あの頃の方が、地獄とか鬼とか、百鬼夜行とか、当たり前に信じられていたからな。そういう不思議の一つでしかなかったのだろう」


「それで、どこで知り合ったのですか」

「ここよ」

「こことは」

「三途の川だな」

「え、普通に亡くなって渡ってきた、・・・わけないですよね」

「間違って流されて来た」

「何がどうなって? 閻魔様、説明が雑です。面倒くさくなりましたか?」


「いや、今思い出しておる。何しろ千二百年近く前のことだ」

「すみません、そうですよね、とんでもない昔の話でした。私なんて、昨晩のおにぎりの具さえ怪しいです」

「梅しそおにぎりだったぞ」

「閻魔様も食べてるんですか」

「現世に関する知識のアップデートの一環だ」

「法要関連から、ずいぶん手を広げましたね」

「うむ」


「また話が逸れました」

「小野篁が、かつて遣唐副使に任ぜられたことは知っておるか」

「wikiで読みました」

「そして二度、唐に向けて出帆したが、いずれも失敗に終わった。その二回目で、小野篁は海に投げ出されたのだ。どの海流に吞まれたか、死にたくないという執念か、溺れそうになりながらも、この三途の川のほとりに泳ぎ着いた。我はちょうど奪衣婆のところに来ていてな、そこで小野篁に出会ったのよ」


「死者だとは思わなかったのですか」

「うむ、死装束にしては、ありえない格好であったからな。我を見て、『ここは唐か』と聞いてきたから、冥界の入り口だと教えた」

「端的で容赦ない答えですね」

「忖度する義理もないからな」

「ごもっともです。それに篁卿は、何と?」

「帰り方を教えてくれ、都の大内裏まで、急ぎ戻らねばならぬと」

「死んでないなら、三途の川を渡らずに元の世界に戻れるのですか」

「できないこともないがな、途中に獄卒も配置してある。逆方向に進む者を捕らえるのも、やつらの仕事だ。そう説明したら、ではどうしたら現世に戻してくれるのか、できることなら何でもするから、何か手はないかと聞いてきた」


「冥界の入り口で、閻魔様相手によく交渉を始めましたね」

「うむ、我もそれが気に入ったのよ。だから、閻魔庁で一週間働いたら、帰京を許すことにした」

「どうでした、仕事ぶりは」

「思った以上に優秀であった。そのまま引きとめたかったほどだ。しかし、約束は約束。今度はこちらから交渉を持ちかけて、昼は都で、夜は冥界で働かないかと誘った」

「いやいやいや、過重労働にもほどがあると、断るべきなのでは、篁卿も」

「それがな、冥界にいる間は、生命体としての活動が停止しているから、疲労がたまらないということが分かったのだ」

「なんて好都合な。当時は公務員の副業禁止なんてなかったでしょうからね」

「副業といっても、営利を目的としておらぬし、疲れないのだから、本業に支障をきたすこともないぞ」

「はあ、ワーカホリック同士、気が合ったのでしょうね」


「子孫の小野さんとはどうです? 似たところはありますか」

「うむ、まず見てくれがまるで違う。小野篁は六尺二寸(188cm)の大男であったが、小野のせがれは、せいぜい五尺六寸(170cm)だろう。だいぶ印象が違うな。

 交渉術にしても、小野篁は一度死んだ者を、我と交渉して生還させたこともあるほどだが、せがれの方は、お前を閻魔庁に就職させるのにも、ずいぶん苦労したようだな。まあ、その後の面倒見の良さは、誰もが知るところだがな」


「そういえば、その、小野のせがれって、どうして呼んでいるんですか」

「む、別にたいした理由はないぞ。ここに連れてこられた時は、まだ三つ四つのわらべであったから、直接呼びかけることもなかったのだ。あいつの祖父に話す際に、あの子のことを『せがれは云々』と言っていた名残だな」

「なるほど、なにかもっと小野家代々にまつわる何かがあるのかと思っていました。同じ魂がループしてるとかそういう」

「それは、ファンタジーな発想だな」

 閻魔様が笑った。憤怒顔のままで。

「そうおっしゃいますけどね、現世の人間からしたら、閻魔様もまさにファンタジーな存在なんですよ」

「他人事のように言ってるがな、お前もすでにこちら側だ。自覚がないのか」

「そういえば、そうでした。三途の川を足こぎボートで進んでるなんて、ファンタジーでなければ悪夢ですもんね」

「ならばもっと悪夢をみせよう」

 不敵に笑う閻魔様が怖い。

「ちょ、ちょ、ちょ、壊れますって、だめですよ、怒られます」


 梅子の不安をよそに、全力で足こぎボートを漕ぎだした閻魔様のせいで、スワンボートはあちこちガタがきて、使い物にならなくなったのだった。



読んでいただき、ありがとうございました。


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