- 柵を断つ
少しだけ、寂しい回です。短いです。
気楽なコメディだけを楽しみたい方は、飛ばしても構いません。大筋に影響はありません。
次の話もすぐ後に投稿します。
※柵
それを見つけたのは偶然だった。
梅子は、第七王の泰山王のところから届いた閻魔帳を、一冊ずつ確認していた。仕分けのためには、いちばん後ろのページに書かれている、内容を読むだけで良い。だが、その時は手が滑って、一冊の閻魔帳が床に落ちてしまった。慌てて拾おうとして表紙をつかんだら、最初に書かれていた生前の名前が目に入った。
「!?」
よく知る名前だった。
高校時代の担任で、梅子が両親を亡くした時、親身に寄り添ってくれた人だった。その後の短大への進学も、彼女の励ましと指導がなければ叶わなかった。
返しきれない恩があったのに、何もできなかった。短大も卒業していない。自分は何をしているのか。
瞬時迷った。
だが、その後悔が何になるというのか。そういうあらゆる現世のものを投げ捨てて、ここに来たのだ。
梅子は、先生の閻魔帳をきれいに整えて、仕分けのために、いちばん最後のページを開いた。先生の行く先は、地獄道の中でいちばん軽い、等活地獄だった。
先生ほどの人でも、最初は地獄道からなのかと、審理の厳しさを思い知る。
思えば、父母もここを通ったはずだ。
どんな裁きを受けたのだろう。閻魔帳もどこかに眠っているはずだが、探す気にはならない。
「あの世で会えるかもなんて、思っていた時代もありました」
自虐めいた独り言を言って、梅子は、もう二度と会えない思い出にそっと蓋をした。
読んでいただき、ありがとうございました。




