49. 三庁舎合同夏祭り
閻魔庁の喫茶室の奥で、梅子と橘、大伴の現世組三人が、額を寄せ合っている。
夏祭り実行委員の役員会だ。三人で内容をある程度詰めたら、実行委員を集めて、準備の役割分担、当日の仕事を割り振る。
こんな時にも、橘と大伴は優秀で、梅子はひたすら感心している。
「あんまり盛りだくさんにしたくないんだよね、年々エスカレートしていくのが常だから。飲食は無し。できれば全員参加型がいいと思うんだ。となるとミニ運動会的なものかな」
大伴は、実行委員会の時限定で、口調が砕ける。梅子もその方が接しやすくて助かる。
「そもそも運動会を知らないでしょうから、単純で、勝ち負けがはっきり目に見えるものがいいですね」
「そうね、最初は、チームごとに人を一か所に集めるというだけでも難しいと思うの。日本人が子供の頃から体に叩き込まれてきた集団活動は、一朝一夕じゃあ身に付かないから、二つの競技で精一杯ね」
海外留学経験もあるという橘は、日本の狭い学校社会しか知らない梅子にとって、思い込みを打ち砕いてくれるありがたい存在だ。
委員会を数回招集して、いよいよ地獄の釜の蓋が開いた。
結果は、大盛況だった。
宋帝王、五官王、閻魔王の三庁舎をそれぞれ二つのチームに分けたので、庁舎同士の競い合いの他に、庁舎内でも対抗することになったので、熱も入った。
閻魔様の分身も、宋帝王も、五官王も、そろってこっそり見に来ていたので、気づいた官吏たちは、いいところを見せようと、殊更張り切りだした。
地獄から散策に来ていた獄卒たちが、通りすがりに応援やヤジを飛ばし、その騒々しさのせいでほかの庁舎からも見物人が訪れた。ちゃっかり混じって競技に参加している者もいた。
委員会の面々は、入り乱れる官吏や獄卒をなんとかさばいて、競技を進めた。
終わった時には疲労困憊だった。
「これ、明日もあるんですよね」
梅子が力なく言うと、
「たぶん、話を聞きつけた見物人が増えるでしょうから、もっと大変だと思うわ」
橘さんも、ぐったりだ。
「企画した甲斐がありましたね。明日は二回目だから、委員の要領も良くなってるんじゃないかな」
大伴だけは、疲れ知らずで前向きだ。
「なんでそんなに元気なんですか」
梅子が問うと、
「実は、守護霊に少しだけ体力を分けてもらってるんだ。閻魔様の許可も得ているから、公式のドーピングです。こんな時こそ有効に使わなきゃ、生前の自分が浮かばれませんからね」
大伴はそう言って朗らかに笑った後、右手の親指と人差し指をキュッと近づけた。たぶん、不満そうな顔をした守護霊の頭の輪っかを、軽く締めたのだろう。笑顔も少し悪そうなものに変わっていた。
翌日も、前日以上の盛り上がりを見せ、三庁舎合同の夏祭りは終わった。
後日、他の庁舎からは、来年は混ぜてほしいという申し出があったが、規模が大きすぎると収拾がつかないので、ノウハウだけ伝えて、別口の開催とすることで納得してもらった。
梅子と橘は、寮の食堂でのんびりと夕食後のお茶を飲みながら、互いを労った。
「疲れましたね」
「学生時代のノリだわ。勢いが大事」
「でも、たまにあるイベントっていいですね。私は、主催する側になったことがなかったので、なにもかも新鮮でした」
「次の藪入り、旧正月も、派手じゃなくていいから、何かできるといいわね」
そんなふうに夏祭りの余韻に浸っていると、
「こんばんわ~、ひっさしぶり、あ、たったの二日ぶりか、元気?」
と、妙なテンションの鬼塚がやってきた。
夕食のトレーを横に置いて、
「まず、これを見てくれる?」
と、テーブルの上でスケッチブックを開いた。
「わあ、リアル奪衣婆さん。そっくり、そのまま」
鬼塚がページをめくる。
「そう! こんな顔して着物を剥ぎ取ってた。腕の筋肉すごいよね」
「木の上の着物の具合を検分する奪衣婆さん、歴戦の何かみたいに腕組みしてかっこいい」
次々とめくられるページに、梅子が感動のコメントを投げる。
「さて、ここからちょっと、テイストが変わるよ」
鬼塚がページをめくった。
「うわあ、デフォルメして、ブサ可愛くなってる。なんでこの顔で可愛いんだろう」
「おそらく、頭身ね。可愛いキャラクターは、キティちゃんをはじめとして、たいてい2頭身。ミッフィーは耳があるせいか2.5頭身て言われてるわね」
「確かに、奪衣婆さんのあばらが浮いた体が小さい。着物をぶん投げる腕も短くてかわいい」
梅子の賞賛は止まらない。
鬼塚は二日間みっちりスケッチをして、それを梅子にべた褒めされて、これ以上ない休暇となったのだった。
こうして、参加した全員の満足の内に、地獄の釜の蓋は閉じたのだが、後日、閻魔様から、
「我も競技に参加したかった。次はなんとかしろ」
という難題を持ち掛けられた。
梅子はすかさず大伴にその旨を伝え、責任を彼に押し付けたのだった。
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