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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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48. 地獄の釜の蓋

 梅子が閻魔庁に就職して、八か月が過ぎようとしていた。

 七月半ば。現世では、夏休みを前に、学生や子供たちが浮き足立つ頃だ。うだるような暑さの中でも、子供だけは元気だった。

 冥界も暦は同じだが、暑くも寒くもないので、季節というものを忘れそうになる。



「小野さん、地獄の釜の蓋って何ですか」 

 手習いをしていた梅子が、部屋に入ってきた小野にいきなり聞いた。


「突然ですね。どこでその言葉を聞きましたか」

「喫茶室で、たぶん五官様のとこの人たちだと思うんですが、今年こそくか、開かないで、賭けをしているみたいでした」

 賭けという言葉に、小野は渋い顔をした。

「ちなみに、どちらが優勢でした?」


「開く方が多かったように思います」

「そうですか、働き方改革も進んできたということでしょう」

 小野は一人で納得している


「どういうことですか」


「菅原さんは、藪入やぶいりという言葉を知っていますか」

「藪入り、、落語でそんなタイトルがあったような気がします。住み込みの奉公人が、年に二回だけ実家に帰れる制度でしたっけ」

「そうです。旧暦の盆と正月ですね」

「冥界並みの休みの無さですね。それが地獄の釜の蓋と、なにか関係があるのですか」

「地獄の釜の蓋が開く、というのは、地獄でさえ、その日は仕事を休んでいるから、現世の自分たちも仕事を休もう、ということなんですよ」

「閻魔様も奪衣婆さんも、つい最近まで、年中無休じゃなかったですか?」

「人は毎日死にますからね。三途の川まで来て途方に暮れさせるわけにいきません。ただ、地獄で亡者の責め苦を請け負っている獄卒は休みです」

「官吏たちは休みなしですか」

「このところの働き方改革で、交替で休みを取れるようになりましたから、あえて藪入りの日にこだわる必要はないと思います」

「じゃあ、賭けっていうのは」

「官吏の皆が一斉に休みを取る、というイベント感がほしいのかもしれません」

「なるほど」



 その日の夕食時、梅子は鬼塚に聞いてみた。

「地獄では、旧暦のお盆は、『地獄の釜の蓋が開く』といって、獄卒さんたちの仕事がお休みらしいですね」

「そうなんだよ。だからみんなで、ふだん行けないような地獄まで、足を伸ばしてみようって楽しみにしてる。自分だけが休みの時は、責め苦の邪魔にならないように、こそこそ見学するのが精いっぱいらしいんだ。それが、この時ばかりは、針山に登ってみたり、血の池に落ちてみたり、体を張ったアトラクションになるらしいよ。腕が落ちようと、串刺しになろうと、釜で茹だろうと、時間がたつと元の体に戻るから、安心して危険を冒すんだって」

「アトラクションの概念が変わりますね」

「さすがに私は怖いから付き合えないよ」


「じゃあ、鬼塚さんは、その日はどう過ごしますか」

「ふふふ、かねてよりお願いしていて、やっと承諾をもらえたんだ」

「なんですか」

「三途の川の奪衣婆さんに、モデルの許可をいただきました!」

 どうやら鬼塚は、月末に奪衣婆に会うたび、モデルの交渉をしていたらしい。

「本当に好きにまっしぐらですね」



 次の日、梅子が職場に行くと、やけに皆がそわそわしていた。


「何かありましたか」

 前の席の石田に聞くと、

「五官様と宋帝様のところから、今年は合同で、地獄の釜の蓋を開けませんか、というお誘いがあったんだよ」

と、期待を隠し切れない様子で教えてくれた。

「え? 休むなら、それぞれ勝手に休めばよくないですか? それに、全員が休むわけにいかないですよね。閻魔様が休むとは思えないし。不公平になりませんか」

 チッチッチ、と口で言いながら、向かいの相田が人差し指を振った。

「二日に分けて、夏祭りをしようって話だ」


 冥界、夏祭り、こんなに縁のなさそうな単語があるだろうか。でも、考えてみれば、先祖の霊、盆踊り、こう翻訳するとぴったりだ。うん、ありだな。と、梅子は思った。


「それは、どなたの発案ですか」

「宋帝様のとこの期待の新人君だよ」

 やっぱりか。

「彼の言うにはさ、効率ばかり重視しても、追い立てられるようで、余裕がなくなる。たまには遊び心を解放してあげるのも、日頃の頑張りに対するご褒美になる、だってさ。良いこというよな、新人君」


 大伴も、入庁して二か月たつが、初日の大蛇とのバトルが衝撃的過ぎて、『期待の新人君』『新人君』というのがもはや、ニックネームのようになっていた。彼に対する信頼は厚いらしい。


「というわけで、菅原さん、うちの部署からの実行委員をお願いするよ」

「俺たち、祭りといったって、何をするか全く見当がつかないからね」

「すごく楽しみにしてるから」

 皆が口々に声をかけてくれる。

「閻魔様の許可は下りたんですか?」

「閻魔様も、分身の方で参加してくださるそうだよ」

「本当ですか? 法廷を分身に任せて、本人がお祭りに来るんじゃないですか」

「最近の閻魔様なら、それもあるかもな」

「よし、それまでにきちんと仕事を片付けるぞ」

「おお」


 なるほど、これは、皆のやる気を引き出すには良さそうだ。

 梅子も実行委員として、期待に応えねばなるまいと思った。



読んでいただき、ありがとうございました。


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