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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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47. 交替勤務

「おはよう、菅原さん。あれ? どうしたの。スーツやめたの?」


 朝食を食べに梅子が食堂に行くと、先に来ていた鬼塚が声をかけてきた。今日の梅子は、昨日衣装部から届いたばかりの服を着ていた。


「スーツは、視察とかの時だけ着ることにしました。周りに馴染んで紛れるような、そんな服を目指しました。どうですか?」

 梅子は、バッと両腕を広げて、全身がよく見えるようにした。

「うん、時代は分からないけど、中国要素はあるね。色が周りと同じだから、埋没したいという希望には沿っているかな。肩の前で斜めに留めるチャイナボタンが可愛いな。たもとは控えめだね」

「はい、邪魔ですから」

「実用重視か。私ならもう少し地獄寄りのデザインを入れたいな」

「例えば?」

「背中に炎の刺繍とか、牛頭馬頭ごずめずのワンポイントを入れるとか」

「ヤンキーじゃないですか」

 そんなことを言って笑い合った。



「そうだ、私さ、今度、出向することになったよ」

 唐突に鬼塚が言った。

「え、ほんとですか」

「うん、月に二日くらいずつ。あれ、派遣ていうのかな、それとも出張? よく分からないけど、とにかく地獄以外のとこに行くんだ。ちょっと楽しみ」

「地獄以外で鬼塚さんが楽しみにするところって、どこですか」


「ふっふっふ、三途の川でーす」

 鬼塚は、拳を振り上げた。

「そんなにテンション上がるとこですか」

「なによう、橘さんもスガちゃんも、もう行ったんでしょう。私だって、一度は見ておきたいよ」

「まあ、確かに、死んで最初の大きなイベントですもんね、川を渡るのは」

「毎月、月末の二日だけね」


「もしかしたら、奪衣婆だつえばさんが休みを取りたいって言ったから、その交替要員てことですか」

「そう聞いてる。懸衣翁けんえおうさんも一緒にね」

「鬼塚さん大丈夫ですか。追い剥ぎみたいな力仕事ですよ」

 奪衣婆はガリガリの老婆であったが、体は相撲取りよりはるかに大きかった。

「それは獄卒たちの仕事だから。私はその監視役。いつも通りスケッチブック持参で描き放題。もう楽しみ過ぎてどうしよう。奪衣婆さんもモデルになってほしいって頼んでもいいかな」

「いや、奪衣婆さんの休暇を奪っちゃダメでしょう」

「まあ、仲良くなったら、そのうち頼んでみるわ」


「三途の川までは、どうやっていくんですか?」

「行き先限定の転移装置を貸してもらうことになってる」

「そっか、楽しんできてくださいね。仕事に、楽しんでって言うのも変だけど」

「いいの、いいの、私は毎日楽しんでるよ。冥界ハッピーライフ万歳!」

 浮かれ切った鬼塚の様子に、梅子も嬉しくなった。

 

 まさかその数日後、鬼塚がげっそりと疲れ果てて帰ってくるとは思いもしなかった。



 梅子が橘と食堂で夕食を食べていると、

「久しぶりぃ~~」

と、力ない様子で鬼塚がやってきた。

 食事トレーに乗っているのは、おにぎり一つだけだ。


「出張お疲れ様です。夕食、それだけですか?」

「やばかった。三途の川は、やばかった」

 鬼塚の目は、うつろだ。

「どっちの意味の、やばいですか。 スケッチし放題で張り切り過ぎましたか?」

 うすうす違うと思いつつ、梅子は聞いてみた。


「奪衣婆さん、すごいわ。

 最初に、獄卒たちに着物の剥ぎ方を見せてくれたんだけど、ぐっと掴んで、バッて剥ぐの、簡単に。それで懸衣翁さんに放り投げる。枝のしなり具合を見て、川の渡り方を指示する。ただ、それだけ。それだけのはずなんだけど、獄卒三人の手に負えない。懸衣翁さん役は別にいるんだよ。

 でも、ぜんぜん追いつかなくて、川から逃げ出そうとするやつも現れた。私もスケッチどころじゃなくて、追いかけて着物を剥ぎ取る。まさに追い剥ぎ、やってきました」

 鬼塚は、ばたりとテーブルに伏した。

「それは疲れたわね。お茶を飲んで一息つきましょう」

 そう言って、橘はほうじ茶の湯飲みをコトリと置いた。

「ありがとう」

 鬼塚はゆっくりと茶をすすった。


「二日目になったら、少し慣れましたか」

「いや、ぜんぜん。抵抗する人の着物を脱がせるって、とんでもなく重労働だよ。あの人たち、死んでるのに、なんであんなに元気なの?」

「人のこと言えませんけど」

「まあね。二日目の終業時間が待ち遠しくて、待ち遠しくて。奪衣婆さんが、少しだけ早めに来てくれたのがもう菩薩のように見えたよ」

「コツがつかめるまでは、大変そうですね」

「うん、早く高みから見下ろして、スケッチしたいよ」

 鬼塚はそう言って、梅おにぎりをパクリと食べた。



 その頃、奪衣婆と懸衣翁の二人は、

「まだまだ若い者には、任せられないねえ」

と、川のほとりで話をしていた。

「儂も、急に二日も休みをもらったところで、やることもないし困ったぞ。だから、陰からずっと若いもんのやり様を眺めておった」

「なんと、せっかくの休日というのに、若い者らを見守っていたのかい」

「そういう奪衣婆は何をしていたのだ」

「ワシはな、ちょっと足を伸ばして、さいの河原の様子を見てきたさ」

「ガキどもの世話か」

「世話ってほどじゃないさ。泣いてる子と一緒に遊んでやっただけよ」

「ふん、お優しいこって」

「毎日毎日、石を積んでは崩されて、たまには遊んだっていいだろう。獄卒どもには、少しだけ大目に見てもらったさ」

「まあなあ、あの子らが悪いわけでもないもんなあ」

「だろう」


「ほい、また次が来たぞ。仕事だ、仕事」

「あいよ、休んだから、気合入れてやるか」

「そうさな」


 奪衣婆たちもまた、日常に戻ったのだった。



読んでいただき、ありがとうございました。


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