46. 視察(3) 第三王 宋帝様
初江王の庁舎に視察に出かけてから、まだ日も浅いと言うのに、小野から次の視察を指示された。
「今度はどちらですか」
「宋帝様のところです」
「・・・大伴さんが配属されたところですね」
「そうです。大蛇と化け猫が大人しくしているかだけ、早めに確認しておきたいのです。業務改善の方は、まだ形になっていなくても構いません」
「・・・」
「菅原さん?」
「・・・」
「どうしました?」
「無理です、これだけは無理です。大蛇ですよね。蛇でしょう? しかも巨大なんでしょう?」
梅子は早くも涙目だ。
「実はそう言うだろうと思って、対策を考えてあります」
「どんなですか」
梅子は猜疑心を捨てられないまま、小野の対策を聞いた。
「最終的に、閻魔様を信じるか否かということですね」
「閻魔様を疑うのですか?」
小野が信じられないという顔で聞いた。
「だって、閻魔様、分身だとなんだか解放されたみたいに自由な感じで、私の話をちょいちょい無視しますよ」
「そうなんですか。想像もつきませんが」
「そうなんですよ。身外身の法でこしらえた分身は、孫悟空の性質を帯びるんじゃないかと、ちょっと疑っています」
「我をサルと一緒にするでないぞ」
急に現れた閻魔様に、梅子も小野も驚いた。
「どうされました? 視察は明日ですが。事前に打ち合わせが必要でしたか」
「いや、抜き打ち視察だ」
「ほらまた自由なことを言い出したでしょう? 閻魔様、さっそく分身で来ましたか?」
「そんな訳あるか。正真正銘の我だ」
「視察は明日と通達してある。大蛇も化け猫も、我が行くと分かっていれば、殊勝にしているからな。見るべきは普段の姿だ」
「私は、大暴れしている大蛇も、殊勝にしている大蛇も見たくありません。閻魔様、私の視力全部お貸ししますので、大蛇を見るのは勘弁してください」
「相分かった。化け猫の方はどうだ」
「ギリOKです」
「承知した。今から行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
小野に見送られ、閻魔様の分身を宿した梅子は、しぶしぶ宋帝王の庁舎に向かった。
『閻魔様、閻魔様、大蛇の様子を見てください。どうですか、いますか?』
「あれ、菅原さん、どうしたんですか。視察は明日だと聞いていたんですが」
聞き覚えのある声に、思わず振り向くと、大伴が化け猫の一匹を抱きかかえて立っていた。
「でかっ」
思わず梅子が声にしてしまったほど、化け猫は可愛くないサイズだった。
「はい、実は、取り繕っていない大蛇の様子をこっそり見に来ました。視察の約束は明日です」
「ああ、大蛇どもなら大人しいものですよ。宋帝様が呼ぶまでは法廷に来ませんし、新たにやってきた死者を通りすがりに痛めつけるような真似もしなくなりました」
「そんな簡単に改心するものでしょうか」
梅子がそう訊ねると、大伴は困ったように笑って言った。
「あれから二度、戦いを挑まれました」
「同じ大蛇にですか」
「いえ、ナンバー2のヤツです。この機に下剋上を狙ったみたいです。俺が勝ちましたけどね」
「もう一回というのは」
「最初の大蛇です。今度は忖度なしで、勝たせてもらいました。そうでないといつまでも終わらなそうでしたから」
「化け猫さんは、いつもそんなふうに大人しく腕の中に納まっているのですか」
「ええ、かわいいでしょう? 毎日、日替わりで抱っこしています」
大伴はニコニコだが、化け猫の方は表情をなくしているように見えた。
「守護霊はどうですか」
「ええ、緊箍児のおかげで、いい働きをしてくれます」
「それは良かったです」
「あ、菅原さん、見えますか。三途の川の端に、大蛇たちが水を飲みに来ています。大人しく列をなして、順番に飲んでいますよ」
梅子は、事前の打ち合わせ通り閻魔様に視界を預け、確認してもらった。
「大蛇が落ち着いたのを、確認できて良かったです」
「それでは、また明日、改めて宋帝様のところに参ります」
梅子は、大伴にそう告げ、なるべく川の方から目を反らして、閻魔庁へと戻った。
翌日、梅子は正式な視察に訪れ、宋帝王からは、大蛇と化け猫の邪魔を受けないだけで、三割増しに仕事がはかどるという報告を受けた。そして、大伴を配属してくれたことに、再三の感謝を伝えてくれと言われたのだった。
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