4. 名にし負はば
「私の名前って、縁起が悪いですか?」
思いがけないことを言われて、梅子は戸惑った。
「気に入ってるならごめんね。菅原か梅子のどちらか単体なら気にならないんだけど、合わさるとどうしても菅原道真公を連想してしまうから」
「学問の神様ですよね。私、受験前に天満宮までお守り買いに行きましたよ」
「冤罪で大宰府に流され、非業の死をとげ、ついには怨霊になったんだよね。梅は道真公がこよなく愛した花ですよ。梅子さんの家の家紋も、梅鉢じゃない?」
「家紋の名前は知らないけど、そういえば天満宮に行ったとき、見たことある紋だなあと思った覚えがあります」
「それで、そんな名前を持つ梅子さんだから、幸薄いかも、なんてね、思ったわけです」
「名前に引きずられたのかな、私の人生」
「だから、冥界で第二の人生歩みましょうよ」
「なんだか微妙に悔しいんだけど。
小野さんはどうなの、下の名は?」
「崇、です」
「昭和っぽい」
「え、そうですか。比較的新しい印象なんですね」
「今、古臭いって意味で言ったんだけど」
「祖先の小野篁から『たか』の音をいただいて付けたそうです。由来が平安時代なことを考えると、昭和なんて超最近ですよ」
「小野篁って、聞いたことあるような気がする」
「百人一首だと、参議篁で出てきます」
「知ってる! 八十島かけて漕ぎいでた人でしょ。小野さんの祖先も、隠岐に流されてるじゃない」
「二年で許されて帰京してますけどね」
「赦免マウント止めてもらえる? それで、そのご先祖様も、閻魔様の補佐をしていたの?」
「そうです。昼間は朝廷で官吏として働き、夜間は閻魔大王の元で裁きの補佐をしていたんですよ。昔の公務員は兼業禁止じゃなかったんですね。よくぞ過労死しなかったものです。
詳細を語ると長くなるので、続きはウィキペディアでどうぞ」
「手抜きですね、ほんとにあなたのご先祖さまなの?」
「嘘はつかない主義です」
「出会いからこの瞬間まで、徹頭徹尾、嘘で固めててすごいわ。
でも、ありがとう。ちょっとだけ元気出た。明日からまたどこか拾ってくれるとこを探します」
梅子が素直に感謝を示すと、小野は、くわっと目を見開いて、信じられないという顔をした。
「な、何を言ってるのかな。僕の話、全部嘘だと思って聞いていたんですか?」
「え~、まだ続くの。終電は避けたいんだけど。お会計は私が持つから、これでお開きにしましょう」
「うわ、ダメだ、生きる気力が戻ってしまっている」
「うん、でもまた、今日のような気分になったら、その時は小野さんについていくから、よろしくね」
「職場見学もありますよ」
「まだ、言うか」
未練がましい小野に、笑いが込み上げた。
「じゃあ、また」
梅子は、ほろ酔い気分で手を振って、居酒屋の前で小野と別れた。
残された小野は、しっかりした足取りで去ってゆく梅子の後ろ姿を見送って、ため息をついた。
「また失敗かあ。報告書書かなきゃ、・・・」
予約したカプセルホテルへと、小野は重い足を運んだ。
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