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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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37. 外遊の余波

 閻魔様が帰還した翌日


「おはようございます。手習いに来ました」

 小野の部屋に、梅子が元気に現れた。

「おはようございます。閻魔様の依り代、お疲れさまでした。調子はどうですか」

「ウォーターベッドも良いですが、いつもの硬めの布団が安心しますね。着ぐるみの時は、視界は良好なのに、地に足が着いてない感じで、自分ではないようでした。私はやっぱり体を張るより、事務職が向いているようです」


「そうですか、では閻魔帳の仕分けのほかに、五官様のところから来た閻魔帳の内容を、罪状にまとめるための要約も、手が空いたらお願いします」

「はい!」

 梅子は一つステップアップを果たせたようで嬉しかった。


「あー、それから」

と、小野が言い淀んだ。

「何ですか」

「ケンタですが、おかしな誤解をしていて、変なことを言ってくるかもしれませんけど、スルーしてください」

「?」

「なんというか、ここ最近、菅原さんが仕事場にいなかったでしょう? 目に見える存在としては」

「はい、そうですね」

「現世への出張はまだ行けないはずだから、僕の部屋で仕事をしていることにしたんです」

「まあ、妥当な線ですね」

「そうしたら、閻魔様との恋愛のもつれ、という風に勘違いしたらしいです」


「はあああああ?」

「すみません。訂正できませんでした」

「どこをどうとらえたら、そういう思考になるんですか?」

「まず、あれだけ閻魔様につきまとっていた菅原さんが引きこもって出てこないこと。閻魔様が、日に日に弱体化してきていたこと。そのことから、閻魔様の恋わずらいに違いない、と思ったらしいです」

「うわあ、めんどくさい。それ、閻魔様本人には言ってないですよね」

「温かく見守ろうと言ってましたから、黙っていると思います」

「温かく見守られたくないです」


 そこで梅子は、はたと気づいた。


奪衣婆だつえばさんて、三途の川のところで、死者の着物を剥ぎ取っているお婆さんでしたよね」

「話が飛びますね。それが?」

「閻魔様の奥さんだと、Wikiに書いてありましたよ」

「はあああああ?」

 今度は小野が叫んだ。

「近世には、そういう説がある、ってだけですけどね」

「うわ、それ閻魔様、嫌がりそうですね。菅原さん、内緒にしてください。司命さんたちにも」

「もちろんです。閻魔様に、浮いた話は似合いませんよね。それにしてもケンタのやつ、早とちりが過ぎるでしょう」

 そんなぶすくれた気持ちで書いた書は、美しくない出来栄えだった。


 手習いを終え、片づけをしていると、小野家の部屋に閻魔様が入ってきた。


「おはようございます。どうされました? お茶淹れますか」

 小野が対応するようなので、梅子は職場に向かうことにした。

「いや、菅原に話があって来た。茶は、落ち着くやつを頼む」

 小野が、はいと言って、キッチンに消えた。


「話とは何でしょうか」

 やっと日常に戻れそうなのに。

「案ずるな、外遊は当分ない。そのかわり、冥界内の視察を手伝ってほしい」

「また着ぐるみ役でですか?」

 梅子があからさまに嫌そうな顔をしたので、閻魔様は苦笑した。

「いや、今度はちゃんとした依り代としてだ」


 閻魔様の話によると、冥界の王として、かつては各地を視察して現状を把握したり、官吏たちの不満を聞いたりしていた。しかし、死者の増加により多忙を極め、また十王経由で全体の把握は行っていたため、閻魔様が直接赴くことはなくなっていた。死後の行く先さえきちんと示すことができれば、それで良しとしていたのだ。


 ところが、先日の東岳大帝様との外遊で、中国冥界の何か所かを巡り、考えを新たにした。


 ここの閻魔庁では、各部署における業務改善や、死者への待遇改善などは、書面にて報告がなされる。部下にその現状を確認に行かせ、問題がなければ閻魔様が承認する。つまり、大抵のことは事後報告で、事前の相談はない。

 特に近年は働き方改革を前面に出したので、そこかしこで変化が生まれた。


「それをボスのおぬしが、いちばん最後に知ってどうする。時代に取り残されるぞ」

 外遊の案内人たる東岳大帝様にそう言われ、己を振り返った。

 かれこれ千年以上、世間を直接見ていなかった。

「千行の報告書より、己の目で見た方が確かだ。おぬし自信が足を運ぶのが無理でも、あの娘の目を通して見れば良いではないか。こうして身外身の法を会得したことだしな」


「ということで、菅原よ、依り代として我の分身をその身に宿して、冥界を視察して回れ」

 閻魔様は、これはもう決定だというように言い渡した。


「せっかく小野さんから、新しい事務仕事もらえそうなのに」

 梅子は思わずこぼした。

「今までの仕事では、物足りぬのか?」

「これまでは、ひたすら読んで仕分けする仕事でした。今度は読んで、要約して、書くところまでがワンセットです。官吏として、一つランクが上がった気がします」

 きりっとした表情で梅子が答えた。


「菅原さん、冥界の王である閻魔様からの勅命を受ける方が、よほどランクが上でしょうに」

と、笑いながらキッチンから出てきた小野が言った。小野は三人分のお茶をテーブルに並べ、

「リラックス効果のある、ラベンダー茶です」

と紹介した。


 閻魔様は茶を飲み終えると、

「昨日の今日でまた依り代の仕事をしろとは言わん。視察先を司命たちと相談の上、これからスケジュールを組む。菅原は、その心づもりだけしておくように」

 そう言って部屋を出ていった。


 がっかりしている梅子に小野は、

「視察となれば、あちこち見て回って、それをレポートにまとめる仕事がありますよ。書き仕事です。しかも単なる書写ではなく、自分でまとめる能力も必要です」

と、元気づけるように言った。

「閻魔様が、私の中から一緒に見ているのに、それを報告する必要があるのですか?」

「一人では気づかないこともあるし、視察の内容は、司命さんたちはもちろん、閻魔様直属の部下や、他部署にも報告が回ります。そのつもりで頑張ってください」

「はい、よく考えれば、これは閻魔様から認められたってことですよね。選り好みをしようとしていた自分が恥ずかしいです」

 梅子は初心に立ち返って、自分の仕事に向かおうと思った。



読んでいただき、ありがとうございました。



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